↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/150

ひょんひょろ付きの娘侍。【改稿版】(4)


「ひょろひょんよ。此の者は其《そ》の方《ほう》の手の者か?」


《手のものではございませんが、どうか為されましたか》


 不思議そうな顔をしてひょんひょろは小首を傾げ、座しても治まらぬ背の異様な高さ故か上から目線で兵庫介を覗き込む。


そんな奴の両手には小侍から手渡されたまだ全然食べられていない粥椀《かゆわん》が大事そうに包まれており、匙《さじ》が左手に添える様にして握られている。


「あれは娘子《むすめご》であろう?」


 こやつに見下ろされるのは腹立つくらい癪《しゃく》に障《さわ》るが、そのような事はどうでもよい。それにコイツが左利きなのも、今はどうでもいいことだ。


《流石は兵庫介様、即座に見抜かれましたか》

「見抜いたのは左膳だ。儂ではない」


 兵庫介は自身の視線をひたすら避《さ》け続ける左膳《さぜん》を見ながら、娘が侍の格好をしてると感付いたのは奴だと素直に教える。


《左様でございましたか、彼《か》御仁《ごじん》が鬼の左膳様…。なるほど》


 神鹿家《かぬかけ》髄一《ずいいつ》の剛勇《ごうゆう》である左膳の異名《いみょう》を口にしたひょんひょろは、さも感じ入ったとばかりに左膳に向かって正対して一礼した。すると、こちらの様子を何気に窺《うかが》っていたらしい左膳は当惑したらしく、がっついていた粥椀を従っている供侍《ともざむらい》に手渡すと、姿勢を正して慇懃《いんぎん》に頭を下げて答礼した。


 が、兵庫介の熱痛い突き刺さる視線に気付いたのか、「おっ!」と小さく声を上げ兵庫介の視線とは反対側の方向に身体をクルリと翻《ひるがえ》してしまった。


「…もう、なんなんあいつ。儂とは仲良しの幼馴染《》であろうに他人行儀な…」


 小声でブツブツ呟《つぶや》いたあと、仕方ないので兵庫介は戯《たわむ》れに、ひょろひょんの後ろで粥をすすっている筈《はず》の腹ペコ娘侍《むすめさむらい》に話しを振ってみる。


「美味いか?」

「もう喰った」

「左様か……」


 喰い終わるの早くない!?


 娘の方を覗き見れば、すでに綺麗に椀を手拭《てぬぐい》で拭《ふ》き終わり、自分のものであろう行李《こうり》に仕舞っているところであった。


 はあ……。


 溜息《ためいき》一つ残し、兵庫介は一気に椀の中身を飲み干すようにして一気に喰った。


「あっつ!!くそあっつ!!」


 ダバ―――ッ!


 一旦含んだ粥の余りに熱さに耐え切れず、勿体《もったい》ないことに口の中身を吐き出した。


 周りの、兵庫介の配下全員からの彼を蔑《さげす》んだ視線が痛い。


隣のひょろひょんはと云えば、やっと食う気になったのか、匙にちびちび粥を乗せて口に運び出したばかりである。


「くっ!……して、ひょろひょんよ。あの娘はどこから湧いて出たのだ、我らが出会った時には居なかった筈だぞ?」

《はて、兵庫介様にお会いした時より、ずっと傍《そば》に居り申しましましたが?》

「偽《いつわ》りを申すな、儂はあのような者は見知らぬぞ」


 兵庫介は少し怒気を含ませた口調で問う。


《偽りではござりません。わたくしめの馬の鎧の狭間にて、ぐっすり寝ておりましたが故《ゆえ》でありましょう》


 は?馬鎧と馬の狭間にてって、、、あんな人も入れそうにない狭き場所でこの娘は寝てたのか?


「…そ、そのような芸当が、斯様にか弱そうな娘子に出来うるものなのか?」


 兵庫介は疑問符しか浮かばない脳を整理しつつ、ひょろひょんに再度尋ねる。


《かの者には造作のないことにて》


 そうなのか?不思議な特技を持つ者が世間には居るものだ。されど、飯井槻さまの直臣《》でなればあり得るやもしれん。なにせあのひょろひょんに付いていた二人連れの供侍の姿の消し方も見事であったからな。


 なんとも形容できぬ気味の悪さを覚えながら兵庫介は、もう一つの疑念について聞いて置くことにした。


「しかしな、飯井槻さまはどうしてこの娘に侍の真似ごとなぞをさせておるのだ?」

《いろいろ事情がございまして……》


 言葉を濁《にご》すひょんひょろに、兵庫介にも思い当たる節がある。


「飯井槻さまの差し金か」

《左様にございます。このこと内緒でございますよ》


 相変わらず粥をチビリチビリとやっているひょろひょんは、口元を手で覆い小声で云った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。