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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

LOVE=KILL

作者: 柚篠やっこ

私はヤンデレ、らしい。


らしい、というのは私が今まで自覚していなかったのと、そもそもヤンデレというのがよく分からないからだ。

きっかけは、母の言葉からだった。


「ねえ、皆は好きな子が出来たらどうする? あ〜、お父さんはダメよ、お父さんは。(めい)ちゃんと紗絵(さえ)ちゃんね。ちなみに、お母さんは好きになったらすぐアタックよ。お父さんの時もそうだったもんね〜」


ね〜、と顔を見合わせ惚気ている両親はさておき、妹の答えは自分を磨いて、自信が持てたら告白、だった。

妹はその方法で既に彼氏持ちだ。

私も妹に続いて答えると、一瞬、時が止まったように我が都築(つづき)家の食卓が静かになった。


「好きになったら、即監禁」


相手が他の女にうつつを抜かしては困るし、私だけを見てもらうためには相手を閉じ込めるしかない。

2人の世界で、自然と距離が近づくだろう。

彼に、私だけを見てもらえる。


「あははー、お姉ちゃん、冗談上手いねー。確かそれ、ヤンデレ? って言うんだよね。え、何、最近そんなキャラが登場する漫画でも読んだの?」

「____ え? あ、ああ、うん」


沈黙を破ったのは、隣に座っていた妹だった。

その言葉に黙っていた母たちも次第にそ、そうよね〜、などと言い出して私の言葉は全て冗談だったことになった。

私としてもこのまま本当のことを言って、変な空気のままは嫌だったので、とりあえず妹の言うことに同意した。


「え、ええ、そうよね。鳴ちゃんがそんなわけないものね!」

「そうだな、真面目な鳴が冗談何て言うの初めてだったから、ちょっと本気にしちゃったじゃないか」


いや、本気なのだが。

何なんだ、好きになったら監禁、というのはそんなにおかしいのか。

そんなことを考えながら、今日の夕食は終わるのだった。


____________________


夜。

部屋に戻り、私は妹が言っていた、“ヤンデレ”というものをネットで調べていた。

すると、さすがは天下のGoo○le先生だなと一瞬で出てくるあり得ない検索件数に嘆息しつつ、1番上に出てきたウェブ百科事典のページをクリックする。

すると、ヤンデレの説明と共に歴史や参考文献等が画面に映る。

それによると、ヤンデレ、とは精神的に病んでいる状態で人を愛すことらしい。そして、最終的にはどんどん追い詰められて行き、監禁やら殺人やらをしてしまうそうな。

でも、私は好きになったら即監禁なわけで、最終的にではないのだけどな……

まあ、広く考えたら同じようなものか。

それにしても、監禁以外にも殺人という手もあったのか…… そういう愛し方もあるとは、初めて知った。私はさすがにそこまでは行かないが、殺人するとしたら相手を食べて自分と1つにしてしまうか、冷凍保存させて永遠に美しい姿のままにするくらいはするぞ。

殺すだけなんて、野蛮だ。

ヤンデレの私が言う。ヤンデレの風上にもおけない。


「それにしてもヤンデレ…… ヤンデレか。私のような愛し方の人間は少ないと思っていたが、こんな名前があるくらいメジャーだとは」


今はまだ、そんな人はいないけれど。

早く、誰かを愛してみたい。



____________________



文化祭も終わり、3年生である私たちは本格的に受験シーズンへと突入することとなった。

同学年は皆ライバルみたいなクラスメイトたちの視線が怖い。ヤンデレなのに。

私の高校は進学校なので、さらに一部の有名大学狙い人たちは振る舞いなんかもプラスされてくる。


そんなある日。

私は、1人の男に恋をした。


彼の名前は、仙波忍(せんばしのぶ)という。

クラスは、F組でE組の私とは時々合同授業で一緒になる。

色素が薄いアッシュブラウンの髪に同じくアッシュブラウンの瞳。

身長は、170後半から180前半くらいか。

容姿も贔屓目に見なくても、それなりに整っており、彼に恋する女子は私だけではないだろう。

5月の体育祭あたりから気になっていたが、この前、ついにこの感情が“愛”だと気付いてしまった。


気付いたらすぐ、行動。

これが私のモットーだ。

さて、どうするか。

まず、告白? それとも、監禁?

