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1話

 なんとかアクアンと呼ばれる街にキャロルのおかげで到着することができた祐司。事前に聞いておいた段取りの通りに門番から差し出された水晶玉に恐る恐るながらそっと触れる。


「──悪事、ならびに殺人の履歴なし。ようこそアクアンへ、と言いたい所だが……お前さんは人間なのか? ずいぶんと頭が小さくて体がでかいが、大丈夫なのかい?」


 門番からもこう言われてしまう祐司。こっちからしてみればあんたたちの方が異常なんだと言いたくなるが、そこはぐっとこらえる。下手な事を言えば余計に変な方向に話が進みかねない。そうなれば、ここまで案内してくれたキャロルにも迷惑がかかるだろう。それは回避したいと祐司は考えていた。


「ああ、そういう訳だからさ、この後はあたしが責任をもってこいつを治療院に直行させるよ。ここの医者は一流だから、もしかしたら何かわかるかもしれないからね」


 と、ここでキャロルの援護が入る。そのキャロルの言葉を聞いた門番はそれならば問題ないなと祐司の通行を認めた。


「あたしに拾われてよかったね。下手したらあんたはしばらく街の外で野宿しなきゃならなかったかもよ?」


 治療院に向かう途中で、キャロルからそんな事を言われる祐司。しかし、そんなキャロルの言葉も耳半分にしか祐司には聞こえていなかった。何せ廻しの人は全員がデフォルメキャラサイズ。そうなると祐司の姿はめちゃくちゃ目立つ。遠巻きに見ている人、指さす人、面白いものを見たとばかりに噂話を始める人と様々ではあったが……祐司が思ったことは『動物園に珍しい動物が入った時、動物からはこう見えているんだな』であった。


 そんな精神的に疲れる好奇の目にさらされつつも、キャロルの案内のおかげで迷う事なくアクアンにある治療院に到着した。アクアンの治療院を見るまで祐司はどうせ古ぼけた建物なんだろうと勝手に考えていたのだが……そんな祐司の目の前にあるのは、日本の病院と比べても見劣りすることのない立派な病院であった。


「これは……ずいぶんと立派だな。治療院と言っていたからもっとこじんまりしたものを想像していたんだが」


 そんな祐司の言葉に、きゃろすはあっけらかんと言い放つ。


「何言ってるの。それなりの都市の治療院がこじんまりとしててどうするの。患者も多いしその患者を受け入れるためにはもっと多くの人がいるの。それにそのお医者さん達が満足に働くためには相応のスペースが必要になるのは分かるでしょ。ちなみにこの規模の治療院はアクアンにあと2つあるからね」


 祐司はこの時点で、この世界の生活水準は地球よりも高いのかも知れないと考え始めていた。少なくとも下には見ることはできそうにない。この規模の治療院、日本でいうなら病院だが……東京や大阪と言った都市にあるものと比べても見劣りしない。後は中の様子しだいである。


 そう考えて治療院の中に入ったが……中も清潔であり、ここは日本の病院ですよ言われても違和感はない。周りの人たちがデフォルメキャラの頭身でなければだが。


「すいません、彼の健康診断と疫病関連の検査をひっくるめてもろもろ受けさせたいんですが、先生の時間はありますか?」


 そんな考え事をしている祐司とは違って、キャロルはさっさと祐司の検査のための手続きを進めていた。そして祐司がキャロルに足を軽く蹴られた時、すべての手続きに必要な作業は終わっていた。


「しっかりしなさいよ、アンタの命に係わる事でしょうが?」


 キャロルの正論に、凹む祐司であった。



「さて、そちらの方は初めてのようですのである程度説明をさせていただきます。当治療院では病気の検査を始めとして、怪我の治療なども行っております。また、モンスターなどによる大けがを負った時に救急治療を受ける事も可能です。もちろん相応のお題は頂きますが……今回は義務付けられている病儀、疫病などの検査ですので無料です。ここまではよろしいですか?」


 よろしいですか? と言われても断る選択肢はない。ここでいいえと言えば、この街から問答無用で追い出されるだろう。疫病の蔓延は地球の大都市にとって常に悩みの種となってきた。ここで検査を受けないという事は疫病持ちの可能性を否定することができない事にもなる。そうなれば疑わしきは罰せよという感じで街から追い出されるだろう。だから、ここで祐司が取れる選択肢は一つだけ。はいとうなずく事だけである。


「これから特定の場所にて2日かけてあなたが何の疫病も持ち込んでいない事の確認をさせていただきます。そして万が一疫病をお持ちだった場合は隔離され、治療が済むまで当治療院からの退去はできなくなります。ご理解ください」



 『ご理解ください』と言ってはいるものの、その受付の人が発する言葉の強さに祐司はたじたじだった。当然拒否することなどできようはずもない。だがこれは当然のことで、疫病が万が一街に蔓延すれば死者が大勢出る可能性が生まれる。そんなことになれば街の機能が一気に死ぬ。もちろん完全には止まらないだろうが、それでも人の出入り、経済活動などにはとてつもない被害をもたらす。街を護る為には少し位恨まれようが、これぐらい強い言葉で言わねばならないのである。


