第一話 その2
すがるように優さんを見るも、ニコニコ微笑んでいるだけで、ツッコミを交替してくれそうにない。無口な天宮は元から戦力外。その時、
「おう、どうした?」
ガラリとドアを開けて、暦先輩が入って来た。ナイスタイミング、暦先輩。僕はこれ幸い、と話題を変える。
「暦先輩、春原を見ませんでしたか?」
「ああ、あいつなら転んで膝をすりむいたから、少し遅れるってさ」
「あぁ、そうなんですか」
良かった、こっちは普通の会話だ。
……ってあれ?あの無駄に運動神経抜群の春原が、転んだ?何か嫌な予感が……。
「なんでも、バナナの皮を踏んで階段の踊り場から落ちたらしい」
「何故バナナの皮!?」
聞くんじゃなかった。どこの戦〇ヶ原さんだよ。
「でも落ちる寸前で受け身とったから、擦り剥くだけで済んだらしいけどな」
僕はため息をつく。しかしまぁ、バナナの皮とはベタな真似を……。ベタというより、最早古典的と言った方がいいかもしれない。
ていうか何故学校にバナナの皮が落ちてるんだろうか。
ところで、
「そういえば部長、なんでもう台本選んでるんですか?まだ4月なのに…」
確か去年は5月中旬辺りだったハズだ。そんな僕の質問に、優さんが答えてくれた。
「それはね、竜君。たまには真面目にやらないと、部活日誌に書く内容がなくなるからよ」
「…そこら辺の事情はあまり聞きたくなかった……」
「それに、たまには真面目ってどういうことよ、優。私達はいつも真面目に雑談しているじゃない」
部長も文句を言う。
「いや、真面目に雑談って…」
ギスギスしてそう。というかそれは討論の類ではないだろうか。そもそも真面目である時点で雑談じゃ
ねえし。
と、ここで、
「遅れましたぁ〜」
演劇部最後の一人、春原蘭の登場だった。いや、だからどうした、というわけでもないけれど。
「やあ、春原」
「今まで同じクラスで一緒に授業を受けていたのに、今更〈やあ〉もないでしょう」
「バナナの皮はどうだった?」
「…ふぇ!?」
あ、春原の顔がだんだん赤くなってきて、アワアワしてる。そして、暦先輩を睨み付けている。暦先輩は春原に睨まれて目を逸らした。わざとらしく口笛を吹く暦先輩。誤魔化すの下手だなぁ…。
と、ここで部長が、
「ところで蘭、あなたはこの中でどの台本がいいと思う?」
助け船を出した。春原はん?と振り向き、こう言った。
「いや、それラノベだし!台本じゃないし!」
ごもっともな意見である。
「でも、強いて言うなら…灼〇のシャナかなぁ…」
春原、そこでおまえもノるなよ。まぁ、今更この部長に反論しても無駄だっていうことはわかっている
が。仕方がないので、僕も手近にあった〈とある〇術の禁書〇録〉を読む。実は未だ読んだこと無かったんだよな……。
…おぉ、これ面白い。