第5話 こっちのセリフ
この“刀”とも随分と長い付き合いをした。今となっては刀身の長さはもちろん、重さや切れ味も当たり前のように把握している。今なら目を瞑って森の中でゴブリンと戦っても木に刀を引っ掛けることなく倒すことだってできるだろう。それに腰に鞘を差してないと落ち着かない体になってしまった。
そんな刀を握りしめ思う──
「お前マジで硬いなァ!!」
俺は現在黒い竜と戦っている。コイツの一挙手一投足が全て俺に致命傷を与えうる攻撃なのは当然として、コイツはとにかく硬い、硬すぎる。目まで硬いのは流石に驚いた。
「いい加減…ッ!斬れろ…ッ!」
ひたすら首を斬りつける。寸分の狂いもなく同じ位置を──
いや、これはもはや斬りつけると言うより叩きつけるといったほうが正しいかもしない。ガンガンと鈍い音を鳴らしながらそう思う。
「はぁ…はぁ…」
息も絶え絶えになりながら黒竜の攻撃を躱し、何度目かもわからない攻撃を放つ。するといつもとは違う感触が手に残ったことに気が付いた。
「これは…っ!」
黒竜の首を見ると僅かだが切れ込みが入っている。
俺は黒竜の攻撃を冷静にいなすと再び斬りこんだ。
「これで終いだ…ッ!!」
黒竜の首は胴体と切り離されズンと大きな音をあげて地面に落ちる。程なくして黒竜は少しずつ塵となって消えていく。
「……よしっ…」
俺は砂埃の舞った地面で刀を握りしめ深く喜びを嚙み締めた。
「終焉竜アポカリオンの討伐おめでとう、エイン」
ホロスがパチパチと拍手をしながら近づいてきた。
「いやぁ…本当に大変だった。コイツを倒すのに何年かかったかことか…次に出てくる奴はもっと厄介なんだろ? 今から気が滅入るよ」
俺は冗談交じりに言う。本当はこの攻略を楽しんでいた。更に言うと次はどんな敵が出てくるかワクワクしている節すらある。
「いや、次はないよ──」
「え?」
「千年経ったんだ。この終焉竜の討伐をもって君の戦いは終わりだ」
女神は静かに告げる。
「そうか…もう終わりなのか…」
「ふふっ、『もう』か。やっぱり君を選んでよかった。常人なら一年と持たないだろう暮らしを君は千年成し遂げたんだ。私の目に狂いはなかったね」
女神はかつて森の祠で覚悟を見せた青年を思い出し懐かしむ。
「寂しくなるわね」
「ああ…互いにな」
「思ったより素直だね。もっと捻くれたことを言うと思ったよ」
「…最後だからな」
空間にヒビが入りだす──
「ふふっ、本当にお別れのときが近いみたいだ」
ホロスはエインの顔を見つめると笑った。
「なにしみったれた顔してんのよ! 大丈夫、エインは強くなった。女神の私が保証するわ!」
空間のヒビが広がる──
「ホロス、俺の戦いは終わりだと言ったけどそれは違うよ。これからが本番なんだ。ホロスの意思は俺が受け継ぐ。魔王は絶対に俺が倒す──」
エインは刀を強く握りしめた。
「──君には本当に悪いことをしたね。私の責任を君に押し付ける形になってしまって」
ひび割れた場所から崩壊が始まり徐々にこの空間が狭くなってくる──
「そんなこと言わないでくれ…力を求めたのは俺自身だ。俺はこの千年間一度だって後悔したことはない──だから──」
エインは涙をこらえ話す──
「泣かないでくれホロス──」
エインはかつてホロスに聞いたことを思い出した。この空間で千年経ったらホロスはどうなるのかを。答えは「わからない」だった。ホロス自身も千年経ったらどうなるかは未知数らしい。でも確かなこととして女神としての力の大半は失うと言っていた。そしてこの世界から消滅する可能性が高いということも。仮に消滅を免れたとしても再びこの空間を作り出すことは不可能だとも言っていた。どちらにせよ今生の別れなのは間違いない。
「こっちのセリフよ……バカ…」
ホロスは深く瞬きをし、大きく深呼吸をした。
「女神ホロス・ホロ・ホロウノスが告げる。これからのエインの人生に幸あらんことを──」
「さよならだな」
「ええ…さようなら」
空間全体がパリンと割れ、白い光があたりを包みこんだ──
◇ ◇ ◇ ◇
「ここは……」
俺は辺りを見渡す。ここはかつて自分の無力さを嘆いた森の中だと確信するのに時間はかからなかった。
「千年ぶりか……」
壊れた祠を見て思い耽る。
「それにしても刀は残してくれるとはな」
俺は暫く手に持った「ソレ」を眺めていた。すると誰かが近づいてくる気配を感じる。
「お前はだれダ」
黒い鎧を着た鳥頭の魔族が話しかけてきた。
「悪い。今は浸っているんだ。邪魔しないでくれ」
魔族はエインの返答に不満だったのか語気を強める。
「二度は言わせるナ人間! お前はだれダ!」
エインは深いため息を吐く。
「二度は言わせるなだと──」
エインは魔族を睨みつけた。
「それはこっちのセリフだ」
第5話 こっちのセリフ




