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WAR TIME  作者: 如月 怜
2/2

1、

WAR TIMEの一話目です。結構時間、かかりますね。

目覚ましがセットした時間に鳴る五秒前。渚は唐突に起きて目覚ましを止めた。ちょうどピッタリ、午前五時に止めた。


「 ん〜…。眩しい…」


少し目を細めて見た窓側は直射日光の嵐に見舞われていた。この状況は渚にとってかなりヤバイ。

実は渚には吸血鬼ヴァンパイアの血が混ざっていたりする。ある事件に巻き込まれた時に血を飲まされ、吸血鬼ヴァンパイアにされた。

なので直射日光はアウト。

渚はまず寝間着を脱いで制服に着替える。その後、顔を洗うために洗面所へ行く…。ということをやって、身支度を終えた。


「今日も鉄分だね」


吸血鬼ヴァンパイアと言っても本当の吸血鬼ヴァンパイアのように血を飲んだりはしない。

というか、まだ人間の血は飲んだことがない。だから、吸血鬼ヴァンパイアからすると半吸血鬼ハーフヴァンパイアなんだそうだ。

飲まなくても大丈夫なのだが、野生の本能は怖い。たまにうっかり吸血しそうになったことがあった…ような気がする。

渚はキッチンの冷蔵庫から鉄分ヨーグルトを取り出すとその上に赤いストロベリージャムをかけて食べ始めた。

後は、学園の準備をしたりしているとあっという間に午前六時である。


「行ってきます」


渚は玄関で誰もいないはずの家に向かって言った。



しばらく歩くと直ぐに見えてくる建物がある。

一見すると「なんだこの家は⁈」という感じなのだが、ここが渚の通う葉蘭学園である。


「あ、おはよう。渚」


不意に後ろから声をかけられた。

渚が後ろを向くと茶髪の女ーー神崎紅葉かんざきもみじが立っていた。


「今、気配を消してたでしょ」

「あれ、ばれちゃった」


いやいや、誰でも分かるって、という自分の身を案じない発言は控えておく。後で何をされるかたまったもんじゃない。


葉蘭学園では、吸血鬼ヴァンパイアを倒すためのエリートを育てている。さしずめ、軍の養成所だ。

学年はなく、あるのはクラスのみ。大体みんな高校生くらいの年齢で、渚は16歳。

クラスは全部で26クラスある。Aから筆記と実技の成績順である。渚はA組の次席。ちなみに首席は紅葉だ。

さらに渚は生徒会の副会長もやっている。


「ほら、早く行きましょ。遅れちゃうわ」

「うん、そうだね」


渚と紅葉は二人並んで校舎へ入っていった。

二人が教室に着くと、ひとりでに扉が開いた。もちろん中から誰かが開けていると思うけど。


「おはよ、渚っち」


最初に話しかけてきたのはこげ茶髪の青年ーー涼宮甘楽すずみやかんらである。こいつと渚は昔からの付き合いで幼なじみだ。このクラスでは四番目の成績だったはず。


「おはよう、甘楽」


とりあえずの挨拶をしておく。

ちょうどその時クラスの女子がしている噂話が耳に入る。


「昨日の知ってる?」

「え、なに?」

「あぁ! フェアリーズでしょ?」

「そうそう!」

「また吸血鬼ヴァンパイア倒したの?」

「うん。32体やられたって」


という風に。

渚は内心ギクッとしながら何も聞かなかったようにスルーする。


今日の授業は吸血鬼ヴァンパイアの弱点についてだ。

先生の話は長いので、まとめると。


吸血鬼ヴァンパイアを仕留めるためには吸血鬼ヴァンパイアの血を染み込ませた武器を使う必要がある。

そして人類も、殺すには人間の血を染み込ませた武器が必要になる。

理由は…知らない方がまだいいだろう。


「ねぇ、渚くん。一緒に帰らない?」


終礼が終わった後、クラスメイトの遅咲美紅おそざきみくが話しかけてきた。


「ごめん、今日は用事があるんだ」

「そっか…ごめんね」


渚は美紅の誘いを断って校門へ急いだ。



その後。

渚と紅葉、甘楽は校門前に立っていた。


「今日の活動内容は…」


紅葉がポケットからタブレットを取り出して確認する。


「渚君は採血。甘楽は先にパトロールを」

「あれ、紅葉っちは?」


