怖い空
外に出て、どこに向かえばいいのだろうかと、辺りを見回す。弟は、どっちに行ったのだろう。
「…あ…どこ…いった…の…」
声が上手く出ない。ずっと一人で部屋に籠っていたからだ。
どこに行ったの?どこに行けば弟はいるの?
「あれぇ?今度は女の子だぁ。」
「…!?」
ゆっくりと上を向く。白い空がフワリと動いた。
「どうしたの?また君も探しもの?」
「しろ…さ…ま。」
「うん?どうしたの?」
「弟…を知り…ま…せんか…?」
「弟?君の?あっ、もしかして、少年のお姉さんかな?」
「弟は…どこ…ですか…?」
「さぁ?寝てたから分かんないな~。探してこようか?」
「…いえ…大丈…夫です。」
どこへ行ったの?近くにいるの?呼べば、会えるかな?
「…ど…どこ…に!行っ…たのぉーーー!!!!」
やっぱり声が上手く出ない。けどどうか、届いて…。
「しろ…さ…ま。」
「・・・」
また寝てしまったのだろうか。
すると、前方から二人の人影が現れた。一人は背丈が弟とそっくりの男の子だ。二人は手をつないでこちらへ歩いてくる。
「あ…」
弟だ。弟しかありえない。けど、横の男の人は誰?
「あっ!おねえちゃん!?おにぃさん、おねえちゃんが、へやからでてきた!」
「おー、あれが少年のお姉さんか。じゃあさっき叫んでたのもお姉さんかな?」
「あ…の…」
「おねえちゃん!!」
弟が、私の胸に飛び込んでくる。あぁ、久しぶりに弟の香りを嗅いだな。
「ねえ…帰…ろう?あの人誰?」
弟をギュッと抱き締めて、弟の耳元でそう言う。
「あのひとっておにぃさんのこと?」
弟がさっきまで手をつないでいた男を見ると、男は私の目の前に来て、私の首を指差した。
「お姉さんは声が出ないのか?」
「…出…てる…でしょ。」
「うんまあ。でも上手く出ないみたいだなぁと思って。長く部屋に一人でいたからか?」
「あなた…誰…?」
「お姉さん、それは相手の顔を見る前に言うのは良くないよ。」
ゆっくりと男の顔へと視線を上げる。
「…あっ…。」
「どうしたんだい?お姉さん?」
「あ…なた…」
「うん?」
私は彼を知っている。 とってもよく知っている。けど…
「なん…で?」
「うん?」
男の手をつかむ。
「??おねえちゃんどうしたの?」
私と男の間に挟まれた弟が、私の顔を不思議そうに見ている。
「…なん…で!!」
パァン!!
私の手が男の顔をぶった音が、辺りに響き渡る。
「・・・」
「おねえちゃん!?」
「…何で!!私を…何で…」
男はぶたれた格好のまま下を向き、弟は驚いて私の腕をつかむ。
「私…は…」
「何を、してるの…」
私の声に被せるように、私達の上から声を出したのは、
「白様?」
空を見ると、私達の頭上で白い空が渦を巻くように動いている。
そして、徐々に空がグレー色へと変わっていく。
「…空?…おい!お姉さん!少年!こっちに来い!!」
何?何が起きるの?
それに、白様はどうしたの?…なんだか、空が…
「お姉さん!!」
男が、私に何かを被せて、私のことを引き寄せた。
真っ暗で何も見えない…けど、どうやら布のようだ。
「…あの。」
ゴォォオオオ!!!!
何の音?
「おにぃさん……」
弟が近くで泣いている。何?何が起きてるの?
「少年、大丈夫だよ。だから、僕にしっかりつかまっているんだよ?」
「おにぃ…うっ…さ…」
「大丈夫、大丈夫だから。」
次の瞬間にパラパラと、布の上に何かが落ちてきた。
そして、前から布を持ち上げようとする力がかかっている。
「お姉さん!布を放すなよ!?」
「う…ん!」
…私は、これを知ってる。
…この音も、力も全部、知ってる。
これは…
雨と、…風だ。
「少年!しっかりつかまって!お姉さんも!!」
そう言って、男が私を抱え上げようとする。
「大…丈夫!」
「なら走って!」
男に手を引かれる。
布で前は見えないけど、引かれるままに走る。
弟の泣き声が聞こえる。
男の、息切れした声で弟を必死に安心させようとする声が聞こえる。
私は走り続ける。
そして、走りながら疑問に思う。
雨って、風って、こんなに怖いものだったっけ…?
まだ続きます(笑)
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。