第27話 刹那に咲く花の火
魔法を発動させる方法は主に三つ。詠唱、無詠唱、完全無詠唱。
詠唱とは魔法を発動させる前に捧げる言葉。不発にこそ終わったが先日ホロスとの戦闘でリサが見せたのがそれである。
そして無詠唱、これは詠唱を省き魔法名を発するだけで魔法を発動させることを指す。詠唱中は大きな隙を生むことから多くの魔法師がこの技術を習得する。普段ホロスが使用する“盾”、そしてリヒトの“炎矢”、“雷矢”がこれに該当する。
最後に完全無詠唱、これは魔法名すら発さずに魔法を発動させる高等技術。完全無詠唱は一握りの魔法師しか使いこなすことができない魔法の極致。発動させる魔法はおろか魔法の発動タイミングすらも予想させない完全無詠唱は魔法戦においてどれだけのアドバンテージを取れるかは言うまでもない。
しかし使用者が少ないのはその使用難易度にある。魔法は言葉を捧げることで魔力をつぎ込むことができる。そのため言葉の介在しない完全無詠唱魔法に魔力を込めることは難しく魔法の発動自体が困難となる。また仮に発動できても込めた魔力が不十分でとても実戦で使える代物にならないというケースがほとんどである。ホロスは完全無詠唱で“盾”を発動できるが、ある程度の耐久力を担保させるため基本的に無詠唱での使用に留めている。
──逆に詠唱という手順を踏めばより多くの魔力を込めることが可能。無詠唱で唱える魔法よりも強力なものになるのは当然として、時に無詠唱では発動できなかった魔法も使用可能となる。
「■■■■ “■”」
「……っ!?」
空気が膨張する──
“美食家”が使用した魔法、それは──
「爆破魔法…!」
ホロスの声が続く爆破にかき消される。
「え…これエインさんもろに……」
リヒトの顔が青ざめる。
「当たってねぇよ。もろにはな」
木に飛び移っていたエインはリヒトに言葉を返す。しかしよく見ると左手は少し爛れている。
エインはその左手を開き握る、この動作を数度繰り返すと
「よし、問題なし」
「ほんとッスか……」
「エイン! 回復は!?」
「必要ない。この戦いが終わるまでは…なっ!」
そう言い残しエインは煙の中に突っ込んだ。
「めちゃくちゃッスねあの人。なんであの距離の爆破をあの程度の怪我で済ませてるんですか」
「まぁそれは今に始まったことじゃないからそこまで驚きはしないわ。どっちかというと私が驚いたのは──」
「“美食家”の詠唱ッスか? オレ蜥蜴人が魔法使うところ初めて見ました」
「私もよ。それにあの詠唱。あれは……」
人間が使用する“それ”とは違う未知なる言語での詠唱。人間が扱うものよりも圧縮された言語は詠唱の隙を大きく埋めた。エインはそれに不意を突かれ完全な回避ができなかった。
「少し…心配ね」
◇ ◇ ◇ ◇
戦場は煙の中へと移る──
「悪かったな! お前の限界を勝手に決めつけて!」
両者の剣は再び交わる。しかし──
“美食家”は爆破魔法を使用しない。それはただ闇雲に魔法を発動させても逆効果だと理解したからである。先ほどの爆破、これにより“美食家”自身もダメージを受けていた。
魔力によるガード、そして持ち前の鱗による耐久力、それを持って被害は最小限に留めることができたが避けられるのであればこちらが一方的に削られる。それに大規模な爆破を連発するには魔力が足りない。だが剣術は依然として相手が上手──
ならばどうする──?
“美食家”は一つの答えを導き出した。それは──
「■■■■ “■”」
「…! 器用だな!」
発動させたのは小規模な爆破魔法。その爆破の反動により自身の腕をはじき出し斬撃を加速させた──
この攻撃方法の利点は純粋な攻撃速度の上昇の実現、そして爆破を小規模に抑えたことによって可能にした魔法の連発。この二つにより大幅に攻撃の手数を増やすことができた。
欠点もある。それは詠唱によって攻撃タイミングが露骨にバレること。しかしエインは“美食家”が魔法を発動させる前から全ての攻撃を見切っていた。この欠点はこの戦いにおいてはあってないようなもの。
加速を続ける“美食家”の斬撃は遂にエインの剣速に並ぶ。そして鍔迫り合いに。とっくに煙は晴れている。
「ここまでやるとは思わなかったよ」
この男が何を言っているのかはわからない。だが不思議と悪い気はしなかった。そして確信する。真の対話は言葉ではなく戦いの中にこそある。自分がこれまでやってきたことは正しかったのだと報われたような気がした。
この男に感謝を示したい。そしてそれはやはり言葉ではなく戦いの中で。
次の瞬間、“美食家”は剣に魔力を集中させた。これまで見せた手札は二つ。空気を媒介にした大規模範囲爆破、そして同じく空気を媒介にした小規模爆破の反動による剣速の上昇。そしてこれが三つ目の手札──
「■■■■ “■”」
“美食家”の剣を中心に爆破が起きる。
これは剣を媒介にした中規模爆破魔法。鍔迫り合いの中、爆破がエインを襲う──
だが──
エインは即座に反応し背後に飛ぶことで爆破を回避した。
「不意打ちのうちに入らないぞ!」
わかっている。自分でも予想だにしなかった初撃の魔法を避けた相手にこの程度の攻撃が当たらないことなんて。真の目的は──
「──そういうことか。乗ってやるよ」
“美食家”との距離を取らされたエインに爆破魔法が追従する。エインはそれを避けるため走り続ける。“美食家”の目的、それはエインのスタミナを削り隙を作り出すこと。
追従する爆破を避けるためエインは“美食家”を中心に円を描くように回る。
「花火みたいだ。実際に見たことはないが」
爆破魔法の連発。これは“美食家”にとって一種の賭けであった。自身の魔力を代償に相手のスタミナを削る。魔力がなくなれば身体強化も出来なくなる。そうなれば負けは確実。これは魔力とスタミナの根比べ。
「……!」
今、左手を庇う素振りを見せたような…?
あれは…初撃の魔法で負わせた火傷。ここに来て影響が出たか!
自身の魔力の底も見えだした。決めるならここしかない。そう考えた“美食家”は自身の背後に爆破を起こしその反動でエインとの間合いを一気に詰める。そして剣による一撃を叩きこ──
「──焦ったな」
エインは冷静に“美食家”の剣に刀を合わせ──
「“流水仙”」
“美食家”の斬撃を逸らすと共に体勢を崩した──
立て直さなければ 攻撃が来る この体勢では対処できない 魔法で
“美食家”は思考を巡らせる。しかしエインは攻撃に移らない。それどころか刀は鞘に。
「不思議か? 大丈夫まだ戦いは続いているさ」
これは攻撃体勢! 次の一撃で決めに来る! この攻撃を見切って反撃を
見切れ見切れ見切れ見切れ見切れ
見──
「“桐時雨”」
えない──
神速の居合が“美食家”の胴を斬り裂いた。
第27話 刹那に咲く花の火