一拍沈黙を置いてから紅葉は答えた。


「今日は渚君の採血に付き合おうと思って」


途端に二人が顔を見合わせた。


「いいの?」

「紅葉っちにはキツイかもよ…?」


二人の心配する一言に紅葉は笑顔でいいの、と言った。


吸血鬼ヴァンパイアを倒すために染み込ませる血はその持ち主の強さに比例する。つまり、強い吸血鬼ヴァンパイアの血は強力なのだ。

渚も八割くらいが吸血鬼ヴァンパイアで、強い。だから軍は渚を殺さずに、利用している。


「着いたよ。紅葉」


渚が言った。着いた場所は学校の近くの商店街だった。


「本当にこんなところにあるの?」

「もちろん」


渚は紅葉に付いてきて、と言うと、近くの本屋に入った。


「あ、こんにちは」

「渚くん! 今日はあれ?」

「えぇ、まぁ」


本屋のお姉さんと会話している渚。どうやらこのお姉さんは軍の関係者らしい。やがて渚が奥に入っていこうとしたので、紅葉も後を追った。

廊下を進んでいくとエレベーターが見えた。渚はそのエレベーターに乗って紅葉を呼ぶ。紅葉は渚に続いてエレベーターに乗った。


「Dr.野々宮?」


エレベーターがついたのは地下の実験所だった。

渚はここの所長を呼んでいた。


「やぁ、渚。あれ? 今日は彼女付き?」


Dr.野々宮と呼ばれた男は渚の後ろにいる紅葉を指して言う。


「違います。僕のクラスメイトでチームメイトです」


なーんだ、とつまらなさそうに言った野々宮を渚は鼻で笑う。


「で、採血? いいの? この娘の前で」

「私が頼んだんです。大丈夫です」


Dr.野々宮はそれだけ言うと渚を個室に連れて行った。まるでそれは取調室のよう。

渚を中に入れると中央にある椅子に渚を座らせ、いきなり縛り付けた。


「な、なにしてるんですか⁈」


慌てて言った紅葉に渚は笑って言う。


「こうでもしてないとね。ちょっと危ないから」


最初は渚の言っている意味が分からなかった。でも、Dr.野々宮が採血を始めた辺りから何となく、嫌でも理由が分かった。


「あ……うぁ……がぁ……ぁぁぁぁああああああああああああああ‼︎」


血を抜くにつれて、渚のうめき声は大きくなる。余りの光景に紅葉は目も開けてられない。


「君、下に行ってなさい。キツすぎるだろ?」


紅葉はうめき声を上げる渚から逃げるように部屋を出て、エレベーターのある最初の部屋へ駆け込んだ。


「大丈夫かい?」


Dr.野々宮が心配そうな目で紅葉を見ていた。


「あ、はい…」


ショックすぎて言葉が出てこない。


吸血鬼ヴァンパイアでもね、血を抜かれるととても痛いんだよ。でも渚は月一で毎回ちゃんと来てくれるんだ。偉いよね」

「私は…」


紅葉はDr.野々宮の言葉を遮って口を開き、言葉を紡ぐ。


「知りませんでした。チームメイトなのに、何も知らなかった…」

「それでいいんだ」


突然後ろから声がした。紅葉が振り向くと渚が立っていた。


「僕が何も言わなかったんだ。紅葉のせいじゃない」


紅葉は少し涙をためながら頷いた。

その時だった。

けたたましい警報の音が響き渡った。


「まずい…。吸血鬼ヴァンパイアの先制だ!」

「い、行かなきゃ…!」


渚と紅葉は音を聞くなり、研究所を飛び出した。



警報が鳴った時。

東京のある場所で大勢の影が蠢いていた。そして、それらから東京を守るように大勢の人間がいた。


「人間って、哀れよね〜」


吸血鬼ヴァンパイア達の中で真ん中にいるひときわ白い少女のような吸血鬼ヴァンパイアが赤い液体の入った試験管のようなものを持ちながら言った。


「ユーラシア様。そろそろでごさいます」


ユーラシアと呼ばれた少女の隣にいる長身の男が言った。

ユーラシアは吸血鬼ヴァンパイア達の先頭まで出た。すると、人間の方もひとり誰かが出て来た。


「わたくしが吸血鬼ヴァンパイアの女王 ユーラシアです。それでは、始めますわね」

「本当、血の気の多い女王様だぜ」


人間の方、日本吸血鬼殲滅軍ギルティフェアリーの総督、小林大樹こばやしだいきは言った。


「あら、今回は容赦しないわよ。堕ちた妖精(・・・・・)