監禁するとしたら都築家は家族の問題でダメなわけだし、1人暮らしか。

受験勉強に集中するためとかの名目でさせてもらえないかなあ。大学になったら、何の疑いもなく出来るのだが。

…… 悩んでいても仕方がない。

親に話してみるか。


「私、受験に集中するために1人暮らししたいんだけど」

「え? 1人暮らし? 良いわよ〜、鳴ちゃんには良い大学行って欲しいもの! お母さん、期待してるからね!」

「ん? 1人暮らしか? ああ、良いぞ良いぞ。鳴には、良い大学に行って欲しいからな。期待してるぞ、鳴」


母と父の全会一致で、私の1人暮らしは決定した。

拍子抜けするほどに簡単だった。

いや、それにしても相変わらず仲の良い夫婦だな、2人は。

そんなわけで、私は、いくら彼が叫んでも隣に聞こえないような壁が厚いモダンな外観のアパートに住むことになったのだった。



____________________



「ふふふ…… やっと、やっとだ!」


私のアパート住まいが決定した2週間後。

契約やらで色々あり、部屋に荷物もすべて運び込み。

こっそりと準備してきた、彼を監禁する支度も整った。

まずは、部屋を歩き回れるくらいの鎖と手錠。それと、短い手錠。

足枷までは可哀想なのでやらないつもりだが、長い鎖を使われ脱出されては元も子もない

なので、脱出しようとしたら使う本当に歩き回れないくらの短さの手錠も買った。

後は、今まで貯めていた貯金の半分が飛んだ本当は大型動物用の、足を伸ばせるくらいの檻。

だが、安心して欲しい。これを買ったのはあくまでも“おしおき”用だ。

短い手錠よりももっと悪いことをされた場合、一時的に使うものであり、彼が大人しくしていてくれれば使わなくても良い代物だ。

私としても、出来れば使いたくない。

拘束ではない。あくまで、愛して欲しいだけだ。


「私だって、こんな野蛮な手段使いたくはないんだけどな…… 女の私と男の仙波君とでは、力は君の方が上なんだ。我慢してね…… ふふっ」


金曜日、最終下校時刻。

遅くまで図書室で勉強している彼は、部活動の1年生や2年生が学校から完全に去った後くらいに席を立ち上がった。

私もそれを見計らい、勉強道具を片付け始める。

校外に出て、彼の後を気付かれないように自然に尾行する。外は、すっかり暗くなっていて、彼が今歩いているのは誰も通らないような静かな住宅街。

誰にも聞こえないように小さくつぶやくと、これから起こることが自然と頭に浮かび、思わず笑みがこぼれる。

いけない、いけない。彼に聞こえたらどうする!

よく効くというスタンガンをスクールバッグから取り出し、彼の背後に足早に寄る。

それから、彼の首へとスタンガンを近付け______


「何してるの?」

「は?」


次の瞬間、起きたことは私が予想していたこととはまったく違った。

彼が気絶し、そこから彼をタクシーで運ぼうとしていたが、彼は。

スタンガンを持っていた私の右手を掴み、ゆっくりと振り返る。

思わず後ずさる私に、彼は含み笑いをする。


「ねえ、都築さん、何してるの?」

「な、何って…… それに、な、何で私の名前……」


彼はどんどんと私に迫っていき、私は後ずさりしていった結果、塀まで追い詰められてしまった。

え、何で何だ。私の完璧な計画は!?

ダメだ、思考が追いつかない。


「何って? 君のことは何でも知ってるけど? 都築鳴(つづきめい)、18歳。身長163センチ、体重45キロ。靴のサイズは24センチ。スリーサイズは、上から」

「うわあああ!? 何でそんなこと知ってる!? 分かった、分かったから! 何でお前は、気絶してくれないんだ!?」


彼が言う私の個人情報に、慌てて口をふさぐ。

そして、このよく分からない状況に思わず計画を漏らしてしまった。


「気絶? 何それ。あ、俺が鳴のことを知ってるのは、好きだからね。え、もしかして俺を気絶させようとしてたの?」

「うるさい! あー、そうだよ、何か悪いか警察行きか私は!? …… って、は?」


今、何て言ったか。

好き? 今目の前にいるこの男が? 私のことを?

いやいや、ないない。


「…… 愛しているのか? 私のことを?」

「そうだけど」


こともなげに言うが、本当なのか。

彼が、私を愛している。

私は、彼を愛している。

信じられないことだが、これは現実か?

そう思い頬をつねるが、痛い。つまり、これは現実だ。

ということは、相思相愛じゃないか!

何だ、最初は多少、怯えられることもあるだろうと思っていたが、やった、これだと、大人しく鎖に収まってくれる!


「私も愛しているぞ! 相思相愛だな!」

「え……? あ、うん、そうなんだ? …… え」


笑顔を浮かべる私に、戸惑ったように聞き返す忍。

今までは苗字呼びだったが、両思いなら勿論呼び捨てで構わないからな!

それにしても、忍、か。ふふ、良い響きだ。


「じゃあ、俺たち両思いってこと?」

「ああ、そうだぞ。恋人だな!」


これからの忍との監禁生活を思い浮かべ、また笑みがこぼれる。

すると、忍はふうん、と意味深につぶやくと、こう言った。



「______ なら、鳴。殺していーい?」



____________________



結果から言おう。

仙波忍(せんばしのぶ)、ヤツも私と同類だった。

忍は、察しの通り、ヤンデレだ。

それも、私よりもアレな、ヤンデレだ。

好きになったら相手を殺す。殺人系のヤンデレだった。

殺人まではまだ良い。だが、ヤツは殺してからそのままなのだ。食べずに、冷凍保存もせずに、そのまま。

なんてナンセンスなのだ!

ヤンデレの風上にもおけない、ヤンデレの恥だ。

そんなわけで、私たちは恋人通しとなったのだが、アイツへの愛は少し冷めてしまった。

だが、ヤンデレを舐めるな。私はそれでもヤツを愛せる。


「ねーえ、鳴。殺さしてよ」

「嫌だ! 食べずに冷凍保存もせずに、そのままの男に大人しく殺されるほど私は柔じゃないぞ! お前に殺されるくらいなら、私が先に監禁する」

「監禁こそ、俺にとってはナンセンスだよ! 何で拘束するの!? 歳とって綺麗じゃなくなるだけじゃないか! 殺して永遠にそのまま、が良いんだよー」

「ハッ、ほざいてろ。お前に殺されるなら、私はそれより先に監禁する!」

「じゃあ、鳴に監禁されるなら、俺が先に殺す」


______ 果たして、私が殺されるのが先か、私が忍を監禁するのが先か。

それは、誰にも分からない。

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