Species7
森が深さを増していく。ここはもう樹海の様相だ。
「ねえ、前方に何かいるよ」
「久しぶりのエネミーか? ……レアMOBか」
そのMOBの頭上にはYoung Forest boarというNAMEが表記されている。ボスやレアMOBはその頭上にNAMEが表記されるのだ。
私達は立ち止まり、遠くからそれを観察する。
「フォレストボアのウリ坊ということかしら?」
フォレストボアとは二本の大きな牙を持った猪型のMOBであり、この森では珍しくない。
ハル姉が問うと、答えの代わりにリンドが大剣を構える。
「何にせよ、アイコンブルーのレアMOBだ。見逃さねえな」
未開発領域のエネミーMOBの頭上にはアイコンとHPバーが付いている。安全の青から危険に近づくほど緑、黄、黒と変化していき、その色を見ることで戦闘をするかしないかを判断する。様々な要素が絡み合った複雑な演算はシステムが行い、それは状況に応じて刻々と変化する。
このウリ坊は、その中でも最も安全な深い青色をしている。
(ロウ兄のLUKが高いからかな、さすがペガサス)
ウリボーは武器を構えた私達に気付き、森の奥に逃げ始める。
「リンド、叩き込め。オトハとハルは待機」
ロウ兄が弓を構え、ヒュンッという音と共に、矢を射る。放たれた矢はウリボーの右の後ろ足を正確に射抜く。バランスを崩したところにすかさず、リンドが振り上げた両手剣を叩き込む。
(この連携は何度見ても容赦ないないなあ……)
ウリ坊はその体に刃を食い込ませながら地面に叩きつけられる。HPバーが急激に減少するも掃滅の一歩手前で止まる。
(変だな……リンドなら一撃でもおかしくないのに)
「トドメだ!」
リンドが続く第二撃を加えようとした時、真横から木片の直撃を受けて吹っ飛ぶ。HPが一割減少した。木片には何やら強い力でへし折られた跡がある。
「な、何?」
地面が揺れ、木々がざわめく。
ゴォオオオオオ……。森の奥から轟音と共に木々をなぎ倒しながら、突如それは姿を現した。
ただでさえ巨体の通常のフォレストボアの数倍の大きさを持ち、Head Forest boarというNAME持ちのボアだ。
「早速サード級のボス戦かよ……おいおい、アイコンが真っ黒じゃねえか」
リンドが起きながら呟く。
ボスにはHPバーが四本のファースト級、三本のセカンド級、そして二本のサード級がある。目の前のヘッドボアのHPバーは二本ある。
「サード級一体に、通常のボア三匹、後ろには瀕死のウリ坊か」
「離脱が賢明ね」
ロウ兄とハル姉が即座に決断する。リンドが注意深く私達の所まで戻ると、私達は一歩後ろに下がる。すると、ボアの群れも一歩前進する。
「逃す気はないみたいだな。やるしかねえな」
リンドが大剣を構えようとして、下ろす。私の方を向いて問う。
「オトハ、お前のMPポーション貰えるか?」
初期支給品はHPポーションとMPポーションが五本ずつあった。アイテムは腰のポーチに最大五個までショートカット設定ができる。
私はMPポーション五本全てをポーチから出してリンドに渡す。
「いいけど、何する気なの?」
「サンキュー。悪いけど説明している暇はねえな。ロウさん、ハル姉ちゃん、オトハを頼むよ」
リンドはそう言うと、MPポーションを五本全て飲み干した。そして、声高に叫ぶ。
「〈Trans〉!」




