Species1
ブオオン……ブオオン……
エアコンから発せられる人工の冷気で満たされた部屋の中で、私、氷堂氷菓は魔法の言葉を口にする。
「 Be born again 」
私の意識は現実から仮想現実へと飛翔して行った。
《 Trans Fantasy Online 》
フルダイブ式VR技術を利用する、先刻リリースされたばかりの新作のVRMMORPG。
北欧神話をベースにした独自の中世風ファンタジーであり、従来のMMORPGの要素も受け継いでいる。
このゲームの特徴は何と言ってもタイトルにもあるTrans、つまりは転生である。
四大精霊はもちろん、定番の妖精などの他にも様々な種族が用意され、プレイヤーは初回ログイン時にこれらの種族にランダムに転生する。
普段はヒューマンをベースに種族補正というシステムで種族の特徴が反映された姿をしているが、【変身】というシステムを使うことで種族本来の姿になることができる。
種族によっては地上を離れて水中や空中での生活、自然の力を自由に使ったり、はたまた強力な魔法たブレスを撃つことだってできる。
その可能性は無限大と言われており、今年の夏の目玉タイトルとして扱われていた。
私もとある理由もあって心待ちにしていたタイトルだ。
一体どんな種族に転生して、どんな現実を超えた生活を送ることができるのか。
そう考えると、ワクワクが止まらなかった。
なのだけれど、
「種族がわからないんだけど……」
私はチュートリアル専用のオフラインフィールドの平原でそう呟く。
まずは外見。キャラエディットは、種族補正がつくからと、付属品のカメラで撮影した私自身を細工せずに設定した。
このゲームにおいてキャラエディットは、丹精込めてキャラエディットしても種族補正という形でランダムに上書きされてしまうので、死にシステムとされていた。
しかし、チュートリアル専用の鏡に映る姿は、髪の色が銀色になっている以外、顔、髪型と長さ、身長、体形、肌の色、その全てが現実とほとんど同じである。
(ちょっぴりだけ期待していた胸もBのまま変化なしと。ま、まあ、そこは気にしない。ええ、気にしていなんだから。それにしても、種族補正が掛かっていないの? いや、でもこのゲームにおいてそんなことはありえないはずよね。ヒューマンに似ている種族……エルフとかかな?)
早速、エルフの特徴である尖った耳を確認するべく髪をかき分ける。しかし、そこにあるのは先端が丸い耳。
他にも何かないかと可能な範囲で全身をくまなく確認するも、目立った特徴はない。
(こうなったら【変身】を使うしかないかな。ふう、緊張するなあ。詠唱は〈Trans〉……どうかいい種族でありますように)
「〈Trans〉!」
次の瞬間、私の体が金色のエフェクトに包まれる。
初投稿です。
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