(26)
私は猟銃男をじっと見た。
怒らせてしまって、撃たれるかもしれない。
お願い。甲冑の人…… 私を救って。
「誰だっ!」
私の横の出入口方向に銃を向けた。
人影が見えたような気がしたが、私は今がチャンスだと思った。
「パソコン触ってもいいの?」
「やってろ、こっちはそれどころじゃない」
猟銃男は、何かに狙いをつけたまま、ゆっくりと出入口へ向かった。
私は慌ててパソコンに座り、電源を入れた。
いつものOSの起動時間が、やけに長く感じる。
「そこに座ってるんだろう? 立て! 手を上げたまま立て!」
ログインすると、最低限のショートカットだけが置かれたデスクトップが表示された。
ブラウザを起動して、この棟の入退室システムにアクセスする。
「ログイン?」
しまった。この建物の入退室システムにもログインIDとパスワードが設定されている。
中島所長から、なんとなく聞いたような記憶もある。
なんだろう、これにアクセス出来ないと……
バンッ、バンッ、とまた大きな音が部屋に響いた。
今度はガラスや壁が振動する音にも気付いた。
ガチャリと音がして、弾丸を入れ替えている。
「うっ、何をする」
振り返ると、上条が猟銃男の後ろを取って、銃を使って男の首を絞めようとしている。
猟銃男も銃を押すようにして抵抗する。
「はやくしないと」
上条が生き残っても、猟銃男が生き残っても、私にとっては大差ない。
まず自分のカードのエラーを無効化しなければ。そして、コードを読むまでの間、行き続けなければ……
なんだろう、何か簡単なIDだったはずだ。
このログイン画面を見れば思い浮かぶはず、と思って覚えなかったのだ。
「苦しぃ……」
振り返ると、猟銃男の首が絞まってきていて、決着が付きそうだった。
私は向き直ってもう一度画面をみた。
警備会社のロゴ…… 確か、これか。
左右対称のロゴを正順に打ってID、逆順に打ってパスワードに入れた。
ログイン…… 成功。
「がっ……」
上条の顔に、猟銃男の後頭部がぶつかり、二人共仰向けに倒れてしまった。
もう一度パソコンに向き直り、今いる場所のエラーを表示させ、復旧と書かれたボタンをクリックした。
ピーッと電子音がして、復旧と表示された。
「今、何をしたっ!」
猟銃男が起き上がろうというところに、上条がタックルをして再び二人は床に伏せた。
「くそっ!」
私はブラウザで館内のメッセージサイトにアクセスした。
『猟銃を持った男は地下にいる』
「だからカチャカチャと何をしているっ!」
打ち終わると、送信を押し、ブラウザを閉じた。
「エラーを直しただけよ」
「……ウソだぞ」
上条が急に落ち着いた声を出した。
「あの女はああいうウソが得意だ。捕まえて縛り上げよう」
「お前もさっきまで俺の首を絞めようとしていたんだぞ。信用なるか」
「あの女を自由にしていたら、二人共危ない。まずアイツからなんとかしよう」
「何もしないわ。ほら、もう終わったから」
私はパソコンをシャットダウンして、手を上げて見せた。
猟銃男は上条を時折振り返りながら、私の方へ近づいてくる。
上条がこっちを先になんとかしようというのなら……
「この男の方が危ないわ」
私はあえて猟銃男の手を取って引き寄せた。
「この男は首を絞めるのに失敗したから、何か作戦を考えたのよ」
猟銃男はこっちの顔を見ている。
私も見つめ返す。
「私はあなたの言う通りにした。言う通り、パソコンを閉じた。あの男は言う通りにならない」
「……」
猟銃男は、上条の方を睨んだ。
「何を企んでいる」
「騙されている。その女の方が危険だ」
「銃を取ろうとしているのよ」
「していない。いいからこっちの言うことを聞いてくれ」
上条を指さして言った。
「ほら、今。本音が出たわ。『こっちの言うことを聞いてくれ』って。あの男の方が危険だわ」
「銃は渡さんぞ……」
銃口を向けて、上条の鼻に突きたてた。
上条はゆっくりとのけぞった。
「気をつけて、電撃が出来る機械を隠しているの」
「出せ」
手を上げている上条は首を振った。
「そんなものない」
「あるの。さっき私はそれにやられた」
「女、お前が探せ」
猟銃男があごで指図した。
私はゆっくりと近づいて、とまった。
「だめ、私を盾にされてしまう」
「お前も言うことを聞かないな?」
猟銃男は足で私を蹴り飛ばした。
「銃口で、アイツの上着をめくればわかるから」
「ふん……」
私は尻もちをついたまま、二人の様子をみていた。
銃口が下げられ、上条の上着をまくりあげていく。
するとホルスターが見えた。
男は完全にそれを銃口で指すまで上着をつついている。
「これ。これはなんだ」
上条はとっさに脇をしめ、銃身を脇のしたに挟んだ。
バンッ、と音がしたが、銃は上条の脇のしたに挟まれたままだった。
背後にあった、壁やガラスが割れる大きな音がした。カチャリ、と音がして、何かが落ちたようだった。
もう一度、バンッ、と音がした直後に、猟銃男は上条に蹴飛ばされ、銃は床に落ちた。
「なっ……」
猟銃を落としてしまった男は、慌てて椅子にしがみついて立ち上がるが、猟銃は上条が拾い上げたところだった。
ゆっくりと私は上条の後ろへ周りこんだ。
落ちたものが気になっていた。
「さあ、今度はお前がこっちの」
「お前バカだろ」
上条が引き金を引くが、何も射出されない。
猟銃男は椅子を持ち上げて、上条に振り下ろした。
「あっ……た」
「ぐぁっ」
「ほら、それをこっちに渡せっ」
上条は猟銃を振りかぶって、男を殴りつけた。
「渡すわけねーだろ」
男も上条も、口の端や、鼻から血が流れていた。私はそのまま扉の方へ這って進んだ。
「おい、コラ、待て! 甲冑のやつはいつ来るんだ!」
振り返ると猟銃男が血を垂らしながら近づいてくる。
私は慌ててエレベータの呼び出しボタンを押すが反応しない。
「待てよ」
上条が猟銃男の腕を引っ張って、拳を顔に叩き込む。
「何で反応しないの?」
ふと見ると、呼び出しボタンの付近にカードリーダーが設置してある。
エレベータの中にもカードリーダーがあったはずだ。ここは呼び出しもカードがいるのか?
とにかく、自分のカードをあてると、呼び出しボタンが押せた。
今度はエレベータが下に降りてくるのにイライラさせられる。
「早く!」
上条が猟銃男を殴り倒し、フラフラになりながら、こっちに向かってくる。
「坂井先生…… まだ復讐は終わって……」
バンッと大きな音がした。
飛び散る血に、私は自分が貫かれたのだと思った。
同時にエレベータのドアが開き、顔を拭いもせず乗ってすぐに扉を閉めた。
このままでは呼び出しボタンで開いてしまう。
けれど、何階に行けば助かるか、判断出来ない。
私は目に入ったフロアのボタンをデタラメに押しまくった。
ほどなく、エレベータが動きだし、私は慌てて一階のボタンを押した。
「えっ?」
光っているフロアのボタンを見ると、11階だった。
「まさか、カードで押せるところが決まっているの?」
けれど、一階へ行けなかったら帰れないはずだ。
どうなっているの?
「中、中にもカードリーダーがあった」
私はエレベータ内のカードリーダーにカードをあて、一階のボタンを押す。
「なんで!? なんで押せないの?」
カードをあてて、ボタンを押す、ことを何度も繰り返した。




