白い羽
男の手が離れてからしばらくたって、辺りの音が静かになったことに気づいた。怖いけど、布を持ち上げて顔を出す。いつの間にかドームの前まで来ていたようで、私と弟の前には巨大なドームが迎えていた。
「おねえちゃん!」
「…ん…?」
「みて!ドームのなかから…」
「…なに…?」
弟が指を指しているのはドームの入口。よく見ると、曇りガラスの入口の向こうに、人影が二人立っている。
「だれ…?」
「わかんない。」
「…そうい…えば、あの…男は…?」
「おとこって、おにぃさん?はしって、いっちゃった。よぼうとしたんだけどね、もういなかったんだ。」
「…そう…」
私が後ろを向こうとした瞬間にドームの入口が開く。静かにスライドした入口から出てきたのは、スーツを着た男と……背中に羽のある男だ…。
「ん?君達は…?…なんと言うことだ!まさか外にいたのか!?」
スーツの男が私達に気付いて青い顔をする。
「おに…」
「お水を…!汲み…に行って…たん…です。」
弟の言葉を遮って嘘をつく。
「水を…?あぁ、可愛そうに。恐かったろう?怪我はないかい?」
「…はい。…大丈…夫で…す。」
そう聞いた途端、男の表情が明るくなり、私と弟の手をつかむ。
「…あの…。」
「帰ろう。君達は被害者だからね。こちらで服やご馳走を準備する。から、今日のことはそれで御詫びさせてくれ。」
「…あの…?」
「さあ行こう!」
スーツの男にドームの中へと引かれていく。
「あの…おにぃさんは?」
「ん?ボク、おにぃさんって誰かな?」
「あの…」
スーツの男が弟の言葉に鋭く反応する。
「大丈夫だよ、あのお兄さんが何とかしてくれるからね?…じゃあ翼くん。頼めるね?」
「…分かったよ。ちゃんとうまいもん、用意しとけよ?」
「もちろんだよ。さっ、君達は行こう。」
背中に羽のある男が、背を向けて去ろうとする。
「…あの…」
「ん?どうしたんだい?寒い?ほら、私の上着を使いなさい。」
スーツの男が自分の上着を私の肩にかける。
「あっ、セクハラじゃないよ?」
「あ…いえ…。」
スーツの男に手を引かれてドームの入口をくぐり抜け、ドームの中へと戻ってきた。けど、何でだろう、私の心はちっとも安心しなかった。
いつも通り暗い道。誰もいなくて、寂しげで、いつも通り。いつも部屋から見てる景色。
そもそも、何で白様は雨を降らしたのだろう。
…あのとき、何に反応したのだろう。
それにあの男は弟と何をしていたんだろう。
何で弟を連れてきてくれたんだろう。
考えてみたら、弟をすぐに解放していたし、別に弟に何かしている様子もなかった。
それと、守ってくれた。私のことも、弟のことも。
たぶん弟を庇って自分はビショビショになってたんじゃ…
そんなんじゃ風邪を引くんじゃ…
…何でこんなに懐かしい言葉ばかり出てくるんだろう。
…何でまた、会いたいって思ってしまうんだろう…。
…何で、思い出したくないこと思い出しちゃったのに、まだ思い出せないでいることを、思い出したいなんて思うんだろう…
「大丈夫?」
スーツの男に声をかけられて、ハッと辺りを見ると、いつの間にか綺麗な絨毯の敷かれた床を歩いていた。
「…ここ…は?」
「国王の付き人である私達のみ使用が可能なホテルだよ。」
「…国…王…?」
「あれ、あっいい忘れてたね。私は国王の付き人をやっているんだ。」
「…偉い…人…です…か?」
「うーん、偉いかぁ、まあ偉い人と言えばそうかもしれないね。さっ食事の準備ができるまで、お風呂にでも入ってくるといいよ。さあ。」
「…あの。」
私が断ろうとするよりも早く、女の人が二人現れ、私達を浴場へと連れて行こうとする。
「…あの。」
「こちらでございます。」
「…弟と、一緒…に…」
「かしこまりました。」
淡々と答えられて、それ以上何かを言うのはやめた。
とりあえず、弟と話さなきゃ…
綺麗な絨毯の色については、ご想像にお任せします(笑)
あと、背中に羽のある男は上半身裸です。
どうでもいいですね(笑)
読んでいただいてありがとうございます!
続きも是非、よろしくお願いします。