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水晶のコード  作者: ゆずさくら


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(21)

「コード管理プログラムなんでしょう?」

『殺すことは出来ないの。世界に干渉するものを排除は出来る。あなたが一瞬でも水晶のコードを読もうとしたら、私はあなたを殺すことが出来る……けれど』

「?」

 女性は胸に手を当てたまま、話さなくなってしまった。

「じゃあ、コードを読もうとするから、この場で殺してよ。ほら、行くわよ?」

 自分で言っていて、自分が本気なのか分からなかった。読もうというコードが頭に浮かんでこない。

 本当に死にたいのだろうか。

 いや、死にたくはない。

 けれど世界を犠牲には出来ない……

 だから……

「だから! ねぇ! 私を殺してよ」

『私は性質上、殺すことは出来ない。何千人、何万人を死なせた国王でも、戦争を指示した大統領でも、私にこの世界に干渉する権利はないの。この世界を改変しようとする者だけが対象なのよ』

「じゃあ、何もしていない私のところに何故来たの?」

『それは……』

 もしかして、コード管理プログラムはインスタンスにマーキング出来るのかもしれない。ブックマークというか、そのマークをたどれば、一瞬で捉えることができるのだ。

 だからさっきから読んだと判れば…… と言っている。それをトリガにしてマークをたどってくるのだ。

 果たしてこのシステムをかわして私を取り出せるのだろうか?

 マークを辿ってジャンプしてくるだけの時間で、私のインスタンスを世界から切り取れないと、私はこの世界にとどまり、その中で殺される。

「さっきマグカップのコードへ干渉したのに気付いたの?」

『そうじゃないわ』

「じゃあ何故」

『読んではいけないの。世界を変えてはいけないの』

「私が読みそうだった、というの?」

『そうなるわね』

 死にたくない、と思った時に、無意識に読みかけていたのかもしない。

 読んでしまえば世界が改変される。

「あなたは世界の改変を止めないの?」

『……止めるわ』

「今あるコードを消せばいいじゃない」

『それは世界の干渉になるの』

 そうか。

 そうだったのか。

 世界に干渉しない範囲では、コード管理プログラムは手が出せないのだ。

 だから水晶のコードを『読め』と言っているのだ。

『読んではだめ』

「安心して。水晶のコードは読まないわ。だから、ここから去って」

 そうと判れば私が救われる方法があるはずだ。

「早く!」




 私はその後、一晩中コンピュータに向かって、少し休むつもりでベッドの上に寝転がると、昼まで寝てしまった。

「きっと、あらかじめ決めた条件で発動するようにプログラムを組めば問題ないはず」

 ぼんやりと天井を見ながら、昨晩考えていたことを口に出した。

「後は、コード管理プログラムを改変出来る権限さえあれば」

 上体を起こすと、突然お腹が減ったことを思い出した。

 何か作って食べるとかは頭になかった。

 パソコンを開いてデリバリーの中から食べたいものを見つけようとしていた。

 そのままパソコンからピザを注文し、そのままニュースやSNSを覗きはじめた。

 小さく自分のことがニュースになっていた。

 ニュースの内容は読まなかった。私の名字がたいとあるに入っていて、女性へのセクハラ、と書いてあった。おそらく昨日のテレビをそのまま記事にした程度の内容だろうが、こうやって興味もなかった人間へとあたかも事実のように広がっていく。

 中島所長は頑張っているのだろうが、広がった後で相手を裁いたところで何の抑制にもならない。

 最終的に裁判でかっても、こっちの名誉は戻らない。勝った時に流れるのは、裁判になったこととどちちらが勝ったかという内容だ。もう一度誤報内容を伝えては本末転倒だからだ。けれど、そういう刺激的な内容なしでは、何の裁判だったか、報道がどんな酷いことをしたのかなど、誰の興味も引かない。

