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参章 勇輔、『地獄』にて その3

 時計塔を巡る戦い。

 片利奈は五階のステンドグラスの窓が連なる廊下を走っていた。

「さっきの騒ぎは……何なんですかっ!? し、『死神』の声がして、それから男の声がして……上でドコドコやって……」

 少し足を止め、ぜいぜいと息をついて、それからしばし考える。

「……そっか! アミノさんが助けてくれたんだ! きっとそうに違いないですっ!」

 まさか勇輔が助けに来たとは思いもしない片利奈。

 ずっと前に会った警察官の存在を思い出して、一人で勝手に納得。

 そのまま古びたバロック調の廊下を走り、天使や悪魔の降臨する図が描かれた壁の横を通り抜け、大きな鉄扉を開ける。

「はぁ……はぁ……ここに水車の停止スイッチがあるはずですっ!」

 息を荒らげた片利奈、五階の機械管理室に入った。

 彼女の見た図面の通り、そこには大きなレバーが二つある。

 どちらを操作すれば水車が止まるのか。片方が罠という可能性も排除できない。

「むぅ~……。どっちを動かしたら……」

 片利奈はとりあえず周囲を見回して、何かヒントになるものはないかと探す。

 すると、レバーの操作方法について書かれた紙切れが壁に張ってあった。

 ──右レバーを下げればギアが外れる。左レバーを下げれば動力が止まる。

 それだけ書かれていた。片利奈はさらに迷った。

「う~ん。両方を下げたらいいのですか……?」

 そう思っていると、いきなりガタンッと建物が大きく揺れて、天井にある古びたスピーカーから放送が流れる。

『排水操作が行われました。動力を切らずに待機せよ』

 何者かが上の階でスイッチを操作したのか。外から排水の轟音が響き渡る。

 片利奈は呆気に取られたが、すぐに自分の都合のいいように物事を解釈した。

(そうだ、上にアミノさんがいたのでした。私のために先回りをして排水スイッチを押してくれたんですね! なら……動力を切るのはまずいですっ!)

 排水操作には動力が必要。つまり左レバーの動力スイッチを切るのは間違いだ。

 水没地域に水を供給している水車を止めるため、右レバーを思い切り押し下げる片利奈。

「右のレバーを下げればいいはずです! せぇーのっ!!」

 錆びたレバーが鈍い音を立てて動き、がこんと音を立てて下限に至る。

 その瞬間。

 ガキャンと歯車からクラッチの外れる音が響いて、時計塔の外縁にある水車が停止。

 川から水を引き込んでいた水車が停止し、排水スイッチが押されていることで、洋館の敷地から凄まじい勢いで水が抜けていく。

「やった! これで……」

 片利奈は何かを成し遂げたような、非常にうきうきした顔で機械管理室を出て、廊下を走ってエレベーターを降り、外の見える時計塔のベランダへと出る。

 水没していた中庭、そして水中に隠されていた秘密の『研究所』への入口が、水が枯れたことではっきり見えるようになった。

「これで研究所に行けるようになったですっ! やったぁっ!! ……ぶわっ」

 片利奈、今までの非常に過酷な苦労を思い出して嬉し泣きする。

「あああ……ここまで長かったのですっ……! もう何回『怪物』と『死神』と『部長』に殺されたのか……何回罠に引っ掛かって『死んだ』のか分からないですっ……! 今までにやった、どんなホラーゲームより難しかったですっっ……!!!!」

 彼女はホラーゲームオタクだった。

 魑魅魍魎や怪談の類が大好きで、そうした『怖い』話を見たり聞いたりするのが趣味だった。

 恐らくは『洋館』、あるいはこの『時計塔』も、彼女がかつて見たことのある恐怖の世界観なのかもしれない。

「……でも、これで……ようやく『謎』に近づけたのですっ! きっと地下の研究所で行われている恐ろしい実験が、『洋館』の怪物たちを生み出したのです! 絶対に止めてやるのです!」

