第四話 その5
僕や暦先輩の戦い方は、チェスや将棋等の戦術に似ている。相手の思考を読み、フェイントで揺さぶりをかけ、視線や挙動で牽制しあい、拳や蹴りが飛んでくると予想した箇所に腕等を置いておいて弾き、防ぐ。
故に。
牽制として、更に相手も同じ様に竹刀を投擲してきた時の迎撃として、攻防一体のこの行動を取るということは、ある意味予定調和のようなものだったのかもしれない。
そして僕たちは、竹刀を投擲すると同時に、お互いに向かって駆け出した。
竹刀は、お互いにぶつかり合って左右に弾け飛んでいく。それを尻目に、僕と暦先輩は更に加速し、同時に相手の顔面に拳を繰り出す。僕は首を思いっきり傾けることでそれを避ける。見ると、暦先輩も同じ様にして僕の拳を躱わしていた。
お互いに距離を取り、構え直す。先に動いたのは僕。一気に踏み込み、ボディーブロウを打ち込む。腕をクロスさせてガードする暦先輩に、それによってガードががら空きになっている頭部に回し蹴りを放つ。
暦先輩はそれを少しだけ屈んで避けると、そこから僕の軸足に足払いをかけてバランスを崩し、そのまま投げ飛ばされた。技は大腰かな?ちゃんと腕を掴んで頭を打たないようにもしてくれている。
いやはや。
「実に面白い」
体勢を立て直し、距離を取ってから〈フレミングの右手の法則〉の形をさせた右手を顔にあて、そう呟く。
「ネタが古い」
ダメ出しされてしまった。厳しいなぁ。気を取り直して。
「まあ、楽しいのは本当ですよ」
そう言う。
「……竜也、また狂戦士状態に戻ってねぇだろうな?」
どこか心配そうな顔で暦先輩が言う。
「大丈夫ですよ、この位」
多分、だけれど。久しぶりに軽く本気を出したから、少しマズいかも知れないけれど。
まあ、恐らくその時には、目の前にいるこの人(暦先輩)が何とかしてくれるだろう。三年前のあの時の様に。
そして、戦いは尚も続く。
「うおぉぉっ!」
「おらあぁぁっ!」
殴り、捌き、蹴り、受け、数え切れないほどの攻防の応酬を繰り広げる。殆ど本能的に、反射的に身体を動かし、間断なく動き続ける。
そして。
暦先輩の大振りなフックをしゃがみ込んで躱わし、そのまま床に両手を着いて両足を宙へ上げる。逆立ちのような恰好のまま、腕を軸に脚を振り回す。
「…カポエラ!?」
驚きながらも暦先輩は両腕で蹴りをブロックする。しかし僕はそれを気にも留めず、そのまま連続して回し蹴りを放ち続ける。
何度か打った頃、暦先輩に右足を掴まれた。僕は床から両手を離し、腹筋を使って掴まれた右足を身体に引き寄せる。
その結果。
ゴチンッ☆
思いっきり暦先輩の額に頭突きをかました。
「痛ぇっ!?」
暦先輩が悲鳴を上げる。かく言う僕もノーダメージとはいかなかった。目から少々汗が滲み出たとだけ言っておこう。
そしてそのまま、
「これで、終わりだッ!」
右ジャブ、左ストレート、右回し蹴り、左後ろ回し蹴り、右ストレート。
格ゲーのコンボのように連続攻撃を暦先輩に当てる。
「……降参、だな」
肩を竦めて暦先輩が言った。……今回は勝てたな。これで、一勝一敗だ。
後日談。
「うがぁっ! か、身体が……ッ!」
暦先輩は僕と戦った翌日、大変酷い筋肉痛に悩まされたという……。
「ちょ、華、やめろ!そこを触るな!ほら竜也も見てないでこいつを止め……アーーッ!!」
第四話・了
今回の没ネタ
「行くぞ、竜也ぁ!」
暦先輩が叫ぶ。…このノリは!
「暦先輩ッ!」
彼の意図を察し、僕も負けじと叫び返す。
「流派・東方不敗は!」
お互いに拳をぶつけ合う。
「王者の風よ!」
そして、次第にそのスピードが速くなっていく。
「全新!」
「系列!」
「「天破侠乱!!」」
更に加速していき、最後に叫びながら、全力で一発ぶつける!
「「見よ、東方は赤く燃えているッ!!」」
…指の骨が折れるかと思いました。特に最後の一撃。 by竜也
どもども、斎藤一樹です。
今回の話は、優さんVS竜也の部分以外は書き下ろしです。竜也くんが黒いです。
さて、解説でもしましょうか。 まず最初に言っておくと、少なくとも格闘において、最強は竜也です。
暦君は基本的には射撃専門。まあ、修羅場くぐり抜けたりしてるので格闘も一応はこなせますが。拳銃使ってナイフ相手に格闘戦したりもしますが、狙撃・速射などが得意です。射撃系統は暦が最強。
優さんに至っては剣道の師範代レベル。実はかなり強いです。相手が竜也や暦じゃなければもっと活躍できた事でしょう。
暦VS優 について
本編では描かれていませんが、暦と優は本編の時点では恋人同士です。かなりのラブラブな感じのカップルです。リア充爆散しろとか言われそうなぐらい。
本編の方は鈍感大魔神こと竜也視点で話が進むので触れられませんが(というか竜也が気がつかないので触れようが無い)、まあ気になる方は〈Another Daily〉の方をご覧下さいな。
そんな訳で、暦は優相手には本気を出していません。但し、本気を出しても勝てるかどうかは別問題。
竜也VS暦 について
主人公対決。伏線っぽいものの解説をしておくと、三年前にもこの二人は一度壮絶な喧嘩をしていて、辛うじてその時は暦が勝ちました。でも、暦の方がボロボロになっていたり。あと、暦が口にした「狂戦士」というのも、伏線というかなんと言うか。取り敢えず、暦が中二病に罹患した訳ではありません。
しかし長いですね、今回の後書き。過去最長じゃないでしょうか。むしろ長さ的には短編とかのレベル。
ではでは。