第3話 アンナとマリアと時々アレス
「ハヤトー。そろそろ起きろ―!」
遠くのほうから声が聞こえる。でもまだ眠い。もう少し。もう少しだけ……。
「起きろ―!!」
今度はすごい近くから聞こえてくる。早く止めなければ。
あれ? 目覚まし時計はドコだっけ? 寝ぼけながらも手で周辺探り始めた。
う~ん……。あ、これかな? あれ、でもこんな手に治まったっけ?
……あ。気付いたころには天と地が逆さまになっていた。
「ばかハヤト!!」
勢いよく扉を閉められる音は俺の心に重く響いた。
「イテテ……。」赤くなった右頬を擦りながら一階に下りた。アンナはすでに朝食を食べていた。
「おはよう。そしてごめんなさい」
「……私のほうこそ少し強く叩きすぎたわ。ごめんなさい。で、でも明日から気をつけてよね!」
良かった。明日からホントに気をつけなきゃな。――ああ肝に免じておくよ。 と短く返事をし俺も朝食を頂く。
「それで今日の予定とかは決まってるのか?」
朝食のパンを食べ終えた俺はアンナに聞いてみる。
「そうね。うーん……。まずは昨日と同じ様に知識をつけてもらって、それからあとは街の案内かしらね」
「まずは勉強会か。先生お手柔らかにお願いします」先生と言われ、アンナは少し戸惑いつつも
「ビシビシ行くから、しっかり付いてきなさいよね」思いのほかノリノリであった。
「じゃぁ、今日はハヤトについて説明するわ。まぁ、ハヤトって言っても転生者のことだけどね」
一瞬ドキっとしたがすぐにアンナの説明が始まった。
転生者にはある役割が存在した。それは未知の世界の開拓の起点になることだ。
転生者にはまだ見ぬ世界に飛んでもらい安全を確認してもらう。その為に特別な力を与えられるのだ。
その後、他の者にも飛んでもらい現地の調査、交流などをしていく。これが一連の流れになる。
「・・・と、こんな感じかなぁ」
なるほど。転生者にはそんな役割があったのか。だけど、別にそれって転生者じゃなくても他の人が神様から力を
貰って行えばいいだけだよな。
「センセー。特別な力って転生者以外は貰えないんですかー?」
「いい質問ね。ハヤト君!」「はぁ」 ノリノリである。
「簡単な話、すでに完成された体には神が与える力に耐えられないのよ。だから、転生者が体を生成する際にちょこっといじって力に耐えうる体にするのよ」
「え、じゃぁ俺の体もすでに普通の人と違う構造になっちゃてるわけ……?」
「ま、まぁそういう事になるわね。あはは……」
なんか知らなくてもいい事を知っちゃたな……。
「……あ。というかその役割ってのは、俺もやらなくてよかったのか?」
「んー、役割について説明したのわいいけど、今は積極的に新たな世界の開拓を行ってないのよ。だから気にせず生活しててもらって構わないわ」
いろいろややこしい事があるのかな。まぁ、何にせよ今は早くこの世界に慣れないとな。
軽い説明などが終わり休憩していると、扉を叩く音が聞こえてきた。
「アンナ様ー。宮殿にてアレス様とマリア様がお呼びです。それとお連れの方もご一緒にとのこと」
アレス様とマリア様って誰だ? お連れ方って俺の事か?
アンナに聞こうと振り返ってみると、アンナ頭を抱えてしゃがみこんでいた。
「ア、アンナ? どうかしたのか……?」
「は、早すぎる……。昨日の今日でバレるって……。なんて説明すれば……」
めちゃくちゃテンパってるじゃねぇか。状況を察するにこれってもしかして……。
「なぁ、アレス様とマリア様ってもしかしてアンナの両親だったりするのか?」
「……そうよ。私のパパとママよ」
あー、まずいぞ。あいさつする前に娘さんと寝食共にしてしまったぞ。呼ばれるってことは相当やばそうだぞ。ああ、何か胃がキリキリしてきたぞ……。
宮殿までの道のりは、使いの者が乗ってきた馬車で行くことになった。アンナは始終苦い顔をしている。
俺はあまり深く考えないよう窓を開け、街の風景を楽しむことにした。
街は宮殿を中心に円状に広がっているみたいだ。見慣れない街はやはりわくわくするな。
お、あれは学校か? あっちの人だかりはなんだ? あれ美味しそうだなぁ。
そうこうしている間に、馬車は目的地の宮殿に到着した。
おお、でけぇ。それにすげぇ豪華だな。写真や映像でしか見たことのない光景が目の前に広がっていた。すると唐突に
「ハヤト。覚悟は出来てる?」 真剣な顔つきでアンナはつぶやく。「あぁ。大丈夫だ……あ」忘れてた。
「やばいぞアンナ!手土産とか持ってきてないぞ!ああ、近くにケーキ屋とかないのか!?」
「……ッフフ。大丈夫よハヤト。土産なんていらないわよ。というかパパは甘いの苦手よ」
あ、危なかった。逆にケーキを持ってきていたらもっと印象悪くなってたかもしれなかったな。
「あーあ。なんだかハヤト見てたら真剣に一人で悩んでたのがバカらしく思えてきたわ。もっと気楽にいかなきゃね」
なんだか分からないがこれは良かった……のか? 「さぁ、ハヤト行くわよ。あとパパの説得も頑張ってよね」
そう言ってアンナは宮殿に入っていった。俺も説得という言葉にひっか掛りながらもアンナの後を追った。
「アレス様。マリア様。お二人をお連れいたしました」明るい声でまだ若い使用人が扉の前で告げると、
「入っていいぞ」 中から使用人とは裏腹な、低く重みのある声が聞こえてきた。
扉が開かれるとそこには大きなテーブルがあり、その向かい側には椅子に腰かけている二人の人物がいた。
「ママ。パパ。久しぶり。」どうやらこの二人がアレス様とマリア様らしい。
「久しぶりね、アンナ。さぁ、立ったっままでは疲れるでしょう。ハヤトさんもどうぞ掛けてください」
暖かくて包み込まれるような声だ。というか俺の名前はもう知っていたのか。
マリア様はスレンダーで髪はアンナと同じように腰のあたりまであり、なにより美人である。出会ってまだ会話という会話をして
いないが、すごく母性を感じる。
アレス様は見た感じすごい怖いです。顔には傷があり屈強な体付き。というか何か俺のこと睨んでませんかね?
するとアレス様の口が開く。
「では、ハヤト君。一言いいいかな?」
きた。深く考えず成り行きに任せるつもりだったが、いざとなるとやはり緊張が走る。
あぁ、神様。どうかあまり大ごとにはならないで下さい。というかこの部屋に居るの、俺以外全員神様じゃね……。ええい。もうどうにでもなれ。
しかし、次に発せられた言葉は俺の予想を遥かに超えるモノだった。
「娘はやらんぞ!!」
…………え?