第五話 その2―Side:Ryuuya ―
程なくして、担任教師の平山郁夫[(29)独身、苦労性の草食系]が教室に入ってきた。隣の席に春原が戻ってきたので、聞いてみる。
「大丈夫か、春原?」
すると、
「だ、だだ、大丈夫大丈夫!ほらほら、こんなに元気!」
という答えが返ってきた。
…なんか、どうも春原は僕と話すとき、不自然な気がする。もしかすると嫌われているのだろうか。もしそうだったら、やだなあ、何か。同じ部活なのに。
教卓をパンパンと叩き、担任教師平山郁夫[古典担当、彼女居ない歴=年齢]が声を張り上げる。
「えっと、知っている人も居るかもしれませんが、うちのクラスに転校生が来ることになりました」
その話ならクラス全員が知っている。
そんなクラスメイトたちの、「早くしろ」という視線を受け、担任平山は廊下に向かって、
「では、入ってきてください」
と言った。
入ってきたその少女は、確かに見事な金髪縦ロールだった。ドリルみてぇ。
少女は、アメリカにいるはずのあいつによく似ていた。…まさか、な。
しかし、さっき彼女と目が合った時、にっこりと微笑まれたのが妙に気になる。笑い方までそっくりだ。
「それでは自己紹介を」
という平山の声に促され、
「金城舞華〈かねしろまいか〉と言います。アメリカに居たので日本のことはよく分かりませんが、仲良くしてください」
と挨拶をした。
クラスメイトたちは口々に、
「え、帰国子女!?」
「かわいい!」
「彼氏いる?」
等と言っていたが、僕は一人茫然としていた。間違いない、彼女だ。彼女が、舞華が帰ってきたんだ。
舞華と目が合う。頭のどこかが必死に逃げろと叫んでいる。しかし、足は固まったまま言うことを聞こうとしない。
案の定、舞華はこっちに駆け寄ってきて、
「りゅ・う・や────っ!!」
と叫びながら抱きついてきた。
「うおうっ!?」
突然のタックルに、思わず体勢を崩す。
昔からこういうやつだったよな、と床に転がったままぼんやりと思う。なぜか僕によく懐いていて、所かまわず抱きついてきたりしていた。
ただし、成長して体重も増え、威力が向上している。不意打ちで食らったらたまったもんじゃない。あと、それ以外の色々も成長しているため、抱きつかれると何とは言わないが僕の体に当たる。
「いや本当アメリカに居る間ずっと淋しかったよ竜也に会えなくて!元気にしてた?」
「今僕は舞華に押し倒されている状態で固い床に寝ていて、とても健康に悪い状態であることを分かった上でその台詞を言っているのか?」
そしてもっと句読点を付けろ。読みにくいわ。
「いや、ごめんごめん。つい竜也に会えて嬉しくて」
「いいから今すぐ僕の上から離れろ」