アンカレッジ経由(3)
再び 機内に乗り込んだ私は眠気が醒めてしまい眠れずに音楽を聞いていた。
伊藤さんが何か話しかけてきたのでイヤホンを外した。
「眠れないんですか?」
「はい」
「何か、アルコールを頂きますか?」
「いえっ、結構です。全く飲めないんです」
「そうでしたか。軽い睡眠薬なら持っていますが飲まれますか?」
「ありがとうございます。お薬は大の苦手なんです。すみません」
「困りましたね!」
「大丈夫です。羊でも数えますから‥」
「アハッハ!!ほんとに芳川さんって楽しい方ですね」
「到って普通ですよ!友達の中には私より遥かに愉快な人がいますよ」
「たとえば?」
「ヒラメなんて‥あっ平野さんは、吉本志望ですし、ミハリは、天然なんですけど天然記念物ほど間抜けなことを言ったりしたりしますよ」
「そりゃ〜楽しみだね。平野さんってどの子?」
「えっ〜と、二列目の端に〜」
「あぁ、彼女だね!チェックしておくよ」
「ミハリっとは?芳川さんの通路を挟んでお隣さんだったね」
「よくご存じですね」
「さっき、芳川さんがミハリって呼んでたじゃん!僕、聞いてたんだ!!」
「ミハリって何さんだっけ?」
「白沢さんですよ。白沢悦子さん!」
「えっ、何故?ミハリって呼ばれているの?」
「入学して間もなくね〜実習中に指を切ったの〜普通なら絆創膏を貼って終わりなんだけど‥彼女ったら明くる日ね、3針縫って来たの!!それから〜みんながミハリって呼び出して‥」
「アハハハ!!そっか、そりゃ愉快だ!!最高だね」
「私だったら絆創膏も貼らないで、ペロペロって舐めて終わるような傷だったものだから 唖然!?」
「分かる!分かる!」
伊藤さんは大きな声でバカ笑いしちゃって回りの人が寝返りを打ったりしていた。
「ところで芳川さんは、なんて呼ばれているの?」
「私は、名前でゆきちゃんって!!小さい頃からあだ名とかニックネームを付けられたことがないんです」
「でも、ゆきちゃんって可愛いよ」
「それは、どうも」
その時、アクビと共に眠気が襲ってきた。
「少し、休みます」
私は毛布をカポッと頭から被り眠りに付いた。
伊藤さんは、見回りにでも行かれたのか席を立たれ 暫く帰って来られなかった。
それから 何どきが過ぎたのだろうか?
日付変更線を越えたのか?
それを果たして いつ越えたのかも分からないまま私は眠りから覚めた。
その上、次に用意された食事が朝食なのか昼食なのか さっぱり 分からないまま出されたものを平らげた。
腰かけているだけなのにお腹は空いているのだ。
食事が終わった機内は みんな和気あいあいにお喋りし出した。
伊藤さんは、質問攻めにあっているようです。
現地では買い物の時間があるのか?
何処へ行けば このバッグが‥この洋服が手に入るのか?
門限はあるのか?
様々な質問が飛び交っています。
伊藤さんは席に戻られて 苦笑いしながら
「先生、このツアーは確か美術の研修旅行を兼ねておりますよね」
「勿論です。どちらかというと研修旅行に重点を置いていただかないと困りましたな~」
青木教授も呆れた顔をしてらっしゃいます。
「芳川さんは、何処か行きたいとこ見たいとこある?」
伊藤さんが訊ねられました。
正直言って 美術系には興味が湧かない私でしたが‥青木教授の手前、巨匠の作品を見たいと言えばいいかと考えながら‥先日、テレビで見た世界の建築物を思い出した私は‥
「サグラダファミリアを楽しみにしています」
「一日目に見学に行くから良かったね」
伊藤さんが、そう答えると青木教授が、
「実は、僕の大学時代の友人が建設に携わっているんだよ。会えるといいんだがね」
すると、伊藤さんが
「ほほぉ~それは素晴らしいガウディの弟子と言うことですね!!いやぁ~僕も是非、お会いしたいですよ」
少々興奮気味の伊藤さんでしたが、隣にいる私も興奮しました。
サグラダファミリア万歳です。
日本人が、あの歴史的建築物に携わっていること事態、感動ものです。
こうして私の機内の24時間は地獄なんかじゃなかった。こうして私の機内の24時間は地獄なんかじゃなかった。