 などと一人で納得して、片利奈は元気に駆けていく。

 彼女はいつしか、自らこの世界の登場人物として生きるようになっていた。

 『地獄』の本当の恐ろしさはここにある。

 永劫に続く『死』の中で、自分が現実に生きる人間であることすらも忘れ果て、『地獄』の住人となり……。

 作りだされた『地獄』の設定のままに『役者』を演じ、永久に苦しみ続けるのだ。

 あるいはいずれ、自らが『実際に死んだ』ことも理解できなくなるだろう。

 それが、『地獄』の本当の──。

 

 数分前のこと。

 勇輔は最上階の六階、排水装置のスイッチのあるパネルの前に立っていた。

 時計塔を動かす、大型のギアが剥き出しになった機械装置のある区画。そこには木造の狭い床があるだけで、転落すれば確実に機械に挟まれて死ぬ。そんな場所だった。

 後方には銃を構えた『部長』が立っていて、勇輔にライフル銃を突きつけている。

「さ、早く排水スイッチを押しなさい」

「……」

 勇輔は色々考え事をしているような様子で、不可解そうな顔をして排水装置のスイッチを入れた。

『排水操作が行われました。動力を切らずに待機せよ』

 頭上の古びたスピーカーから音声が流れ、脇で駆動する大型のギアがにわかに激しく回転する。

 外から激しい排水音が響き、密室になっている六階からもそれが聞こえた。

「ふふふ……ご苦労様。手間が省けましたわ」

「……何のつもりだ? これは俺に押されると困るものだろう?」

 勇輔は顔をしかめて振り向く。

 排水スイッチを押し、片利奈が五階で水車を止めれば、水没していた『研究所』への入口が開く。

 それはつまり、片利奈がこの『世界』の恐怖を克服し、脱出するための一助ということ。

 後ろの『部長』が勇輔に命じることとしては不可解過ぎた。

「予定が狂いましたのよ。あの子にはもっと苦しんでもらってからスイッチを押させるつもりでしたのに……貴方のせいで計画の修正をしなければなりませんわ」

 長銃を突きつけたままの『部長』が、くすっと笑って言う。

 まるで、この展開になったのを楽しんでいるかのようだ。

「計画の修正だと?」

「そうですわ。片利奈には一刻も早く地下の研究所に行ってもらわないと……そして、貴方を一刻も早く、この『地獄』から排除しないといけませんのよ?」

 目の前の幻影の女は、『侵入者』を目にしても、余裕を崩すことがない。

 それを見た勇輔、やや挑発的な言動で、真意を問いただす。

「俺を排除するなら、その銃を撃てばいいだろう?」

「ふふふ、そう焦らないでくださる? 貴方とは『取引』しようと思っていますのよ」

「……『取引』だと?」

「そう。『洋館』の屋上にヘリポートがあって、そこに脱出用のヘリを待機させてあるのよ。もし貴方が大人しく従うならば、そのヘリに乗ってもらって、この『世界』のエリア外に出る……つまり、元の世界に戻してさしあげましょう」

 勇輔はそう聞いて、なるほどなと思った。

 この『地獄』の住民たちは、招かれざる客の勇輔を、どうにか追い出したいと思っている。

 片利奈の作った『世界』は、彼女自身が恐怖を感じて作りだすもの。

 勇輔の存在は百害あって一利なしということだ。

「やけに気前のいい話だな。俺を殺さなくていいのか?」

「くすくす……貴方を殺してしまったら、『地獄』に『仲間』が増えてしまうでしょう?」

 現実の彼女と同じように、『部長』は面白そうに微笑んだ。

 美しい長髪とスレンダーな体で、高級なブラウスと宝飾を身に纏い。

 それでいて、話しぶりもとても似ているが。 

「随分と下手くそな『役者』だな? 本物の部長ならそんな甘いことを言わず、今すぐブチ殺している。それに、部長は銃など使わん」

 だが勇輔は、あくまで挑発的に言い放った。

 目の前の女は、あくまで幻影の産物に過ぎない。

「これは最後通牒ですのよ。大人しく従いなさい。貴方の『退魔』の力は、この『地獄』にとってあまりに不都合……不要……不純物のようなもの。我らが盟主は、貴方と交渉で解決することを望んでおられますの」