 興味を引くためにはもう一度、誤報内容を伝えることだが、それを伝えると、事実無根のことが真実のように思われてしまう。

 刺激的なことが事実であって欲しい、という偏見が蔓延しているのだ。何も触れずに、ただ忘れ去るのを待つしかない。

 デリバリーのピザが届き、一片を口にすると、それおをコーラで流し込んだ。

「この世界の言語で、あの言語への翻訳プログラムをかけるはず」

 私は例のコードを読んだ瞬間にコード管理プログラムがやってくる仕組みを変えようと思っていた。

 私自信のインスタンスに仕掛けられたトリガーか、例のコードを読むというメソッドに、コード管理プログラムを呼ぶように記述されているのかもしれない。

 とにかくなんらかの方法で読むと、私を排除しにこれるようになっているのだ。

『読む気になったのね』

 女性の姿は見えなかったが、ハッキリと声が聞こえた。まるで後ろに立っているかのようだった。

「そうよ。読むからにはコード管理プログラムに干渉されたくない」

『……仕掛けは分からない』

「昨日の講義室に連れて行って」

『講義室?』

「壁にコードを映し出していたあの部屋よ。思った通りに動くエディタも」

『わかった。連れて行く。目を閉じて気持ちを楽にして』

 目を閉じると、女性の姿がそこにあった。

「名前。名前があった方がいいわ」

『なんのこと?』

「あなたの名前を聞いていなかった」

『なんでもいいわ。そうね、トモヨでいいわ』

「私と区別がつかないじゃない」

 いや、明確についているのだ。私は私だからだ。

『どのみちあなたの世界では発音できない。あなたをこちらに救いだしたら、女王は交代しなければならない。私とあなたが同時に存在するのは、この中だけなのよ』

 そうか、この女性(ひと)は女王なのだ。

 女王、と呼べばいい。

「女王、と呼んでいいかしら」

『当然、それでも良いわよ』

 女王は歩き始めた。

 何もない廊下を歩いている気がした。

 壁もないのに、廊下だというのは、なんとなくの感覚でしかない。全く認識出来ない、壁のようなところから、いきなりドアが開く。

『ここよ。ここから入って』

 昨晩見た講義室のような部屋に入った。階段をずっと下りていくと、大きな壁にコードが表示された。

「私をこの世界から取り出す時って、最上位の特権を取るのよね?」

 私は後ろにいる女王を振り返って言った。

『そうよ』

「その特権って、いつ取れるの?」

『あなたがコードを読んだ瞬間』

「今の時点で、コード管理プログラムにコードを追加出来る?」

『出来ないわ。やるとしたら、特権をとったと同時にやるしかない』

 そうか、やっぱりそうなるのか。

 私はふと、さっき女王が言ったことを思い出した。

「そういえば、この中でしか私と女王が存在出来ないって言ったでしょ?」

『……』

 女王はうつむいただけだった。

「それって、あなたが、こちら側から居なくなる、ということではないの? あるいは……」

『……』

 うつむいた顔から目だけがこちらを向いた。

「あるいは、私と入れ替わりになる」

 私が見つめ返すと、女王は目をそらした。

「そうなのね? 私と入れ替わるつもりなの? この世界に入りたい為に、入れ替わるターゲットを探していたというわけ?」

 私はどのみちそう長くなく死んでしまう。

 女王が入れ替わるといっても私と同じものではないから、この同じ病気をもったままではない。コードを読んだ混乱に乗じて、特権をとって、私を取り除くと同時に女王がこの世界の中に入るのだ。

『結果としてそうするだけ』

「こっちの世界は、さっきの廊下のように何もない、孤独な空間なんだわ。世界のシミュレータの裏側。フレームワークとでもいうか。そんな世界なのね?」

 女王は首を振った。

『それはひどい誤解ね』

 女王が何かスレートに文字をなぞった。

 講義室の入り口が開いて、黒服の老人がおじぎした。

『どこへお連れしましょう』

『世界が広いことが分かるところがいいわね。空から領土を見渡して』

『承知しました』

 老人がこちらにやってくると、かしずいてから私の手をとった。

『参りましょう。ご案内いたします』

『あなたのからだはこの世界のものではないから、ものに触れたり、触ることはできないわ。けれど、こちらの世界にきたらちゃんと実在するものなの。あとは信じてもらうしかないけど』

 私は女王を振り返り、うなずいた。

 老人が開けた扉の先に床が見えなかった。私はあっ、と思った時には落下していた。強い風に目を閉じていると、抱きとめられた。

「お、落ちているの?」

 老人の細い腕から降ろされた。

『もう落ちるのは終わりました。落ちているように感じるのは、ここはドラゴンの背中で、飛行中だからです』

「ドラゴン?」

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