魅惑のスペイン(1)
マドリードに降り立った一行は、街中の螺旋階段を階下へと下りた。
一枚の扉を開けると 広々とした店内は、異国の魅惑的な雰囲気を漂わせ またスペイン料理が持つ特有な香りなのか、噎せ返すような匂いが鼻に付いた。
私たちは小さなテーブルにグループごとに座らされると テーブルの真ん中に運ばれてきた大鍋のパエリアを上手に 小鉢に取り分けながら食べた。
サフランの香りが鼻に付いたが日本で食べるそれとは、微妙に違った。
食事が終わった私たちは、マドリードの街中を散策しプラド美術館を鑑賞したあと、バルセロナに向かうバスに乗り込んだ。
日本の都会の雰囲気とは違い街往く街道は 洗練されており、派手な看板など何一つ無くとても美しい街並みに感動した。
何処を見ても歴史を感じる重厚な建物が並んでいた。
私たちは、まず 二泊するホテルへ荷物を卸した。
また、このホテルも趣のある建物だった。
それぞれ三人ずつ一部屋が与えられた。
私とミハリと淳が同室だった。
そして、休息する間も無くバスに乗り込み市内見学に出掛けた。
勿論、添乗員の伊藤さんも同行したが、今回は現地のガイド付きだった。
バスの車窓から見えるバルセロナの街中の建築物に次々と目を奪われていく。
例えば、何気なく街角のアパートに目をやると‥
ガウディの設計なるものに遭遇するのである。
このあと、スペインにある巨匠たちの有名な絵画に出会う筈だが‥
私は、そんな有名絵画より、このバルセロナに魅了されてしまっていた。
実は、今 染織を専攻してはいるが高校時代は製図に興味があり何百枚という設計図を手掛けていた。
別に建造物を造っていたわけではなく ただ 授業の中で建造物の展開図なる設計図を立ち上げていたのだ。
これが案外填まってしまっていた。
何故?その道に進まなかったのか!?
父が私の行く手を遮ったのでした。
父は、私の懇談会に来ては担任に‥卒業後は自分の元に置き、事務を手伝わせながら花嫁修行をさせるの一点張り。
それに反発した私は‥
大手の造船会社の設計部を受けるため履歴書を書き書類選考を待っていた。
父が知った その後は大騒ぎだった。
先生に呼び出された私は、進路変更を余儀なくさせられた。
父は決して、傲慢でワンマンな訳ではないのに、私への溺愛が私を苦しめていたのを解っていなかった。
しかし、是が非でも‥就職したいとか、設計の仕事がやりたいとか
そんな気持ちもなかった私は父の仕事を手伝うのも悪くないなぁ~
そんな風にも思っていたが‥
いずれ そうなるんだったら、2年間ぐらいは私を自由にさせて!
なんて本音は父には言えないが、まだ 勉強したいことがあるからと訴え、
あと、2年間 短大に行かせて欲しいと言うと拍子抜けをするような返事が返ってきた。
「若い時は、友達を沢山作る方が先決だ!!」
友達を作るには就職しても同じなのに、父の中では 回りが女子だけという理由でオッケーが出たようだ。
とにかく、籠の鳥になるまでの2年間は、大いに羽ばたいてやろうと考えている私だったのだ。
しかし、これほどまでに歴史的建築物に目の当たりにすることで私の中に秘めていた何物かが目覚めていくような気がしたのだった。