 そう言って、『部長』は勇輔の心臓のある位置にライフルを押し当てた。

「『退魔』……だと?」

「そう、『退魔』の力。我々、思念生物の体を破壊し、分解し、打ち砕く力……」

「大げさな呼び方だな。貴様らを『元』の姿に戻しているだけだが?」

 勇輔は物体操作能力を応用し、思念生物を構成している思念力の鎖を解きほぐして、バラバラにしてしまう力を持っている。

 だがそれは、『地獄』に住む『死者の魂』にとっては、あまりにも恐るべき、忌避されるべき代物だ。

「貴方たちには理解できないでしょうね。『肉体』を失った私たちがどれだけ惨めな日々を送っているのか……そして、再び『肉体』を得たことがどれほどの喜びか……。貴方のような人に邪魔をさせるわけにはいかない、いきませんのよ……!」

 やや感情的になった様子で、『部長』は勇輔を睨み、真田ゆかりの演技を崩しがちになりながら述べる。

「なるほどな。貴様らが求めているのは、思念生物としての『肉体』というわけか。そのために何の罪もない人間を拉致し、思念を吸い取り、『役者』を演じているというわけだな?」

 勇輔は的確な指摘をした。

 この『地獄』の住人たちは、死によって自分の『肉体』を失い、残留思念、いわば『魂』として漂うだけの存在だ。

 思念空間の『地獄』にとどまることで、『成仏』、つまり自然的な消失は免れているものの、新しい『肉体』を得たいという願望を常に持っている。

 そして、彼らが喉から手が出るほど欲しい、『肉体』を与えてくれる者が──片利奈であった。

「貴様らが片利奈を捕えて『肉体』を得ようとしているのは、自分が死んだことを認められない、お前ら自身の弱さを誤魔化すためだ。実に下らんな? お前たちはとっくに死んでいるというのに」

「なっ……!」

 勇輔が正論で煽ると、『部長』は怒りを露わに顔を紅潮させた。

「お前らの『肉体』など、ただの幻想の産物だ。この『地獄』限定の能力である以上、外の世界で体を維持することはできん。永久に『地獄』に束縛され苦しみ惑い続けている……哀れな奴らだな?」

