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第19話 雨垂れ鉄を穿つ

「それでは稽古場があるのでそこまで案内しますね」


 受付の案内のもと俺達は移動を開始する。するとあの二等サファイア二人以外にもう一人剣を携える白髪はくはつの若い男がついてきた。どうやらあいつらのツレのようだ。


「お前は戦わないのか? どうせなら剣士とやってみたかったんだが」


「僕はいいよ。負けが見えている勝負はしたくない」


「へえ。あの二人より強いのにか」


「あれ? もしかしてこれ見えてた?」


 そう言うと白髪はくはつの男は手を前に出し指輪を見せる。その指輪の宝石は白く輝いている。


「見なくてもわかるさ」


「おっかない。おっかない」


◇ ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで稽古場に到着。思いのほか広いな。


「わかってますかガデロンさんリサさん。ちゃんと手加減してあげるんですよ?」


 受付が二等魔法師サファイアのガデロンとリサに向けてこそこそと話す。


「もちろん」


「わかってるわよ。少しだけ痛い目を見させて追っ払おうってことでしょ?」


 その優しさはわかるがこっちに聴こえないように話してほしかったな。俺はともかくホロスの機嫌が悪くなる。


「痛い目に合うのはこっちかもしれないよ。まあ悪意は感じないからそこまで酷いことはされないと思うけど」


 一等魔法師プラチナの男が口を開いた。


「どういうことだフェルド?」


 名はフェルドというらしい。


「戦えばわかるよガデロン」


◇ ◇ ◇ ◇


「──で、武器は使わなくていいのか?」


 俺はガデロンという男と戦うこととなった。そしてこの戦いの次にホロスがリサという女と戦うことになっている。

 現在ホロスたちは少し離れたところにいる。どうやらそこから俺達の戦いを見届けるらしい。


「俺は肉体そのものが武器だ」


 ガデロンは両の拳をガチンと合わせた。


「そうか。じゃあ俺も遠慮せず刀を使っていいな?」


「当然だ」


 ……ところでこれはいつ戦いを始めればいいんだ?


 ガデロンも同じことを思ったのか俺達は二人合わせて受付嬢を見た。


「え? あ、私ですか!?」


 発起人だろ。他に誰がいるんだ。


「じゃ、じゃあ試合開始~!」


 なんかぬるっと始まったな。まあいいか。ガデロンがどんな魔法を使うか気にはなるがここは──


「先手必勝」


 エインはガデロンとの距離を一気に詰め刀を振るい、首に当たる直前で寸止めした。


「俺の勝ちでいいか?」


「驚いた。随分と速い。だが──」


 ガデロンが素手で「千偽理ちぎり」を掴むと自身の首に押し付けた。するとガキンと金属音を鳴り響く。


「勝ちを宣言するのも早いんじゃないか?」


 これは──


「これがお前の使う魔法か」


「そうだ。俺は全身を鋼鉄の如く硬質化させる魔法を使って戦う」


 なるほど。確かにこれは全身が武器だ。


「刀じゃ俺には勝てねえぞ」


 ──さて、どうすれば負けを認めさせられるか。


「次の手がないなら今度は俺からいくぞ」


 ガデロンは「千偽理」を離し拳による攻撃を仕掛ける。一見ただのパンチであるがその拳は鋼鉄そのもの。さらに魔力で身体強化をすることでそこにスピードも乗っかってきている。


「攻守のバランスに優れた良い魔法を使う」


 その拳はエインの顔の直前で止まった。


「……お前、今のは避けられなかったのか? それとも避けるつもりがなかったのか?」


「後者だ。これでおあいこ」


「おもしろい。ただの強がりでもなさそうだ」


 ガデロンはにやりと笑った。


「次からはちゃんと当てにきていいぞ。俺もそうする」


「いいのか? だったら──」


 ガデロンは腕に魔力を集め──


「遠慮なくッ!!」


 両腕でラッシュを開始した。


「“むかえ梔子くちなし”」


 エインはそれをはじく、はじく、全てをはじき返す。

 鉄と鉄の邂逅。稽古場を鈍く、しかし甲高い音が包む。


「ハァ…ハァ… お前本当に魔力ないのか…!?」


 ガデロンのラッシュはまだ続いている。


「見ればわかるだろ」


「わかるからこそ困惑している…!」


 ──俺の渾身のラッシュを身体強化もなしに息一つ切らさず捌くとは…!


「フェルドの言っていた意味がわかったよ!」


 ラッシュが止まり拳と刀が交わる。次の瞬間ガデロンの拳に魔力が集まる──


「…!」


 エインはこれを察知。


 ──ガデロンの拳を中心に大気の揺らぎ。何か来る。


「“鋼鉄砲アル・カノン”!!」


ガデロンは鋼鉄の拳から魔力の衝撃波を放つ。しかし──


「“流水仙りゅうすいせん”」


 衝撃波が炸裂する前にエインはガデロンの腕ごと受け流した──


 受け流した先にある地面に大きくヒビが入る。


「ちょっとガデロン! 流石にそれはやりすぎよ!」


 外野にいるもう一人の二等魔法師サファイア、リサが声をあげる。


「やりすぎ? そんなことはない。現に今のも捌かれた。リサももうわかっているだろう? こいつは庇護すべき弱者ではない──」


 ガデロンはリサに向けていた目を再びエインへと向ける。


「──本物の強者だ」


「お褒め頂き光栄だ。それでまだやるか?」


「当然! 勝負はこれから!」


 ガデロンは再び両の拳をガチンと合わせてからラッシュを開始する。エインもそれに合わせ迎撃を再開。そして斬撃は加速する──


「…ッ!」


 こいつ…! 俺の拳をはじくどころか俺の動きそのものを……!


 加速を続けるエインの斬撃はガデロンの攻撃を防ぐだけに留まらず動きそのものを封じ込めるまでに至っていた。ガデロンが右腕を動かそうとすればその前に右腕を、左腕なら左腕を、同じように右足、左足も動きだす前に刀で叩き全ての動きを封じ込める。


 ──もがけばもがくほど…! もはや身動き一つとれねェ…! まるで激流の中に飲み込まれたみたいだ…!


 次の瞬間、稽古場に今日一番の金属音が鳴り響いた──


「俺の勝ちでいいか?」


 「千偽理」はガデロンの首元に。


「……ああ──」


 こいつ…刀の峰で……。もし刃でやられていたらと考えるとゾッとする。ここまでされたらもう認めるしかない──


「俺の負けだ」



    第19話 雨垂れ鉄を穿つ


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