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What made you came to here?

5


ジャスティンは、早い時間に店にやって来たため、店内にほとんど客はいなかった。

今夜の彼は、昨日よりもラフな服装で、上は白のシャツに紺のスーツ、下はベージュのパンツという出で立ちだ。ブレイデンは、通路を通り過ぎる女性達が、彼に浴びせる眼差しに嫌気を差しながら、こうしてまた店に訪れた自分を呪っていた。しかし、ジャスティンにはこうするより方法は無かった。今日一日、ずっと、エマの姿や、香り、声、彼女の全てがジャスティンの頭の中を占領していた。アンジェロとの大事な取り引きの間すらも…

見かねたノアに、こうして店に行くよう助言されていなくても、今夜ジャスティンはここに足を運んでいただろう。昨日、エマと出会ってから、自分らしくない行動ばかりとっているー。



エマのいる場所から、ジャスティンの顔が見えたとき、彼はまた昨日と同じ冷たい目つきで座っていた。エマはその冷ややかな眼差しが、自分に向けられるのではないかと、恐怖で足がすくんだ。しかし、同時にその視線を自分だけのものに出来ればいいのにとも思った。


エマは、なぜ彼が店に訪ねてきたのか、理由が分からず不安だった。彼が、この店を気に入っていないことは確かなはずだが。一体、彼の目的は何なのだろう?エマは警戒心を一層強めながら、ブレイデンの方へ近寄った。

ジャスティンが、エマに気づいた瞬間、彼の表情は一変した。先ほどまでの、むき出しの敵意はどこかに消え去り、少年のような無邪気な笑顔で彼女を迎え入れた。


「やぁ、また会えたね」

ジャスティンは、満足気に言うと、指でなぞるようにエマの全体をうっとりと見回した。綺麗にまとめられた美しいプラチナブロンドの髪。淡いグリーンに縁取られたアーモンド形の瞳。長くカールしたまつ毛には、上品にマスカラを重ねていて、全体的に薄めのメイクには好感が持てる。ぽっつてりとした厚みのある唇には、ジャスティンを誘惑するかのように、印象的な赤い口紅が塗られていた。

エマが隣に座ると、彼女の匂いが微かに鼻先をかすめた。1日中頭に思い描いていた存在を目の前して、ブレイデンの顔つきは満ち足りた穏やかな表情に変わっていた。



「まさか、またお会いできるとは夢にも思いませんでしたわ」

エマは、恐怖心をこらえ、突き放すように言った。

「なぜだい?」

ジャスティンは、エマの発した冷ややかな言葉に驚いた様子で質問した。たいていの女性なら、こうして自分が会いに来ればもっと嬉しそうな態度で、歓迎の言葉を口にする。エマは意を決して答えた。

「あなたは、この店を嫌っていますわよね。ミスター・リード。それに、私のような職業にも、差別的な感情を抱いているように見えます。私の勘違いでしたら謝ります。でも、あなたのような方が、こうして、もう一度いらっしゃる理由が思い当たらないんです」

ジャスティンは、こんなにはっきりと女性に意見されたのは初めてだった。本来なら、不快に感じてもおかしくないはずだが、なぜか爽快感さえ感じられた。やはり、自分の頭はどうにかなってしまったらしい・・・。凛々しく、聡明なエマの、キツく結んだ唇を自分の舌でこじ開けてやりたい。そして、濃密なキスを交わせたら、どんな気分になるだろう。彼の頭の中を、やましい妄想が駆け巡った。

「君には嘘は通用しないようだから、正直に話すよ。僕は、男を使って金や、地位を得ようとする女性に嫌気が差しているんだ。子供のころから、うんざりするほど見てきたせいだ。この店で働く女性達も、同じさ。とても好きにはなれない」


予想していた言葉だったはずなのに、彼の口からはっきりと言われ、エマはカッとなった。なんて傲慢な人なの!怒りをぶちまけたいのを必死に抑えた。

「それなら、どうしてそのような店に1人でいらしたのか、理由をお聞きしても構わないかしら?」

ジャスティンは、これ以上エマを刺激してしまわないよう、必死で言葉を探した。

「今日の取引が良い具合に進んだんで、数日後には向こうから僕の望む返事が聞けそうなんだ。お礼に、君をディナーに誘いたい」

「よく分からないのだけれど、ミスター。あなたは、ここで働く女性をお嫌いだとおっしゃったわよね。それに、昨日の夜は、私は最後に少しいただけで、不機嫌なあなたの隣で、ずっと耐えて愛想よく振舞っていたのは、サマンサよ。彼女なら、喜んでディナーに着いて行くと思うわ」

エマの声はまだ怒りで震えているようだった。

「それではダメだ。君でないと」

ジャスティンは、喉の奥から苦しげな声を出した。

「なぜ⁉︎」

「なぜかって?僕にも分からないよ。ただ…君が気になるんだ。こんな気持ちになるのは初めてだ!」

ジャスティンは、まるで獣のように、荒々しい声でうめいた。肩を上下に揺らし、苦しげに呼吸をしながら、はかなげな瞳で、エマを見つめている。



私ったら、本当に、彼に魔法をかけちゃったのかしら…。あのジャスティン・リードにこんなこと言わせてるなんて。

それとも、これは、彼の楽しむゲームのひとつなの?

エマは丸い目を、ひときわ丸くして、しばらく止まったままでいたーー




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