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東の三家(3)

今回は短いです。


話の都合上、こうなってしまいました。


実はこの「東の三家」は新たに書き起こした部分でして、これからの話の都合上、この話はここらがよかろうと思い書いた次第です。


本来であれば、もう少しだけあとに出てくる話でしたけれどもね。


では皆さま、今回もお楽しみくださいませ♪

「ふむ。あれが件の軍目付の役宅だな」


 門の位置から一段、いや二段は高い土地に位置している役宅を下から臨み、兵庫介は落ち着いた口調で言った。


 まあ、大目付の役宅とは申しても、実際にはこの御門を守護していた将兵どもが普段詰めていた小屋であろうな。


 見るからに、御城の防備を司る者共が生活していたと思わしき造りの、自称『軍目付役宅』小屋に比べ、潜り抜けた厩戸の御門は壮麗な大手御門に比べみると、その大きさと重厚さにこそ欠けるものの、放火よけの鉄板が門の下半分に巻かれ、門を形作る構造材も厚みのある硬い(かし)材で(こしら)えられており、その有様はまさに堅固そのもので、如何(いか)此処(ここ)が国主家にとって重要な防護施設であるかを物語る形を成していたのだ。


 されど、左様に重々しい御門の内外では、深志家の役人を相手に声を潜めて騒いだり騒がなかったりと、なにやら忙し気な他家の者共がそれなりの人数で詰めかけており、これを馬を操り巧みに避けつつ神鹿家一行は、厩戸の御門をサラッと通り抜けてしまった。


「ここいらで良いか」


馬の行き脚を止めるよう指示した兵庫介の一言で、門の内側にある広やかな侍溜まりの、見事なくらい掃き清められたまっ平らな地面を踏みしめ、一行は皆、下馬したのだった。


「さて取り敢えず、軍目付けに挨拶を致さねばならぬであろうな。左膳よ頼めるか」


 兵庫介は愛馬の手綱を自身で握り左膳に役宅に赴き、深志家の軍目付に茅野家の軍奉行が尋ね参ったと、取次を通じて伝える様に申し渡す。


「心得た」


 兵庫介の意をくんだ左膳は、愛馬の手綱を武者の一人に預けると、役宅に向かって速足で駆け込んでいった。


 のだが、何故だか役宅に上がる石段を登りきったところで立ち止まり、防御の柵の内側でしきりに周囲を見回した後、急ぎコチラへと舞い戻って来たのだ。


「殿様よ、ありゃムリだ」

「どうしたのだ」


 兵庫介は首をひねりながら尋ねる。


「役宅が他家の連中でごった返して居る。それとの……」


 背が常人よりも大分高い左膳が、腰を大いに曲げて屈みつつ兵庫介に近付き、何事かを伝えるそぶりを見せる。


 お前殊(こと)(さら)に屈むなよ。儂が悲しくなるだろ。


 背が並の女子より幾分か低い兵庫介は、少しだけ心が折れそうになった。辛い。


「左様な事はどうでもよい。ささ、殿様、御耳を」

「はいはい」


 だが、かといって話を拒むわけにもいかず、兵庫介は左膳にせがまれるまま素直に耳を差し出す。


 左膳は熱い息を幾分か涼しくして囁く。



「……それは、誠か…」

「役宅に詰め寄りし他家の者共が、左様申しておるのを聞き及んだ次第」

「東の三家が深志が遣わした土豪めらの軍勢に、勝った……だと⁉」

「左様、如何にも勝ち申した」


 これまで此の国の東の国境を護っていたとはいえ、敵対する深志側に比べれば、僅かばかりの兵しか持っておらぬ三家のみの力で戦に勝ってしまうなど、通常なれば有得ぬ事だ。


 兵庫介はてっきり東の三家は領地に引き篭もり、固く城塞を護っておるモノとばかり思っていたのだ。


「誠、なのだな?」

「偽りなし!」


 再度確認した兵庫介に、左膳は力強く肯定の返事をする。


 これは、面白くなってきた!!



 ここに、兵庫介が予想だにしていなかった、まさに茅野家にとっては幸運とも呼ぶべき事態が、突如勃発したのであった。


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