Species6
転生者の街を鳥瞰するとほぼ円形になっており、その周りを囲むように未開発領域:囲いの森が広がっている。
私達はその東側を進んでいる。
「何で、東側なの?」
私が問うと、隣のリンドが答える。
「北にはヨトュンヘイム、南にはムスペルヘイム、西にはビフレストがあるだろ? そっち方面はエネミーが強いだろうから、まずは東に進むんだよ」
後ろのロウ兄とハル姉が補足を加えてくる。
「森を抜けた先に街か村があるはずだ。そこを拠点にして準備が整い次第、他の方角か、または、そのままさらに東に進む予定だ」
「その方がデスぺも減らせて効率的なのよ」
デスペ、デスペナルティーのことである。私は確認するために問う。
「デスペって、未開発領域で得たドロップ品の全ロストだっけ?」
「正確には、最後に入った安全圏から以降のドロップ品よ。あとは、ステータスへの一定時間のデバフもあるわ」
私とリンドが前を走り、ロウ兄とハル姉が後ろを走る。私のメインウェポンが短剣、リンドが両手剣の前衛で、ロウ兄が弓、ハル姉が杖の後衛の形をとっているからだ。それに、私のAGIが低いため、速度を合わせてくれているのもある。
私のステータスでは短剣より重い武器は持ち上げることすらできず、杖ではINTとMP不足で火力が足らない。武器そのものが持つ攻撃値で火力も補え、百五十センチと小柄な私なら小回りもきくからと短剣を選んだ。
しかし、既に何度か戦闘を終えているがステータスが違うせいか、私はほとんどダメージを与えられていない。武器は初期支給品と、同じ条件なのにである。
(悔しいなあ……)
森の半ばまできた辺りで、後ろから声が掛かる。
「一旦立ち止まって、確認しよう」
森が少し開けた場所で立ち止まる。
体が火照り、少し熱い。TFOでは痛覚以外の感覚はプレイに支障が出ない範囲でリアルに再現されている。
視界の右端には四人分のNAMEとその下にHPバーとMPバーがあり、私のHPは残り九割ほど、MPは減っていない。他の三人はHPが残り八割ほど、MPは五割ほど減っている。
フレンド登録をすると、他人のNAMEとHPバーが見えるようになり、パーティを組むと自分の視界の右端にそれらの三つ全てが見えるようになる。フレンド登録すらしていないと、見えるのはHPバーだけだ。
その他にもギルドなどがあるが、しばらくは関係ないだろう。
マップを音声認証で呼び出し確認する
(三十分で随分進んだと思うけど、あとどれ位で抜けられるのかな?)
マッピングしていないこの先の領域は空白のままだ。
「ステータスが上がっているな」
「スキルと武器の熟練度も上がっているわね」
「俺は【両手剣】がレベル2になった」
種族にはそれぞれ固有の種族スキルを持つ。種族スキルには大きく分けて、アクティブスキルとパッシブスキルがある。アクティブスキルには全種族共通の基礎スキルも含まれており、最大十個まで同時に選択できる。スキルの中には技があり、技の熟練度が一定値を超えると、一つのスキル内でツリー形式に広がっていく。パッシブスキルは主にステータス、他にもアクティブスキル、装備品、アイテムなどへのバフ、たまにデバフが付く。こちらも熟練度次第で成長していく。
特定のカテゴリーの武器熟練度を上げると、そのカテゴリーの武器の使用時にSTR上昇やAGI上昇などのパッシブのバフが付く。
(私はどうかな? 成長してるといいな)
私も、それぞれの値を確認していく。
ステータスはINTとMPに変化はなく、AGIが5に、他は2に、最大HPは110になっていた。森をずっと走っていたからAGIだけ高いのだろう。TFOでのレベリングを実感する。
武器熟練度と種族スキルの熟練度はほとんど変わっていない。
私のスキル構成は固有スキルが【開発】、【発明】に、基礎スキルを【短剣】【歌声】【歌唱】にしてある。【変身】は取らなかった。
設定したスキルを変更するには特別なアイテム、スキルが必要になるのでまずはこの五つにする。
(と言っても、固有スキルがこの二つしかないのよね。どんな効果のスキルなんだろう?)
私は試しに、【開発Lv.1:テリトリー】を使ってみる。
(MP消費量、多!? 最大MPの消費って、一回しか使えないじゃない……)
私を中心に、半径五メートルに渡って地面が輝いた。
「うおっ、何だ!?」
リンドが慌ててたたらを踏む。
ロウ兄とハル姉が回避行動とともに武器を構える。
「待って、待って! 【開発】の《テリトリー》って言う技を使ってみたんだけど」
「ああ、ヒューマンの固有スキルか……。で、どうだ? 何かあるか?」
ロウ兄に聞かれ、しばらく待ってみるも特に変化はない。既に地面からは輝きが失われている。【テリトリー】を詳しく見てみると、未開発領域の領地化とある。
「ここ、私の領地になったみたい」
三人が驚いた顔をする。
ハル姉に続き、ロウ兄とリンドが矢継ぎ早に次々と言う。
「未開発領域を領地にするには専用のアイテム、それにスピスがいるんじゃなかったかしら? それを、たった一つの技で代用したの?」
「どうやら、そのようだな。MPさえあればいつでも領地をつくれる・・・・・・だとすると、これは大きいぞ」
「攻略がだいぶ楽になるよな。それにボス戦の時なんかはリスポーンの問題が解消されるんじゃないか?」
TFOのリスポーン地点は、最後にいた安全圏になる。
ボスの周囲の未開発領域の領地化には莫大なアイテムとスピスがいる。よってボス戦は安全圏から遠く離れた場所で行われることになり、死ぬと長い時間をかけて再度出向かなければならない。その間にタイムリミットを迎えてボス戦のやり直し、または、ボス戦が決着してしまうこともあるだろう。
(スピス? ああ、ゲーム内通貨の単位のことか)
「あれ? でも領地の恩恵を受けられるのって領主と同じ種族だけだよな?」
「いや、確か……他にも機能があって領主のフレンドも同じ恩恵を預かれたりとかがあったはずだ。何にせよ、領地システムのウインドウが開けないとなると確認のしようがないな」
私は、メニューから領地のウインドウを開く。マップの囲いの森の中に一箇所アイコンがある。そこを押してみると、Otohaの領地という名称と0:58という数字だけが表記される。
私はそのウインドウを三人に見せる。
「領地の概要も閲覧できないみたいだな。どうやら、まだ限定的なようだ」
「でも、楽しみなスキルではあるわね」
他にも色々と試したいことがあるが、街か村に着いてからMPを回復できるようになってからの方が効率的だと判断し、森を抜けることを優先する。
私達は期待を胸に秘めて、この場を後にした。




