第四話 その3
暦先輩と部長は以前の僕を知っているからそれほど驚いてはいなかったみたいだけど、それ以外の全員はポカーン状態だった。
そこまで驚かれても。
それから更に五回戦ってから、今日のところはお開きとなった。
翌日の放課後。昨日途中で下校時間になってしまい全ての試合が出来なかった為、今日もまた天〇一武闘会である。
「しっかしまあ、天下一武〇会ってトーナメント制じゃあなかったか?」
僕の記憶が正しければ。
「まあ、部長の言うことだからね……」
隣を歩いている春原が、苦笑混じりで答えた。ああ、納得。
部室棟に入り、演劇部室のドアを開ける。既に他の部員は集まっていた。どうやら僕たちが最後だったらしい。
遅れてすみません、と謝りつつ部室に入る。さあ、部活の時間だ。
「第十五試合、神林暦VS美影優!」
おお、いきなりこの組み合わせか。楽しみだ。
「始めっ!」
まず、優さんが動いた。竹刀を上段に振りかぶり、一息に暦先輩の目の前へと迫る。
「せえぇェーいッ!」
気合いと共に振り下ろされた竹刀を、暦先輩は半身になることで躱わし、
「そらよ、っと」
そのまま加速して優さんの後ろに回り込み、バットを振るように竹刀をフルスイングする。
手を抜いてるな、暦先輩。
「っ!」
優さんは恐らく反射的にだろう、下段から竹刀を振り上げ、それを受け止めた。暦先輩は後ろに下がって距離を取る。
優さんは素早く暦先輩に向き直り、そのまま暦先輩に横薙ぎの一撃を放つ。暦先輩はそれをしゃがみ込んでかわし、横に転がって距離を取ろうとするが、優さんはそれを更に追撃する。横に後ろに転がって逃げる暦先輩。
5分後。
「……もう!いい加減に、攻撃するなり負けるなりしてよ〜!」
喚くように、優さんが叫んだ。暦先輩はというと、未だに返す躱わし続けている。…逆にすごくないか、あれって?
対する暦先輩はというと、
「……しょうがないか」
そう呟くと、
「はッ!」
短い気合いと共に踏み込み、優さんに面打ちを打ち込む。しかし、
「やぁッ!」
優さんはそれを紙一重で避け、カウンターで暦先輩の胴を薙いだ。優さんの竹刀は、暦先輩の腹部に吸い込まれるように命中した。
「ぐぇっ」
そう、命中した。
「ご、ごめんね、暦君!!」
慌てたように優さんが言う。ずっと暦先輩が避け続けるものだから、手加減をするのを忘れてしまっていたのかも知れない。
そんなこんなで、優さんの勝利。
でも、暦先輩の最後の一撃。あれは、本気の一撃だったのだろうか?
そして。
「最終試合、神林暦VS鈴木竜也!」
……大トリじゃねえか。