「り、了解しました。そちらの指示に全面的に従います」


 何とか祐司がそう言葉を絞り出すと、では案内の者をこちらに向かわせていますのでお待ちくださいと受付の人の指示されたのでそれに従い、やってきた案内の人に連れられて祐司は治療院の奥に消えた。



「──で、キャロルさん。彼は何者です? 私達とは明らかに違い過ぎる頭身。いったいどこから彼は来たんですか?」


 祐司が去ったあと、受付はキャロルにそう質問を飛ばしていた。質問を飛ばすのも無理のない話だろう。明らかに異物と分かる存在が現れたのだから。本来検査は2時間もあれば済むのだ。だが、明らかに異物である祐司を徹底的に検査するために2日と説明したのだ。当然キャロルもその受付嬢のやけに長い検査時間に違和感を持ったが、すぐにそれは明らかに自分とは違い過ぎる存在である祐司の事を万が一の可能性がないことを確認したいがための期間だと気がついたために沈黙していた。


「あたしにも解んないよ。今日の日課のモンスター狩りにいったら、森の中にいたんだ。武器は持ってないし、敵意もない。ワイルド・ピックが帰る途中で出てきたんだが、見た事がない! という反応を見せていたねえ。ワイルド・ピッグといや、いろいろ派生先はあるとはいえある程度の年を取った子供ならだれだって見た事があるのが当たり前なモンスターだってのに」


 もちろん食料として、である。直接戦って狩ることはできなくても知識としては持っておけという事でもあるし、罠をかけて大勢の大人が数に任せて押しつぶせば何とか勝てるぎりぎりの範囲でもあるモンスターであるという一面もある。


「──どこかの富豪の子が奇形児として生まれて……それはないですね。彼は頭身こそ私達と違いますが、五体満足ですし顔もおかしい所はありませんでした。一体何者なのでしょうか?」


 受付の人の言葉に、キャロルは首を振る。


「さーねえ。まあ言葉が通じて明確な敵意は無し、性格も比較的穏やかで争う雰囲気は無い。今はそれだけでいいとしてこう。最悪それなりの奴だったら、あたしがこの相棒でぶった切る覚悟をしてたんだけど……そんな事にならなくて良かったよ」



 そして2日かけて、きっちりと体の隅々まで検査を受けた祐司。祐司はその二日の検査で『戦闘系統のチートも無ければ、内政チートも無理だわ』という結論を出していた。何せ地球にいたときよりはるかに先の医療体制をここでは整えていると分かってしまったからだ。レントゲンやらバリウムと言ったものは存在せず、ただ体を一回舐めるように調べられると体の内臓の様子などが一発で調べられてしまう。ちなみに胃が少し荒れていますね~などと言われてしまった祐司である。


 そして何より祐司がすげえと思ってしまったのは採血のときである。注射が苦手な祐司だが、細い針がスッと刺さっただけで採血が行われていると説明を受けたときには非常に驚いた。針が細すぎて刺さっているなーとは分かるのだが、痛みが一切ないのだ。さらに説明を受けてその刺さっている感覚すらなくすことも十分可能らしいのだが、そうやって刺さっているという事を体に実感させないと採血中という事を分かってもらいにくいのでわざと残しているという。


(これなら、注射嫌いの子なんていなくなるんじゃないか!?)


 注射の何が嫌かといえば、単純に痛いから嫌なのだ。だから子供は暴れる。だがこの注射針ならば全く痛くないので、注射嫌いの子でも暴れる心配はないだろう。この採血の針が、祐司に内政チート……つまりは地球の技術を生かして異世界で生活基盤を作っていくという手段をあきらめさせたことになる。


 そうして2日間みっちりと検査を受けた結果は……白。疫病などの類にはかかっていないと検査結果が出た。その検査結果の紙を見た祐司がへなへなと椅子に座り込みつつ『よ、良かった~』と安どのため息を吐いたことを笑う人はいないだろう。ともかく、これで祐司はアクアンの街を出歩いても良いというお許しが出たことになる。医者の側も、姿かたちこそ違えど体の仕組みそのものは大差ないという事が分かった為に、長期間の拘束をしないで様子を見る事にしていた。


「ほっほっほ、良かったのう。じゃが、2本ほど予防注射をさせてもらうぞ? これは疫病対策じゃから強制じゃ。それと、しばらくは定期的に検査も受けてもらうからの」


 祐司に検査結果の紙を渡したおじいちゃん先生がそう祐司に告げ、祐司は(予防、という考えもしっかり確立してる。完全に内政チートもできないわ)と考えつつ予防注射を受けた。もちろんこの予防注射も祐司に痛みを全く感じさせなかった。


「キャロル嬢には検査終了の連絡を入れておくよ。今のうちに着替えておきなさい」


 そうしてようやく検査のために特注品で仕上げられたという白い服を2日ぶりに脱ぐことができた祐司であった。

こっちは趣味だから更新速度なんてないw

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