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壱章 虚空間と思念生物 その4

 女友達と盛り上がった片利奈、悪戯を思いついたが……

 夜になり、創覇大学の東地区、C棟にて。

 無人になった暗黒の講義室の中で、ろうそくが一つ灯っていた。

「ある夏の日……Y子ちゃんは創覇大学のとある学棟……そう、今で言う、東3号棟の北ブロックで研究をしていました……」

 講義室の机に座り、顔の下から灯火を当て、いかにも恐ろしい話をする雰囲気を醸し出しながら、片利奈は静かに語る。

「彼女は恋愛のもつれから、好きだった男、A君に首を絞められ、そのことがショックで自殺をしました……」

 ゆっくりと語られるストーリー。それは怪談だった。

 机には他に、乃衣恵のいえ久麗亜くれあ栗栖亭くりすてぃん江洲輝えすてるが座る。料理部の仲良し五人組が揃っている。

 そして本日は、ゲストとしてミミカが招かれていた。

「とーこーろーがー……。A君はある日、自分の部屋でゆーっくりしていると、テレビがひとりでについたじゃありませんか……」

 片利奈の虚ろな声。ミミカはびくっと体を竦ませる。

「Y子ちゃんはテレビの中の映像に現れて、髪を顔の前にだらーんと下げて、まっっしろな死装束を来て……A君にゆっくりと、ゆーっくりと迫ってくるのです……」

 乃衣恵、久麗亜、栗栖亭もびくびくびくっと肩を震わせる。

「そしてー……Y子ちゃんはテレビからぬるりと姿を現し、A君に襲いかかり、呪いをかけて殺したのでした……」

 所々の要所で言葉に力を込め、非常に上手な語り口で話す片利奈。

「それ以来、東3号棟には、たくさんの『幽霊』が、出るようになりました……。きっとY子ちゃんが呼び寄せたのでしょう……死者の魂が死者の魂がたくさんたくさん現れて……窓ガラスを割り、机をガタガタ揺らし、皆を大いに怖がらせるので……北ブロックには誰も近寄らなくなってしまいましたとさ……」

 言い終えた瞬間、誰かが座っている机を本当にガタガタガタガタ揺らした。

「ひああああああああああああああっ!? なななな何すんのよ誰よタチの悪いイタズラやめなさいよほんとマジやめてえええええええええええええええええっ!?」

 恐い話が苦手なミミカ、部員の演出に耐え切れず叫ぶ。

 ちなみに揺らしたのは五人組のひとり、江洲輝だった。

「情けないですよミミカ。こんなの『創覇大学七不思議』のほんの一つですよ? んふふ……」

 片利奈はそう言って煽る。服装はいつものセミショートヘアーにメイド服だった。

「まったく、本当に片利奈は話が上手いですね。いつも怖くなってしまいます……」

 ポニーテールの不幸系メイド、乃衣恵が控えめな様子で感想。

「マジで怖いですも! もう二度と聞きたくないですも!」

 小さな体の元気っ子メイド、久麗亜が興奮した様子で感想。

「ホントそれですわ! 身体が震えましたや~ん!」

 長身の関西系メイド、栗栖亭が困り笑顔で感想。

「……オチがいまいち……」

 細身の無口なメイド、江洲輝が特に表情も変えずに感想。

 怪談は終わり。だが片利奈は意気軒昂だった。

「みんな、話はここからです。これからこの六人で、実際に東3号棟に行って、幽霊が出るかどうか確かめるのですっ!」

「ええ~!?」

 一同、全員がイヤそうな、いや一度は見てみたいような、そんな顔をして言う。

 創覇大学の学生は常に暇を持て余している。肝試しは面白いイベントになることだろう。

「ねねね、あたし帰っていい?」

 そう言ってミミカは逃げ出そうとするが、乃衣恵と江洲輝が腕をがしっと掴んで拘束した。

 せっかく雰囲気が盛り上がってきたのに、逃亡など許されるものではない。

「いや~っ!! あたし怖いのいや~っ!! ぜったい見たくなあああああああああああああい!!」

 ミミカは恐怖のあまり錯乱するが、五人組はノリノリで彼女を強引に連行し、C棟を出て東3号棟まで歩いた。

 そのまま自動ドアを開け、火災報知器と常夜灯が照らす薄暗い廊下を歩いて行く。

「ね、ね、ね。ほんとーにまじでゆーれいさんでないよね? でないよね?」

 ガチガチガチガチと硬直して震えるミミカ。

「出たら……どうするんですか~?」

 イジワルな片利奈、背後からささやいてミミカに抱き付いた。

「ひあぁっ!? ひゃうぇっ!?」

 夜闇の怖そうな雰囲気に呑まれたミミカ、体に触られただけで悲鳴を上げる。

「いひひ……怖いですよね? 怖いですよね? きっと出ますよ……今日は……!」

 片利奈はミミカを煽りながら、面白いからもっと怖がらせよう、と考えた。

 五人が廊下を先行するように少しずつ後ろに下がり、あるところで身をサッと掃除用具の棚に隠し、集団から離れる。

(よーし、うまくいきましたですっ! このままあの子たちの先回りをして……)

 にひひ……と笑いながら片利奈は階段を登り、上階の廊下を音を立てないように静かに走り、五人が来るであろう先にある、服などを入れるロッカーを扉を開けた。

(今は使われていないロッカーですっ。ここから飛び出ればミミカは怖くなって気絶間違いなしですっ!)

 そう悪戯を考えて、片利奈はロッカーの中に入り、身を隠す。

 しかし、彼女は一つミスをしていた。

 ポケットに入っていたハンカチが、ロッカーの扉に挟まって、半分だけ見える状態になったのである。

「ねーねー、片利奈がいないよー?」

 そうしている内に、階下からミミカの声が響く。

 五人は階段を登り、片利奈の隠れているロッカーの近くまで歩いてきた。

「どこに行ったんでしょうね。……あっ」

 乃衣恵はロッカーを見て、片利奈のハンカチが挟まっているのを見つけた。

「これは……片利奈のお気に入りのハンカチ!」

「はっはーん、なるほどね。あたしたちを待ち伏せして、怖がらせるために隠れているってゆーわけね!」

 ミミカはそう思い、ロッカーの扉をバァンと開ける。

「出て来い片利奈っ! そんな分かりやすい手に引っかかるわけ……あれ?」

 だが。

 ロッカーの中には、誰も、いなかった……。

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