町内会女子大生
大学生になって一人暮らしを始めて5日。初めて過ごす土日だけど、私は何故か町内会に呼び出されている。
なんで? こういうのって大学生も呼ばれるものなの? 家族とかが呼ばれるイメージだったけどなあ……。
まあいいや。私が呼ばれるってことは他にも大学生とかいるんだろうから、とりあえず行ってみるだけ行ってみよう。これから4年間住むんだから、町の人と仲良くなっておくのもいいしね!
「えーっと、手紙に書いてある集合場所は……。『ヨン公像前』か。大丈夫これ!? 渋谷のシンボルが半分になってるけど!? あとヨン公って言葉の響きが別のものを想起させて冷や冷やする!」
とりあえず同封されていた地図の通りに来ると、小さな公民館のような場所に出た。確かに入口には犬の銅像みたいなのが建ってるけど……。これがヨン公なんだ。あんまハチ公と違い分かんないけどな。……あ、よく見たら銅像の後ろ半分が無い! え、前半分でヨン公!?
とりあえず待っていると、公民館からおじいさんが出てきた。あ、あれが町内会長さんとかかな?
「え、やば。激マブのチャンネーじゃん。ちょっとカノジョ何してんのこんなとこで?」
「ナンパだった! 話し方ギャルっぽいけどちゃんと古いし! そんなとこでおじいさんの設定守らなくていいよ!」
「いーじゃんカノジョ、どっか行こーよ。後楽園ゆうえんちとかさ」
「もう無いよそれ! あと初手遊園地は厳しくない!? カフェとかじゃないの普通!?」
「え、とりあえずさ、FAX交換しよーよ」
「しないよ! 使ってないよ今の時代! あとそれって昔の時代でも聞く連絡先として合ってるの!? せめて電話じゃない!?」
「えー、ダメー? 漏れと仲良くなろーよ」
「一人称漏れ!? 確かに古いけどネット世代の古さじゃないの!? このぐらいのおじいさんの一人称として合ってる!?」
何この人、変すぎるでしょ……。ギャルのまま成長しちゃったタイプのおじいさんなの? それにしてはちゃんと着物みたいなの着てて髭も生えてて、結構渋いおじいさんなんだけどな……。
おじいさんは1度深く深呼吸をすると、また私に向かって口を開く。
「すまんかったのお嬢さん。ワシはここの町内会長で、大阪新大阪じゃ」
「駅区間みたいな名前! どこからどこまでが名字!? ていうか普通に喋れるんじゃん!」
「すまんの、若いおなごを見るとあっちの人格が暴れおっての」
「二重人格高齢者!? 珍しい属性!」
「勝手にナンパを始めるから、あの人格にも困ったもんじゃ」
「本当ですよ……。でも主人格がちゃんとしてて安心しました!」
「ああ、主人格はあっちじゃ」
「じゃあダメじゃん! あの古いギャルの方がメインなの!? 今私副人格と話してるの!?」
「ちなみに主人格の方はワシと少し名前が違っての、大阪高槻というんじゃ」
「ああ区間がちょっと伸びてる! 新快速でひと駅!」
「では町内会に出席しようかの。アメをあげるからワシに着いてくるんじゃ」
「急な不審者ムーブやめてもらえます!?」
大阪新大阪さんに着いて公民館のような建物に入ると、丸いテーブルに10人ぐらいが座っている。こういうの円卓でやるんだ。アーサー王とか出て来たりする?
でもみんなおじいさんとかおばあさんだな……。なんで私だけ大学生でこんなところに呼ばれたんだろう?
「おんどれの席はここじゃの」
「二人称おんどれ!? 急にガラ悪!」
「それで今回おんどれを呼んだ理由なんじゃが」
「早い早い! まだ座ってないですって! せめて座ってからにしてもらえます!?」
やっとこさ腰掛けると、大阪新大阪さんが改めて話し出す。ていうかこの人は座らないんだ……。すごい気になるから座って欲しいな……。
「では本題に入るんじゃが、おんどれにはこの町の長老になってもらうことになったんじゃ」
「待って飲み込めないですって! なんて!? 長老!?」
「そうじゃ。長万部の長に海老の老じゃ」
「ピンと来ない説明! 電話とかで苦労しません!?」
「では長老、これからよろしく頼むの。では解散」
「なんでサラッとしてるの!? いや待って私まだ理解ができてないんですけど!?」
「なんじゃおんどれ、そんなに取り乱して」
「取り乱すよ! 大学生になって一人暮らし始めただけで長老にされたから! いや待ってくださいよ! 長老ってその地域で1番長く生きてる人でしょ? ここにいる誰かとかじゃないんですか!?」
「ここにいる者は全員もう役職があるからの。ワシは町内会長じゃし、この人なんかは書記補佐補佐じゃし」
「補佐補佐!? ただでさえ補佐が要らなそうな書記に補佐が付いてその補佐に補佐が付いてるの!? いるそれ!?」
「ということじゃから、そういうことで」
「良くないですよそれじゃ! なんで私なんですか!?」
「それはほら、厳正な抽選の結果当選されたから」
「プレゼントキャンペーンみたいな決め方してる! こんなに嬉しくない当選ある!?」
よく見たらさっきの書記補佐補佐の人が、ホワイトボードに長老と書き、そこに私の写真を貼っている。刑事課の会議みたいになってるじゃん! どこで私の写真手に入れたのこの人たち!?
「ではこれから長老としてしっかり頼むの」
「頼むって言われても……。長老って具体的に何をすればいいんです?」
「それはもう、町内会で我々にアドバイスしたり、突然目を見開いて『この世の終わりが近い』って言うとか」
「落差すご! いや改めてそのポジションって必要!?」
「それを1日18時間、毎日やってもらうことになるの」
「やりすぎだよ! 演技力が底を尽きるよ! なんでそんなに長くやるの!?」
「それはもちろん、定時を超えて労働してもらうからの」
「ああその超労もかかってるんだ! 嫌なダブルミーニング!」
こうして私は、大学に通うのもそこそこに、町内会に閉じ込められることになった。




