第24話 酒はなくとも話は進む
俺たちは無事?ギルドの一員になれたということもあり今は町の中を探索している。
「しばらくはこの町でクエスト受けて路銀稼ぎすることになりそうだな」
「そうね。幸い魔王も今は暴れていないようだしそこまで急ぐ理由もないわね。少しゆっくりしていきましょうか」
「それは良かったッス! オレこの町に住んで長いんでいろいろと案内できますよ!」
俺たちはリヒトの案内に従い露店を見て回ることになった。
「あ、りんご売ってるわ! 買うわよ!」
ホロスが露店で売っているりんごに指を差し声を出す。
「本当にりんご好きだよなホロス。俺が死にかけながら戦ってる時もよくりんご齧りながら眺めてたし」
「それはなかなかに鬼畜ッスね……」
「ほんとにな。酷いときなんてこいつは──」
他愛のない話をしながら人々が行き交う町を練り歩く。こんなことをする日が来るとは思ってもいなかった。ましてやその隣にホロスがいることも──
「あなたねぇ、そんなこと言ってるけど私が見てあげてなきゃずっと戦い続けるじゃない。私がいなかったらあなたは今頃悲しき殺戮人形になってたわよ」
「そうかもなぁ。でもホロスがいなかったらそもそもあの戦い自体がなかったわけだが」
「なに? 文句?」
「いや、感謝」
時間がゆっくりと流れている。こんな感覚は久々だ。不思議と町の喧騒も心地よく感じる。
「ちょっとちょっと! オレも話に混ぜてくださいよ!」
ああ、そうだ。今はホロスだけではなくリヒトもいる。
「仕方ないわね。じゃあまだエインがゴブリン相手に苦戦していた頃の話を聞かせてあげるわ」
「……やめてくれよ」
「オレは気になります! エインさんが強くなっていった過程が!」
積もる話も多く、気づけば夜になっていた。なにしろ千年間の思い出だ。これでもまだまだ語りつくすことはできない。しかしホロス、お前はなんで俺の情けない話ばかり覚えているんだ。リヒトもリヒトで深掘りしようとするなよ。
「──で、リヒト。本当にお前は来ないのか?」
「はい! オレはこれから用事があるので」
日は沈みそろそろ夕食の時間。リヒトに紹介された店で食事を取ろうという話になっていたがどうやらリヒトはこれないらしい。
「なんか悪いわね。この店も今日泊まる宿も紹介してくれたのに」
「いえいえ全然! こっちの都合なんで逆にオレこそって感じです。でも明日はオレもギルドいくんで! そのときはまた改めてよろしくお願いします!」
「おう」
「また明日ね」
俺たちの言葉を聞き終えるとリヒトは去っていった。初めて会ったのはほんの数日前だがこうして別れてみると寂しさに似た感覚を覚える。まあ騒がしい奴だったからな。
「じゃあ入るか」
「そうね」
リヒトと店先で別れた俺たちはそのままの流れで店へと入る。俺たちが入ると「いらっしゃい」と強面の店主がこちらに顔を向けることなく低い声で呟いた。
「なんかこの店人少ないわね。人気ないのかしら」
ホロスの言う通りこの店に人は少ない。というか店主と俺たちを除けば誰もいない。だからって声に出して言うなよ。
「嬢ちゃん。確かにうちは客入りは悪いが味は本物だぜ」
店主はぎろりとホロスに視線を向け言葉を放つ。これ店主が怖いから客の入りが悪いのではないだろうか。
まあ味が良ければなんでもいいという話ではあって俺たちは構わず奥のほうの席へと座った。席にはメニュー表が置いてある。
「ホロス、なに頼む?」
メニュー表を見ながらホロスに尋ねる。メニュー表には様々な料理が並んでいるがどれも手頃な価格帯に見える。これで味も良かったら本当に店主の顔が原因で客が少ないことになるな。
「私はハンバーグにするわ。エインは?」
「俺はそうだな……。キノコのクリームパスタにしようかな」
「なにすかしたもの食べようとしてるのよ」
「そうでもないだろ。あと仮にそうだったとしても人の食べるものに文句を言うな」
ホロスの小言を受け流し店主に注文をする。店主は無愛想に注文を受け取ると手際よく調理を進める。少しすると店全体にいい匂いが漂ってきた。
「それにしてもあれね。久しぶりにあれが飲みたいわ」
「あれってあれか?」
「そう! お酒よ!」
ホロスは無類の酒好きだ。あの千年間のあいだにどれだけホロスの酒飲みに付き合わされたかわからない。しかし──
「その姿で飲むのはダメだろ」
今のホロスは誰から見ても子供だ。どう考えたって酒を飲んでいい見た目ではない。
「やっぱりそうよね……」
露骨に残念がるホロス。だがこればっかりは仕方がない。
「まあ、俺も飲まないからさ。それでいいだろ」
「あなた元々そんなにお酒好きじゃないじゃない」
こいつ…人に優しさをなんだと。それにわかってるなら飲みに付き合わせるのやめろよ。
◇ ◇ ◇ ◇
そんなこんなでテーブルの上に料理が並ぶ。見た目と匂いは文句なしだが問題は味だ。
「「いただきます」」
手を合わせ各々料理に手を伸ばす。俺はフォークでパスタを口に運んだ。
……美味い。クリーミーでかつ胡椒も効いていてキノコのうま味を引き立てている。店主の言う通りちゃんと味も本物だった。しかし残念なことにこの事実が判明したのと同時にこの店に客が少ないのは店主の顔が原因ということでほぼ確定してしまった。顔は変えることができないというのにまったく可哀相な話である。
なんてことを考えながら引き続きパスタを口に運ぶ。余談であるがこの世界とあっちの世界の食文化はかなり似通っている。なんなら食文化どころか文化や生態系そのものが近しい。違いといえばあっちのほうが科学が発達していて文明が進んでいる。一方こっちは文明はあっちと比べるとやや劣っているが魔力があり魔法があるといった具合だ。
何故世界が異なるのにここまで似通っているのか。単純に隣り合った世界だから似ているのだろうか。それとも魔王のような異世界人があちらの文化を広めたのだろうか。もしくはホロスが関係していたり──
「ふぁによ」
視線を前に向けるとハンバーグを口いっぱいに頬張っているホロスがいた。
「……口にソースついてるぞ」
「ふふ! つけてんのよ」
「どういうことだよ」
ま、どうでもいいか。異世界のことなんて。
第24話 酒はなくとも話は進む




