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気味の悪し男。【改稿版】(4)


「先の道をふさぎたるは、我らを出迎えに参ったと申す。鱶池金三郎様とその手勢にござる!」


自らの秘めたる性癖をかえりみていた兵庫介のそばに戻り、土煙を上げ馬首をひるがえし並走した右左膳が、馬の行足いきあしを揃え声高に報告する。


「まことに金三郎本人か?」

いつわりなし!」

「判った」


兵庫介が言い終わるやいなや、左膳に代わり先頭を任された蕨三太夫に目配めくばせした。


早駆はやかけぇーい!!」

「「「おう!!!」」」


先鋒隊を率いる蕨三太夫の号令のもと神鹿勢は一斉のときの声を轟かせ、馬を襲歩しゅうほで駆けさせる。


これに後続する徒士かちどもも早駆けに移り、その揃った足並み、鎧ずれ腹巻のきしむ音が田園に鳴り響く。


やがて見る見るうちに鱶池勢側との距離が縮んでいく。


彼等きゃつら如何様いかようたくらみがあるやも知れぬからな、念のため奴の首筋まで近付かせてもらう」


兵庫介は後ろから付いてきているひょんひょろに、万一の備えの為、また鱶池に先手を打たせぬよう、金三郎の胸元まで飛び込んで動きを封じてしまう策に打って出た事を告げた。


すると、我らの一連の動きにひどく驚いたのか、鱶池家の侍が慌てふためいた様子で一騎駆けでこちらに走り寄り、前方で立ちはだかる形で馬を道に横断させて停止し、神鹿勢に対し声を張り叫んだ。


「お待ちあれ!お待ちあれ!!あちらおわすは添谷家が御家老、鱶池金三郎様にござる!出迎えでござる!出迎えにござるぞ!!」


はん!それがどうした?目の前に大将がおるなら、我らにとっては吉報。誠にもって好都合ではないか!


「どけい!」

「うあ!!」


神鹿勢の勢いに気後れしたのか、鱶池ふけの使者は道の端に馬ごと飛びのき、我らの前進を茫然とやり過ごすしかなかった。


兵庫介がすり抜けざまに見た使者のよそおいは、甲冑姿ではなく平服であった。


蕨に代わり先頭に立った兵庫介は、配下をぐるりと見回して(気は抜くな!)そう目配せを行うと、うわ!うわ!と、狼狽うろたえ慌ててるしか出来ない鱶池金三郎らのもとへと鞭を振るい愛馬を叱咤しったし、一目散に突っ込んでいった。


駆けること口で数えて二十と五つばかりした頃。瓦解がかいし逃げまどう鱶池家中の真っ只中へと辿り着いた神鹿勢は、一応の礼をしっしないよう皆一斉に下馬しひざまづいてはいたものの、鱶池家一行をぐるりと取り囲んだ態勢であったので、鱶池側の動揺は収まらない。


「お久しゅうござる。金三郎様」

「おわっ!わ、わわ…」


 この位置なら儂の一刀のもと、金三郎の首は宙に舞う。


この事実を確認した兵庫介は、おもむろに落ち着き払った動作で鱶池金三郎の足元に片足立ちでひざまずき、わざとらしく大仰おおぎょうに、金三郎に恐懼きょうくしたようにかしこまり、片膝立ちで座しながらチラチラ汚らしい爺の顔を覗き見てやる。


 これはこれは面白きかな。コヤツの顔一面、涙と鼻水塗はなみずまみれではないか。


「…金三郎様どうなされた?神鹿兵庫介。御前おんまえ只今罷ただいままかり越しましたが?、何か不都合でも御有りかな?」

「うや!…や。…やあ。ひ、さ…ぶっ!久しぶりじゃに…。ふう」


とても添谷家の家老とは思えぬ無残むざんな慌てぶりを、鳥の糞じみた大粒の脂汗あぶらあせと共に黄ばんだ手拭いでぬぐい去った金三郎は、にちゃ~っとベタベタ肌にへばり付きそうな笑みを浮かべて、先程までの醜態しゅうたいを取り繕う様に兵庫介に挨拶を返した。


おうおう面妖な顔つきに体つきよの。まるで常世とこよに迷い込んだ餓鬼がきか妖怪の類いだな。


実のところ、この汚らしい老人と儂とは、余り面識はない。


「金三郎様、したたかに大汗をかかれておられまするが、何ぞあられましたかな?」


取り敢えずコイツめがけて突進した無礼を侘びた。


ん?これは詫びにはなっていないか。嫌味かな?まあ、儂は気にしないでおこう。


「かまわにゅ。かまわにゅ!わちゃぁーよ!なにやらお主が懐かしゅうてにょ!わざわざ出迎えに参っただけだにょ!こうも早う会えて、わちゃはうれしい限りだにょ!」


うっわ。相変わらずしゃべり方がスッゴイ気持ち悪い。


しかしそれより申したき儀、これあり。


あのな、お前な。一体どういう了見でこれまで我らがこの道を使う度々《たびたび》挨拶あいさつに行こうが気にもせず、一向に館からも出ても来ず、いつも適当にあしらっていたではないか?そのじじいが一体どういう風の吹き回しで【でむかえ】なんぞしようと思ったのだ?しかも相変わらず、うにょうにょとしたしゃべり方をしやがってからに、ものっそ気持ち悪いわ。


「ではにょ、わちゃが先導をするによって。屋形に着くまで物語でも致すかにょぉー」


神鹿家の騎馬武者の皆に遠慮なく乗馬するよううながしてから、金三郎も供侍の手を幾人も借りて、やっとこさ馬にまたがると突然、兵庫介と肌が擦り合う程にまで近寄った。


それにしても儂の無礼を気にもとめず、斯様かように親しげに接するは、まず間違いなく【裏】があるに違いないな。


兵庫介は左様確信した。



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