高い人
世の中は地位が高ければ高いほど有利である。
俺はそれを良く知っている。
今鉄格子越しに目の前にいるこの男を見ればよく分かる。地位が高いだけで、他は別に他の奴らと変わらない。恥ずかしいことにその上怖がりで、自分達で管理できないものはすぐに排除対象にして消すための権利持っているだけの、ただのビビりなオッサン。
「やあ、翼くん。今日の調子はどうだね?」
鉄格子をつかんで、俺に話しかけやがるオッサン。
彼はこのドーム内の国王の付き人、つまり最高機関のお偉いさんだ。
「・・・」
「ん?具合が悪いのかい?」
ガシャッ!!
一気に距離を縮めて、鉄格子につかまってオッサンの首をつかもうとすると、思った通り、オッサンはビビりまくって後ずさりやがる。
「…どっどうしたんだい?今日も相変わらずご機嫌斜めだね。」
「……あ゛?」
「そっそうだ!お腹空いただろう?何が食べたい?」
「人間。」
「・・・」
冗談だ。けれどオッサンは俺の顔を見てビクビクしている。本気にしてる証拠だ。
本当…笑える。
「人間以外でさ。今日は、おいしものを食わしてやるから。」
「…何があるんだ?」
「え?」
「あんた、言葉分かんねえの?今日何があるのか聞いてんだよ。何があんだよ。」
「何で分かるんだ?」
「めんどくせぇ、さっさと言え……食うぞ。」
「つっついさっき、ドーム外で事件があったみたいなんだ。白様が…暴れてるって。全く信じられない。何をやっているんだあの青年は。」
「あの青年って?」
「白様の様子番の青年のことだ。」
「へぇ、あいつがね。…で?空がどうしたんだよ。」
「白様と言え。白様が…雨を降らしたそうだ。」
「雨…」
久しぶりに聞いたな、雨って。どんなだったか、あんま覚えてねぇや。
「とりあえず翼くんは今から、その青年を捕まえてきてくれ。」
「…めんどくさい。」
「ご馳走を好きなだけ出す。」
「この首の鎖も外せ。首が凝って仕方ない。」
「…それはできない。」
「なら、素材を変えろ。」
「…分かった、革のものを用意させよう。」
鉄格子を開けられて、首の鎖を引かれる。
「さあ、行くぞ。」
「おい先に言っとくが、国王には会わねえからな。」
「分かっているよ。国王様も君には会いたがらないしね。」
「ふっ、怖いからか?」
「無礼だぞ。国王様だ、そんな訳がないだろう。」
「はいはい。」
そんな訳がない、ねぇ。一番信用できない言葉だ。ビビりなくせに。このオッサンも、国王もよ。
さあて、ご馳走のためにちょちょいと仕事すっか。