アンカレッジ経由(2)
飛行機も離陸して落ち着きシートベルト離脱のサインが出たと共に伊藤さんは席を立ち 何処かへ行かれた。
その隣では青木教授からは既に高いびきが聞こえる。
「早っ!」
淳がトイレに立ち、ミハリが私を手招きして呼んだ。
「ねっ、ねっ、ゆきちゃん この席順って可笑しいよね。淳からヒラメまで出席番号順でしょ。ゆきちゃんが『よ』だから一人余ったのかな?」
「もう、そんな事 どうでもいいよ〜」
ミハリは、私の不満を解消する為にいろいろと慰めてくれていたのかもしれないけど、正直、座る場所ぐらい大して変わりはないし 逆に静かでいいし、眠りたいとき眠れるし然程 不満な訳ではなかった。
性格的には、どちらかというと一人の方が好きな私だ。
機内サービスでドリンクが用意された。
青木教授は、乗務員、ここでは敢えてスチュワーデスと言っておこう。このスチュワーデスさんの
「お飲み物如何ですか?」の声に反応したのだろう。
すかさず 氷の入ったグラスを傾けておられまして
「芳川さんも何か飲んだら〜?」
「先生は、何を飲まれておりますか?」
「僕は、水割りをいただいたよ。ぐっすり眠りたいからね」
私は、オレンジジュースを注文した。
その時 伊藤さんが戻って来られた。
「先生、山野教授のクラスの学生が具合が悪くて‥様子を窺ってはいるのですが‥」
「そうですか!どんな具合でしょう〜」
「熱はないようですが‥気分が優れないらしくて‥少し様子をみてみます」
「はい!宜しくお願いします」
「わかりました」
それからlunchを摂り、暫く休息をとった。
何時間が過ぎたのだろう。アンカレッジで一先ず 飛行機から降り
眠い眼をを擦りながら ターミナルから見える景色を眺めていた私は、ふとっ 視線を感じ、そちらを向くと伊藤さんがこちらを見ていた。
にっこりと微笑み こちらへ向かって来られた。
「お疲れさまです。さっきの具合が悪い子どうなりました?」
「あぁ、あの子ね。生理痛だったようだよ。女の子は大変だね」
「はい!大変です!」
私が余りにもおどけて答えるものだから伊藤さんは、苦笑いした。
「えっ!何か可笑しかったですか?」
「いやっ、芳川さんの言い方が淡々としていて‥つい!」
リラックスされたのか、楽し気にお喋りが始まった。
「お友だちの皆んなは どうしたの?」
「お腹が空いたとかで〜おうどんを食べに行ったんですよ」
「ここのうどんは、美味しいとは言えないよ」
「何故ですか?」
「確か、日本のうどんじゃない筈だよ。粉っぽくてパサパサしてるって聞いてるよ」
「そうなんですか。それを先に知っていれば 皆んなを止めたのに!!」
「まぁ、それも経験だよ。美味しいものなら、あちらへ行ってから案内してあげるさ」
「ありがとうございます」
何の気なしに偶然 伊藤さんと二人っきりでアンカレッジの景色を前に話し込んでいると、ミハリたちが戻ってきた。
「ゆきちゃん、行かなくて正解だったよ」
かなりのご不満でプリプリしている様子が窺えた。
既に、その訳を知っている私はちょっぴり優越感らしきものを味わっていた。