「なっ……んですってぇ!!」

 あまりの挑発に、『部長』は息を荒らげブチ切れた。

 手にしたライフルの引き金を容赦なく引き、八発の銃弾全てを勇輔に叩き込む。

 接射された大口径銃弾の衝撃で吹き飛ばされ、シャツとジャケットに大穴を開け、勇輔は付近の操作パネルに叩き込まれた。

「はぁ……はぁ……。おのれ……! わ……たしを怒らせるからよ!! はははははっ!」

 勇輔は『本当に』死んだ。

 そう思った『部長』は、大きく高笑いをして勝ち誇る。

 だが。

「……ふう。全く、本当に下手な『演技』だな……」

 勇輔は何事も無かったかのように、むくりと体を起こす。

 胸に叩き込まれた思念物質の弾頭──マッシュルーム状に潰れたそれが、ばらばらと床に散らばった。

 物体操作能力で服を強化し、無傷。

「なん……ですって……!?」

 驚愕する『部長』。長銃を床に落とす。

 勇輔から遠ざかるように距離を取るが、その顔は恐怖に震えていた。

「どうした? こんなガラクタで俺を殺せると思ったのか?」

「な……なっ……」

「話の続きをしよう。お前たちの盟主……『雨野あまの』は何を企んでいる? 答えてもらおうか」

 そう言って、勇輔はつかつかと『部長』へと歩み寄っていく。

 目の前にいるような『役者』の考えていることなど、実際どうでもいい。

 黒幕である『雨野』が何を考えて、この『地獄』を作っているのかが重要なのだ。

「く、くそったれっ!」

 実力の差を思い知った『部長』は、武器を捨てたまま逃走を始めた。

 近くには金属の梯子があり、時計塔の外へと繋がっている。

 そこへ向けて『部長』は必死の脱出を試みた。

「待てっ……!」

 勇輔は急いで後を追う。

 人外の産物である『部長』は、金梯子を五段飛ばしで登りつつ、下から追ってくる勇輔に手持ちのナイフや、近くの瓦礫を投げて攻撃する。

 それは勇輔に通用するものではなく、思念力を込めた手刀で簡単に弾かれてしまったが、時間稼ぎにはなった。

「はぁ……はぁ……! ここ……ならっ!」

 整備用の小さな出口から時計塔の外郭に出て、『部長』は猛風吹きすさぶ、時計の『針』の上に降り立った。

 後を追って勇輔が入口から現れ、大時計の巨大な長針の上に立つ。

「何のつもりだ? 俺から逃げられると思っているのか?」

「ふ……ふふ……逃げるつもりなんてないわよ……」

 追い詰められた『部長』だが、勝算はあった。

 そこは、一歩踏み外せば確実に転落して死ぬ危険な場所。高さは五十メートル以上ある。

 思念生物の自分は死んでも『肉体』を失うだけだ。しかし、目の前の男は、本当に死ぬことになる。

「この場所で貴方と戦う……どうかしら? 一歩間違えれば確実に死ぬ、真のデス・ゲーム……面白いでしょう?」

「くだらんな。俺がこの程度で恐怖を感じるとでも?」

 勇輔はさらに煽る。だが。

「うふふ……実はね、この時計塔には仕掛けがあってね……」

「……?」

「ギアが外れてしばらくすると、水車が完全に止まるのよ。そうすると、短針と長針が自動的に零時の方向に向かう、というわけ……!」

 時計塔は夜の九時十五分を差している。

 このまま針が、零時の方向に進めばどうなるか?

