表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/150

集結地、田穂乃平。【改稿版】(3)


「ん?そこに控えるわ、ひょろひょんか?ひさしいな!!」


 こう話し掛けてきたのは、良く陽に焼けた筋骨隆々たる騎乗した瀬の小さな武将で、彼は、草原を左右に分けて抜ける表街道の一本道を黒々とした甲冑を身にまとった数百の軍勢を引き連れ、空気揺らめく陽炎の中からあらわれ、ひょんひょろに対して、如何いかにも親し気な様子で顔をほころばせて、表街道の道端みちばたかしこまってかしずいている、ひょんひょろの一行に声をかけたのだ。


 この小男。名を【神鹿兵庫介親利かぬかのひょうごのすけちかとし】と云う。


身分としては茅野家配下の外様とざまである。この身分にありながら飯井槻さまの父君の代から彼の父上共々重く用いられ、現在においても常日頃から大層可愛がられ、当人もまた茅野家、というか、飯井槻さまに絶大なる忠義心を寄せている武将である。


兵庫介の差配する領は、茅野領は南西部に位置する山岳部を中心に貫高・七千貫【三千五百石】を持ち、また支城や砦を山間部に幾つか所有する神鹿山城主かぬかやまじょうしゅでもあり、そのうえ、茅野家きっての武名を轟かせる猛将であり作事普請さくじぶしんを得意とする家柄でもあった。


 そんな彼のよわいは数えで二十八【現・二十七歳】。


 姿も、見た目通りの偉丈夫いじょうぶである。


この小柄な武人が、これ見よがしににこやかに、さも親し気に右手を挙げてひょんひょろを呼ばわったにも関わらず、彼の姿をの見据えた途端。なぜだかすぐさま表情を曇らせ、苦虫を大量に噛みつぶしたような何とも形容しがたい顔色へと変化させてしまった。


その理由は、、、と云えば。。。


 まあ、なんとも子供じみて馬鹿な話なのだが、背がひょんひょろの方が圧倒的にデカい。というどうでもいいモノであった。


 ただいま、曲がりなりにも兵庫介は馬に乗っている。つまり騎乗しているのである。ひるがえってひょんひょろは供を連れて地面でかがんでいる。だが、それにも関わらず、ひょんひょろの頭と自分の顔の位置が同じである事が気に入らず、思わず、わらべみたいに顔を盛大にゆがませふくれたのだ。


 …そうこの小男。悲しいかな背丈が当時の常人よりもだいぶんと低い。僅かに四尺六寸【1m38cm】しかなかったのだった。



 くっそ。この身長の差分さぶん如何いかがなものか…。



 ひょんひょろから即座に顔を背けた兵庫介は、動揺をかくすため馬の尻を無駄ににらんでほぞを盛大に噛んだ。…口中にみじむ鉄の味がした。


「いッて!くっ、、……ま、まあいい。してひょろひょんよ、出会ってそうそうアレだが、飯井槻さまは無事息災であられるかな?」

息災そくさいにございます》

「されば、よし!」


 こう言い放った兵庫介は、さも満足げに深く何度もうなずいた。頷くことによって、彼は自身の心の平穏も取り戻そうとしている。


「では、お主も我らに付いて参れ、物語でもしよう」


 兵庫介はひょろひょんを立ち上がらせ、かたわらの打ちくいに繋がれていた奴の馬に騎乗させた。


 しても、馬に乗れば乗ったで儂より頭三つ分。いやいや、頭五つ分はデカいな。。


 ひょろひょんの余りの背丈に絶句した兵庫介は、また気を改めようとして奴に付き従う二人の武士を見やって、またも愕然がくぜんとした。


 兵庫介にとっては困ったことに、一人の武士はひょんひょろ程ではないにしても、ざっと見、奴に負けず劣らず背が高く、兵庫介程の身の丈がありそつな大太刀おおたちいた偉丈夫であり、いま一人はこちらまで爽やかな気分になりそうな、とても涼し気な面持ちを覗かせるスラリとした優男やさおとであった。


 どちらも、儂には一切ないかもしれない雰囲気持ち。と、兵庫介は一種独特な雰囲気を持つ男たちに驚かされた。


 彼らもまたひょろひょんの後に続き、すっくと立ち上がるのを見て兵庫介は、もやもやする気分晴らしの話でもしようと、ひょろひょんに対してこちらに馬を寄せるよううながした。


「で、早速だがひょろひょんよ。此度こたびの戦はやはりアレか。国主様の皮を器用にかぶった卑怯者ひきょうものめらが、そうなるように仕向けたゆえに起こりおった戦であるのか」


 取り敢えず気を取り直した兵庫介は、何故なにゆえ東の三家が国主様に御謀反に及んだのかを尋ね置くことにした。


《左様。おそらくは卑怯者。…彼の深志家にはかられたのでございましょう》


 …だろうとは思っていた返答が、ひょろひょんの口から述べられる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