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水晶のコード  作者: ゆずさくら


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23/27

(23)

 遠くで微かな声がする。

『いや、ですから』

 さっきの老人の声だろうか。

『とにかく探しなさい』

 なんだろう、どこで話しているのだろう。

 飛行機ではなく、ドラゴンが空を支配する世界。そのドラゴンを自由に使う人たち。

 本当なら街中に出て他に何が違うのか見たかった。

「しかたない……」

 城の中を見て回るので良しとするか。

 街中をみるのは、女王になってからでもいいだろう。

 ドアを押し開けようとすると、逆に引っ張られてしまった。

「おっと……」

 ドアの把手とってを離し、転ぶ寸前で持ちこたえた。

 引いた先には身をかがめた男が見えた。

「?」

 何か光るものを持っているのに気が付き、後退りした。

 はじめて感じる感覚で、なんと表現していいのかわからなかったが、おそらく殺気というものだ、と感じた。

 壁に背中を付けながら、さらに奥へ戻った。

 男は扉にくるりと前転して入ってきた。

 もう一人、同じ格好をした男が、扉を回り込むように反対方向へ入ってくる。

 そして、入ってくるなり、静かに刃物を構えた。

「殺し屋?」

 ベッドの方を見て、一人が首をかしげた。

 やばい。ベッドで寝ていないことが判ったら、今度は部屋中切りつけてくるかも。

 私は慌ててドアを開けた。

「しまった、開けない方が良かったか?」

 独り言を言ったが、おそらく殺し屋には聞こえていない。

 ドアを出るべきか、出ないべきか悩んだ。

 あっという間に、殺し屋はドアに戻ってくる。私はもう一度さっきと同じく、壁づたいに戻った。

 ものすごいスピードで剣がドア付近をかすめた。

 手応えを感じなかったのか、一人は扉から出ていった。

 もう一人はドア付近から振り返って、部屋の中を睨みつけた。

 出ても出なくても殺られてしまうのか……

 足がふるえるのが判った。

 見えない、聞こえないだけで物理的にはこの世界に割って入っているのだ。

 城の人間とぶつかったように、城のある世界から、私を破壊することも出来るのだろう。

 殺し屋と思われる人物は、部屋の中央でブン、と刀を振った。

「わっ……」

 聞こえないからいくら話しても問題ないはずだが、思わず口を抑えてしまった。

 何かを感じたのか、ベッドに行くと、ベッドを端から突き刺し始めた。

 ドスドスと音を立てて、端から刀を突きたてていく。

 半分ほど終わった後、殺し屋は枕を手に取った。

 ベッドの支柱をつたって、軽々と天蓋の上立つと、枕を切り裂いた。

 枕からは大量の羽根が広がり、床に落ちはじめた。

「!」

 見えないけれど物理的にはぶつかる、例えば粉をまけば体が浮き上がって見えるはず。そういうことだった。

 男は右に左に枕を振り回し、さらに羽根を撒き散らした。

 私が移動すれば、羽根が動いてしまう。

 どうしよう…… さっきの老人は私を殺そうとしているのだ。

 女王が居なくなって、ドラゴンの統率ができなくなり、ドワーフやゴブリンが人に台頭してくる世界を望んでいる。

 そうでなければドアを締めるなり、閉めれる部屋に通すはずだ。

 羽根が床いっぱいに広がり、男はじっと床を観察している。

 ドアから少し隙間風が拭いてくると、羽根がそこで舞った。

 男は何を考えたのか、その隙間風に近づいていく。

『……』

 私は何かが鼻に入って、ムズムズしはじめた。

 ここでくしゃみをしたら、羽根が舞ってしまうかも……

 止めようと口を手で覆うが、余計にムズムズが止まらなくなった。

「クシュン!」

 指の隙間から、しかも床に向かって飛び出た息が、部屋の床に散らばっていた羽根を舞い上げた。

『そこかッ!』

 ドアに向かっていた殺し屋は、私が舞い上げた羽根に気づいて振り向いた。

 ダメだ…… 殺し屋は刀を振りかぶった。

 私は目を閉じていた。

 ドンッと大きな音が聞こえ、何も聞こえなくなった。

