第4話 家族
「もう一度言おう。娘はやらん!」
いや、まてまてまて。確かに惚れてはいるけどまだその段階まではいってないぞ。
「お父さん。まずは話を聞いてください」
「お父さん? そのように呼ばれる筋合いはまだないぞ」
「パパ! いい加減にして! まずは私たちの話を聞いてよ!」
アンナが話しの間に入ってくれた。助かった。
アレスは一瞬驚いた顔をしたが一言謝り、また威厳のある顔つきに戻った。マリアはというと、
その一連の流れを楽しむかのように微笑んでいた。
「…………ということで、私とハヤトはパパが思ってるような関係じゃないの」
「ふむ。しかしこの先ずっとその生活を続けるのは、いかがなものかと私は思うが」
「分かってるわよ。というかまだ昨日の今日何だから……」
「まぁまぁ。アレスが何に心配してるか分かりますがそう暑くならないで下さい」
「いや、しかしだな…………」
アンナが言っていたことが分かった。話しを聞く限り、アレス様はすごく家族思いだ。大切な娘と
見ず知らずの男が暮らすなんて、そりゃ猛反対だよな。だけど説得しないと……。どうすればいいんだ……。
「ハヤトさん。少しいいですか?」 「は、はいっ」突然呼ばれ声が裏返る。
「では、あなたを観させてもらいます」
ん? 言葉の意味が分からない。今俺のこと見えてるよな。
「ちょっとママ。そこまでする!?」
アンナは動揺しているみたいだ。一体何を見るっていうだ?
「アンナ。私も表に出してませんが、とても心配なのですよ。それにこの世界で生活してくいくのなら
遅かれ早かれ観られることになるのですから」
「それはそうだけど……」アンナは不安そうな顔をしていた。
なんかやばいのかもしれないけど、立ち止まってちゃ前へ進めないよな。
「アンナ。俺は大丈夫だよ。正直よく分かんないけど見られてもいいよ。マリア様お願いします」
席を立ちマリア様と向かい合う。マリア様の方が背が高く俺が見上げる形だ。
「ではハヤトさん。気を楽にして、私の目を見てください」
俺は言うとおりマリア様の目を見る。先ほどまでの温かい感じはなく、なにか吸い込まれる感じがする。
すると突然頭の中で様々な記憶がめぐり始めた。
頭が割れそうだ。高速に駆け巡る記憶。楽しかった事。つらかった事。嬉しかった事。怒れた事。悲しかった事。
それと同時に様々な感情が湧きあがる。あぁ、……お母さん。……お父さん。
いつからだろう。気付けば俺はマリア様の胸の中にいた。そして目から涙がこぼれている。
「大丈夫。大丈夫よ」頭をなでられた。
ハッと我に返ってマリア様から離れる。
「も、もう大丈夫です。というか何かすいません」
「いえいえ。あなたもいろいろ苦労していたのね」マリア様は微笑む。
あれは、何だったのか。不思議な感覚だった。
「ハ、ハヤト大丈夫……?」 アンナが心配そうな顔で駆け寄ってきてくれた。
俺は短く返事をして笑って見せた。
「アンナ。ハヤトさんはいい人よ。きっといい関係を築けるわ」
「ええ!? ちょ、ちょっとママ。いきなり何言ってるの!?」
アンナは顔を赤くし声を張り上げる。
「アレス、あなたが心配している事はなさそうよ。ここはアンナの意志で決めた事を尊重してあげましょう」
「……マリアが大丈夫と言うのであれば大丈夫だろう。……ハヤト君。今回の件については認めるとしよう」
「ありがとうございます。アレス様。マリア様」俺は深々と頭を下げる。
「ふん。礼などいらん。しかし、私たちはまだ出会って間もない。毎日とは言わんが顔を見せてくれ」
「フフ。そんな事言って、ホントはアンナに会いたいだけなんでしょう」「マ、マリア……」
「もう。パパとママったら……」
アレス様もいろいろ苦労しているだな。でもやっぱいいよな。家族の団欒って。
その後夕食を一緒に食べ、気づけば空に月と星が浮かんでいた。
行きと同様に馬車に乗って帰る。しかし、アンナの表情は同じではない。とてもニコニコしている。
「ハヤト」 「ん?」
「改めて。これからもよろしくね!」アンナは笑顔でそう告げる。
月明りに照らされたアンナはとても美しかった。その光景を目に焼き付けながら俺は返事をした。
「そうだアンナ。最後マリア様が渡してくれたモノってなんだ?」
「そうね。簡単に説明すれば異世界に行ってもいいという証明手形ってとこかしら。本来異世界に行くってなると、審査とかいろいろ
受けなくちゃいけないのよ。だけどハヤトはママに観てもらったから、その過程を飛ばしてもらったってわけ」
なるほど。異世界には誰でも簡単に行けるわけではないんだな。
「というわけで早速明日、異世界に行って働くわよ!!」
「えぇ!?ホントに言ってんのか!?」
「そうよ。というか働かざる者食うべからずよ」
返す言葉が御座いません。といかよくそんな言葉知ってたな。
「いやぁ。明日が楽しみね!」
「テンション上がり過ぎて寝付けないってオチになるなよ」
「子供じゃないんだから大丈夫よ!」
その後も家に到着するまでたわいもない会話をしたのであった。