 短針は右回りに、長針は左回りに動く。そして針が重なることになる。

「零時に行って、ぴったり初期位置に重なったら……二人とも『針』に潰されて死ぬってことよ? ふふふ……!」

 笑う『部長』。

 勇輔はすぐに元来た道を引き返そうとしたが、出口にガラっとシャッターが降りた。

「あらあら、安全シャッターが降りてしまいましたわね……」

「……くっ」

 勇輔は物体操作能力でシャッターを開けようと思ったが、動く間もなく長針が上方向に駆動を始めた。

 入口を開けるためによそ見をすれば『部長』にやられる。勇輔は戦うことを選択した。

「わかった。お前を『成仏』させてやる。こんなクソったれ時計に潰される前にな……!」

「減らず口をっ!」

 『部長』は狭い針の上に器用に立ちながら、勇輔に向かって飛びかかった。

 片利奈が見た、真田ゆかりさながらの猛者の動きで拳を放つが、勇輔は腕でガード。

 さらに常人なら胴体が両断されるほどの破壊力で前蹴りを放つが、これも防がれる。

 時計はみるみる進み、短針は十時過ぎ、長針は十分の位置に達した。

「おのれ、これなら……! 六波羅流ろくはらりゅう思念気功波しねんきこうはっ!!」

 大きく傾いた針の先で、『部長』は手のひらを勇輔に差し向け、思念波動の奥義を放つ。

 ドボゥッと凄まじい轟音を上げて光波動が放たれ、勇輔に命中ッ。

 その姿が見えなくなるほどの爆煙を上げた……が。

「……もう、やめておけ」

 薄らいだ硝煙から、全く効いていない様子の勇輔が現れる。

 思念力で全身をガードして、服が焦げ付いたが、有効打なし。

 あまりの戦力差に『部長』は愕然とした。

 勇輔はどこか憐れんだ顔をして、叱りつけるように彼女を諭す。

「お前の使う真田ゆかりの思念力は、片利奈の見た範囲での能力でしかない。あの方が本気を出したらこんなものじゃない。お前は俺に勝てないんだ……!!」

「くっ……!!」

 長針が立つのもやっとなほど傾き、『針』が十一時八分ほどにまで進む中、『部長』は這いながら針先へと逃げる。

 一方の勇輔は、物体操作思念力で靴と針とを接着し、滑り落ちる様子もなく安定した様子で、針先へと歩いていった。

「詰みだ。馬鹿な抵抗はやめろ」

 軋むような轟音を立てて、時計塔の針が零時に迫る中、勇輔は滑り落ちそうになっている『部長』の身体を掴み、落ちないように支えてやる。

 勇輔は危険な『針』から、彼女を連れて付近の屋根へと飛び移った。

 勝敗は既に明らかだった。

「……完敗、だわ。こんな奴に助けられるなんて……」

 敗北に落胆し、跪く『部長』に、勇輔は言う。

「今から六年前。創覇大学の正門前の街道で、当時中学生だった十四歳の女が、自転車に乗っていたところ転倒し、車道へと倒れた。そこへ大型トラックが通りがかり、轢かれて死亡した。女は当時、演劇部員だった……」

「!?」

 淡々と事実を述べると、脇にいた『部長』は愕然とした顔を見せた。

 勇輔の物体操作能力の応用。本来はモノに込められた記憶を取り出す能力で、人間から記憶を取り出すことはできないのだが、思念生物であれば、全ての記憶を取り出すことができる。

「お前が二十歳の部長の身体を選んだのは、生前からの憧れによるものか?」

「そ、それは……というか、何でそんなことを知ってるの!?」

 青ざめた顔をして、『部長』はわたわたと慌てる。

「これは俺の能力だ。思念生物はサイコメトリーを防ぐ力がないからな。お前の記憶の全てを奪い取り、事情は全て把握した。ご苦労だった……」

「な、何よ……それ……っ!」

 驚愕の事実を伝えられ、『部長』は怒りに震えた。

 絶対に目の前の男だけは許さないと心に決め、まだ閉じきっていない『針』へと走る。

「! おい、何を──」

 勇輔は気付いて止めようとしたが、『部長』は既に屋根から転落していた。

 何とか走り込んで追いつき、手を掴んで落下を防いだが。

「う……あああああああああああああああああああああっ!!」

 無情にも、短針と長針が閉じきったところに、『部長』の腰から下が挟まった。

 メキメキと音を立てて、思念生物の体が破砕されていく。

「くそ……!」

 勇輔は自殺を予期できなかったことを後悔したが、もはやそんな状況ではない。

 何とか力づくで『部長』を引き上げたが、骨と内臓が千切れ、血まみれの上半身だけの姿になった。

「う……ぐっ……」

「……おい。これも、『演技』か?」

 目の前の女は幻想の産物と分かっている。

 とはいえ、偽物とはいえ、部長の身体が真っ二つになって、血糊をぶち撒けているのは気分の良いものではない。

 勇輔が呆れた顔で問うと、『部長』は喘息しながら勇輔を睨んだ。

「ふざけ……ないで……! 死ん……で……あなた……に……とり憑いてやる……!!」

 彼女は、勇輔に自分の全てを知られたことが、よほどプライドに触ったようだ。

 自ら命を絶って残留思念の姿に戻り、勇輔にとり憑いて、祟ってやろうと思っていた。

「ふざけているのはお前の方だろう? その体でぐちゃぐちゃの姿を見せるんじゃない」

 だがその行動は、勇輔の不興を買った。

 勇輔は動けなくなった『部長』の身体に触れて、穏やかに思念力を込める。

 彼女の死にかけの肉体が光に包まれ、分解され、すうっと霧のように消えていく。

「わざわざ自殺などしなくても、運命は一緒だ。安心して『成仏』しろ……」

 そう言って、勇輔はその場を立ち去ったが。

 彼は一つ致命的なミスをしていた。

 それは──

 


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