「ふん、ほざいてろ」


じゃあ、と言って二人は右手を上げる。


「「スタート・WAR TIME‼︎」」


二人がそう叫ぶといきなり戦闘が始まった。

WAR TIME、というのは吸血鬼ヴァンパイアと人間の間で交わされた約束よようなものだ。

これが始まる前には警報が鳴らされ、一般市民は地下へ避難する。ルールが幾つかあって、例えば。

地上のみの戦闘にすること。

WAR TIME始まりの宣言から終わりの宣言までが戦闘時間とすること。

など。

そしてこの戦闘には、たまに葉蘭学園の生徒も軍の人間としていたりする。



「紅葉! こっちだ!」


WAR TIMEが始まった頃。渚と紅葉は商店街まで出てきていた。吸血鬼ヴァンパイア達がここまで来ることはあまりないので、もっと前線の方へ向かって走る。

いつの間にか二人は黒い軍服に着替えて、武器を持っていた。

渚は拳銃二丁と剣を一本。紅葉はライフル銃をひとつと短剣を一本。どれも、もともと黒なのだが、少し赤黒くなっている。


「甘楽!」


紅葉が甘楽を見つけて走った。後から渚も続く。


「遅いんだなぁ。紅葉っち、渚っち」


甘楽は文句を言いたげの顔で二人を見た。


「悪い、ちょっとな」


渚は甘楽に謝ると、剣を抜いた。


「で? どうなんだよ。吸血鬼ヴァンパイアは」

「やっぱ渚っちを狙ってるな、ありゃ」


渚はよく狙われる。特に、このWAR TIMEの時は尚更。

なんでも渚を吸血鬼ヴァンパイアにしたのが吸血鬼ヴァンパイアの女王、ユーラシアなのだ。

吸血鬼ヴァンパイアになった者の強さはされた方の強さに、した者の強さも加算される。

つまり、軍で訓練を受けて、女王に吸血鬼ヴァンパイアにされた渚はとてつもなく強い。


「見ーつけた♪」


やがて、吸血鬼ヴァンパイアの一人が渚を見つけた。それを機会にたくさんの吸血鬼ヴァンパイアが渚をめがけてやって来る。


「紅葉、甘楽! 逃げるぞ‼︎」


渚はやって来た吸血鬼ヴァンパイアを見るなり、一目散に逃げ出した。前線を横に横に逃げていく。

しかし、前からも吸血鬼ヴァンパイアが来た。


「っ! 挟み撃ちか…!」


渚は仕方なく、腰から銃を抜く。紅葉、甘楽もそれに習って武器を抜いた。

ガァン‼︎ という、凄い音がした時。戦闘は始まっていた。


「くそっ!」

「なんて強さだ!」

「ユーラシア様の力も凄いわね」


渚の戦いぶりに関心している吸血鬼ヴァンパイア達。


「油断は禁物だよ?」


突然渚が間合いを詰めた。ちらっと見えた渚の目は、ほのかにピンクの光を放っていた。

吸血鬼ヴァンパイアはその力を使うとき、必ず目が光るのだ。人によって色は様々。渚はピンクに光る。


後一撃…!


渚がそう思った瞬間だった。

辺りにまたあの警報が鳴り響く。WAR TIMEが始まった後のあの警報はWAR TIMEの終了を意味する。


「あぁ、残念。じゃあまたね、渚くん(・・・)


吸血鬼ヴァンパイア達が去った後、渚はいきなり膝をついた。吸血鬼ヴァンパイアの攻撃を何発かくらっていたのだ。

渚には吸血鬼ヴァンパイアの血付きでも、人間の血付きでも半吸血鬼ハーフヴァンパイアの渚には効いてしまう。


「大丈夫⁈」

「あ、うん。ありがとう」


紅葉が渚の腕を取った。


「紅葉、報告に行こうか」


渚が紅葉に話しかける。


「そうだね」


紅葉はなぜか一瞬迷ってから答えた。

そして渚と紅葉は立ち上がり、その場を去った。




渚と紅葉が去った後。

建物の影からそっと出て来た人物がいた。


「え、あれ、渚くん…? なんで軍服を着てるの?」


それは、渚と同じクラスで、今日は軍の人間としてWAR TIMEに出ていたーー美紅だった。



誤字脱字がありましたらコメントください。

もう一個の小説をぜひ読んでくださいね、

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