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――届かなかった手

「いやよ! いや、いや!」


公爵邸の玄関に、少女の叫びが響く。


白い魔力の余韻が、まだ庭に淡く残っている。


「光魔法を開花したなら、王都へ行かなきゃいけないんだ」


公爵の声は震えていた。

誇りと、焦りと、覚悟が混じっている。


「そんなの知らないわ! 私はずっとルークと一緒にいるの!」


胸が、ぎゅっと締め付けられる。


「名誉なことなのよ?」


母の声は優しい。

でも、その目は泣きそうだった。


「そんなの知らないわよ!」


王都の紋章を胸に刻んだ騎士たちが、静かに近づく。


白い外套。


冷たい目。


ルシアは振り向いた。


俺を探すように。


そして、見つけた。


「ルーク!」


その声だけは、昨日までと同じだった。


小さな手が、こちらへ差し出される。


震えている。


「一緒に来て」


喉が動かない。


俺は庭師の息子だ。


王都へは行けない。


行ってはいけない。


背後で、父の荒れた手が俺の肩を掴んでいた。


強く。


動くなと、言われなくても分かる圧力。


使者の手が彼女の肩に触れる。


「離して! ルーク!」


差し出された手が、必死に伸びる。


あと少し。


ほんの一瞬、指先が触れた。


熱い。


生きている証みたいな熱。


その瞬間、全部捨ててもいいと思った。


身分も。

常識も。

父の手も。


でも――


俺は、握れなかった。


握ったら、彼女の未来を壊す。


そう思った。


違う。


壊れるのが怖かったのは、

俺の方だ。


選ばれなかった現実を、

認めるのが怖かった。


馬車の扉が閉まる。


重い音。


車輪が回る。


白い外套が遠ざかる。


最後まで、彼女は窓から手を伸ばしていた。


俺の名前を叫びながら。


「……ルシア」


声は、風に溶けた。


静寂が落ちる。


庭には、もう光の残滓しかない。


俺の手には、

何も残っていない。


置いていかれた。


それだけは、はっきりしている。


――隣にいるだけでは、守れない。


あの光の高さに届かなければ、

同じ景色は見られない。


悔しさが、喉を焼く。


俺は地面を強く握りしめた。


土が爪の間に入り込む。


庭師の息子らしい、汚れた手。


ならば。


この手で、這い上がるしかない。


選ばれなくてもいい。


奪いにいく。


強くなる。


今度は、置いていかれないために。


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