「……」

 何も起こらない。

 さっきの音のせいか、何も聞こえてこない。

『ヴゥッ……』

 ようやく小さい音が聞こえると、顔に液体をかけられた。

 顔を拭って目を開けると、突っ伏すように殺し屋が倒れていた。

 よろよろと刀を使って立ち上がると、もう一度私に向かって刀をついた。

 その時。

 また大きなドンッ、という音がして、殺し屋はベッドの方へ吹き飛んだ。

 ドアが開いて、そこには長い金属の筒が出ていた。

『誰に雇われた?』

 筒が降ろされると、ドアから現女王が入ってきた。

『お前は誰に雇われた?』

 殺し屋が握っている刀に向かって、金属の筒を振り下ろす。

『グアッ……』

 たまらず刀を離すと、その筒で刀をころばした。

「女王……」

『分かっている。見当はついているが、証拠がないのだ』

 足の根本に向けて筒を構える。

『誰に雇われた? 言わねば撃つぞ』

 数字を言うと、容赦なく撃ち抜いた。

『さあ、もう一本やるのか?』

 反対の足を向けて構える。

「も、もう意識がなくなってます…… 死んでしまったのかも」

『……あなたに引き渡す世界で誰に狙われているのか。それは判ったわね?』

 私はうなずいた。

『ここで証拠を得て、裁いてしまえば簡単だったのですが』

「私と女王しか聞いていないですよ」

『それで充分だったんです』

 気づくと、ドアのところに甲冑の男が立っていた。

 ゆっくりと扉を開けると、片手に人を引きずっていた。

 さっきの殺し屋の片割れだ。

『そちらは何か話しましたか?』

『いいえ』

『これではこちらの世界にきたくなくなってしまいますよね』

 女王は私の方を見て言った。

「けれど、元の世界も死とは向かい合わせなのは変わらないから」

 いや、どうなんだろう…… 同じくらい? こっちの方が良い死に方ではないかもしれない。

『この世界に来る前に、先にこの筒のさばき方を教えておきます』




 目が覚めた。

 そこは見慣れた自分の部屋だった。

 しかし、この世界で、私は後はもうコードを読むだけの存在になっていた。

 こちらの世界がどうなってもいい、そんな気がしたのだ。

 あの後、女王に筒の使い方を教えてもらった後、私達は街や旧市街を回った。

 向こうの世界で、女王が必要とされていた。

 多くの民が女王の体を気遣っていた。

 なんとなく、もう長くないことが民衆には分かっているようだった。

 そして、迫りくる恐怖も見せられた。

 黒い血を流す、灰色の肌の生き物達がいた。

 幾重かの壁の向こうにいる連中だった。

 ドラゴンの背中から見下ろしてみると、まるで見えているかのように睨み返してくる。

 尽きない憎しみが渦巻いている。

 女王の力が弱まれば、世界は争いに巻き込まれる。

 女王は未来を読めた。しかし、私は……

『あなたの力は、私の代わりができるはずよ』

「コードを読む力?」

『あなたがこちらにくれば、世界のコードを読むことが出来るはず。それは未来を読むに等しい力です』

「世界のコードを読む」

 旧市街や都市部はこの世界のほんの一部だという。

 私の世界と同じような命がここでも生きているのだ。

 もう自分一人の命ではなくなっている。

 私がここで死ぬ訳にはいかない。

 コードを読み、向こうの世界へ行かなければ……

 けれど、すぐにコードが頭にうかんでくるわけではなかった。

 それがいつ浮かんでくるのかが分からなかった。

 現女王が出すタイミングなのか、私の心の整理がついた時なのか。

 何がきっかけで読めるようになるのかは分からないが、次に読めるようになったら、迷わず読まなければならない、と心に決めた。

 数日を家から出ずに過ごしていると、所長から連絡があった。

『光ファイバーのプロジェクトも最終段階なのよ』

「分かってます」

『分かっているのに研究室には出てこないのね』

「それは……」

 私はもうこの世を離れる準備をしているのだ、とは 言えなかった。カウントダウンしているのに、研究に関わったらそれこそプロジェクトの為にならない。

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