割とキツめの酔い覚まし(4)
おこんばんわ♪私です。
今回は少し短めになります。
その理由は簡単で、【割とキツめの酔い覚まし】は、今回で終了でして、次回からはまた新たなサブタイトルとなるからなのです。
では皆さま、第二十八部を、どうぞお楽しみくださいませ♪
兵庫介も寿柱尼様に一度だけ会ったことがある。添谷家に若い時分使いに走らされたことがあり、その折に、とある寺の門前で、へたって座り込んでいた尼さんがいたので声を掛け、用事を早めに済ませた後に、おぶって近くの尼寺まで運んでやった事があったのだが、それが寿柱尼様であらされたのだ。
彼女は、実にたおやかな話しぶりをなされる涼やかな御人柄で、身のこなしも美しく、うちのあばずれ…………。いや、元気溢るる飯井槻さまとは対照的な、ホントに同じ生き物なのかとつい疑ってしまうくらいに素晴らしい女性であらせられた。
「まあの、寿柱尼様は見た目そんな御方じゃ。じゃがの年嵩を経て、一筋縄ではいかない御方にもなられて居るのじゃぞ」
「そうなのか?」
「そうじゃ、じゃから兵庫介よ。誠に残念じゃが、お主が思うとる手は即座に見透かされること請け合いじゃ」
飯井槻さまは云う、左様に見え透いた手は添谷の当主ならいざ知らず寿柱尼には通じぬと。
彼女は彼女なりに広く世間を見通しており、常に添谷家の将来を鑑みて、最善の手を打つであろうとの事であった。
要は、寿柱尼様が心から望む状況を手助けするのが、此方として出来得る最上の策であるらしかった。
「で、その策とは?」
「内緒じゃ」
「そこを何とか」
「考えるのじゃ兵庫介よ、それがあとあとお主の宝となるやも知れぬぞ?ふししし♪」
あんたは儂の母親か!バカにしくさってからに。
とは申せ、飯井槻さまが何を企み、何を為そうとして居られれるのか、未だに皆目見当もつかないのだから仕方ないと云えば、仕方なしか。
「ゆるりと目線を変えて考えるのじゃ兵庫介よ、空を舞う鳥のようにの。さすれば、自然と見えてくるものもあろうと云うモノじゃぞ」
「左様なモノかな」
「左様なモノじゃ」
ふ~む。空から眺める目線のぉ~。
再び腕組みした兵庫介は、板間の板目を見たり天井板の節目を見たりと、目線をぐるぐるさせて思考をしてみるが、一向に良い考えが浮かびそうにはなかった。
「そういう意味ではないんじゃがの……」
飯井槻さまが呆れ顔で何か言って居るが気にしない。
こういうことは、何かコツさえ掴みさえすれば閃くモノであるのかもしれんではないか。
「聞いておるのかや、お主は?」
「あっと、これは失礼仕った。で、なんでしたかな」
「うっかり言い忘れておったのじゃが、皮袋と面談した際に協議して決めたことなのじゃがの、お主を我が軍勢を束ねる軍奉行にしたからの、宜しく頼むの」
「は?」
「ではのう、わらわはそろそろ寝るから。あっ!そうそう。明日の朝一番で御城に上がって打ち合わせをしてきてたもれ」
「はあ?ちょっと飯井槻さまよ、いきなりどういうことだ。実際に戦を指揮なされるのは戍亥さまの筈、あの方の処遇は如何になされるのだ!」
軍奉行とは常に大将の側にあって、軍全体の実際の総指揮を預かる者のことだ。儂の様な外様身分としては、常に先鋒辺りを言いつかるのが仕来りの筈で、儂のような輩の就くべき役職ではない。
「此の事は参爺も承知の上じゃ。とりあえず厩戸御門の先にあるらしい、深志家の軍目付が住まう役宅に赴けば委細、何とかなるそうじゃからの」
いつも此方の都合も考えんと、なんと勝手な方々なのだ。
「飯井槻さまよ」
「うん?なんじゃ」
「飯井槻さまよ、あんた深志に負けるやも知れぬと考えたことは……」
「無い♪」
飯井槻さまは左様に即答され、さっさと次室から現れた侍女に囲まれ楽し気に奥に消えて行かれた。
「ならば、最後まで付き合うしかないか」
兵庫介は奥書院の板間の上で武者震いをし、激しく地団駄を踏み、大きく息を吸い込んでから背伸びをした。
「うん?そういや甚三郎様の御妻女様は、どこにいった?」
此処のところ、というか、飯井槻さまがいらっしゃる前から顔を見ておらぬことに、今更ながら気付いたのだった。




