兵士と王様
「この、裏切り者めぇっ!」
王冠を腕に抱きしめ這々の体で逃げまどう醜く肥え太った男
「衛兵は何をしている、私を助けろ! 私は王だぞ! この無礼者を殺すのだっ」
男が酒に焼けた擦れ声で叫び罵声を浴びせてきた
違う
僕らが裏切ったんじゃない
「き、金をやろう! それとも美姫がいいか?! 望むなら大臣の地位も授けよう! 望みの物はなんでもくれてやる!」
薄笑いを浮かべ宝石や金を差し出すその姿は醜く浅ましかった
「くそっ、ここは私の国だ、好きにして何が悪い!! 私は王だ、王だぞ、王なんだ!! 国も土地も金も民も、全て私の物だ! これは私の物だ誰にもやるもんか!!!」
陛下は王冠を護るように蹲った
違うよ、陛下
貴方が言ったんだ
“民あってのこその国、王冠など飾りに過ぎない”
暗愚であった先王(実兄)を屠り、傾き変えた国を瞬く間に建て直した貴方
“国が王の物なのではない、王を含めた国の全てが民の持ち物なのだ”
全て昔の貴方が言った事だよ
“我が命、我が物にあらず。すべては護るべきモノ達の為に捧げよう”
呪われた玉座、呪われた王族
陛下……貴方さえも呪いに抗えずに変わってしまったというの?
僕は、昔の貴方が好きだった
「う、裏切り者めぇ、その剣でどうするつもりなのだ……わ、私は王だぞ?! 誰か、助け……っ!?」
ゴトン、という音と共に陛下の胴から首が落ちた
軽くなった王の首を持ち上げて見開かれた目を見つめた
やっと僕を見てくれたね陛下
あのね、僕らが裏切ったんじゃないよ
「貴方が僕らを裏切ったんだ」