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第15話 紡ぐ

 数分前──


「“炎矢フレイユ”」


「“土壁ベガイラ”」


 ──クソッ…! 何回撃っても防がれる! このままじゃあ矢が先に尽きる……!


 ──ふむ。威力はなかなか。直撃は不味いな。だが十分見切れる。


 辺りには魔族ハーベルが作った土の壁が散乱している。


「……お前ら魔族は何故人を襲う…!!」


「衝動であり本能だ。お前ら人間だって腹が減れば食べ、眠くなれば寝るだろう。それと同じことだ」


「それは生きていくために必要なことだからだ!」


「ふむ。では我々魔族が人を殺さねば生きてゆけぬと言えば許してくれるのか?」


「それは詭弁だ……!」


「話にならんな。物を尋ねる時は自分で答えを用意してからにしろ」


 ハーベルが両手を合わせ魔力を練り上げる。


「“土掌ベドラ”」


 リヒトの両脇から土の手が出現し押しつぶすように襲い掛かった。

 辺りに土煙が舞う──


「ふむ。これも避けるか」


 リヒトは土煙の中で息をつく。


 大丈夫…避けられる…。あいつの攻撃にはちゃんと呼び動作がある。よく見れば──


「──では接近戦といこう」


 強襲── 土煙が晴れる間にハーベルの拳がリヒトを襲う。


「……ッ!」


「これも避けるか」


「見え見えなんだよ……ッ!」


 リヒトは体を仰け反らせ避けるとカウンターとばかりにハーベルの脇腹を殴りつけた。

 しかし鈍い音と共にその脇腹からポロポロと土が剥がれ落ちる。


「土の鎧か……!」


「左様」


 ──しかし今の攻撃を避けるどころか反撃までしてくるとはコイツ、“眼”が良いな。


「チッ……」


 ──防がれた……! だが反撃の手は緩めない!! 思い出せ!! エインさんに教わったことを!!


◇ ◇ ◇ ◇


 2日前── エインとの修行中


「リヒト、お前は“眼”がいいな。だがその眼の使い方を間違えている」


「使い方ッスか……?」


「例えばそうだな……」


 エインは右手に携えた木の棒をブンと振った。


「今どこを見た」


「どこって枝……というか手ッスかね?」


「だけか?」


「……うーん。まあ腕もッスかね」


「だけか?」


 続くエインの質問の意図がわからずリヒトは頭を抱える。


「いいか。確かに今俺は枝を振っただけだが動いていたのは腕だけじゃないはずだ。生物ってのは何かをやるときに必ず呼び動作が入る。視線の動き、呼吸、重心の揺れ、その全てが次の動きの情報だ」


「でも全部見てたら頭がパンクしちゃいますよ」


「俺はお前ならできると思っているが」


「エ、エインさ~んっ!!」


 喜びのあまりエインに飛びつくがひらりと躱されてしまう。


「見え見えだ」


「かっけぇー!!」


 出会ってから何度その言葉を聞いたか、エインは少し呆れながらも口を開く。


「いいか、相手の動きをよく見るんだ。そうすれば見えてくる。相手の動きの──」


◇ ◇ ◇ ◇


「先の先ィ……ッ!!」


 リヒトは叫び徒手による攻撃を続ける。


「……ッ!」


 なんだコイツ!? 動き自体は大して速くはないが常に我の動きの一手先を行くように動いてくる……!


「めんどうだ……」


 ハーベルは手を開くとそこに魔力を集める。そしてパキパキと土が収束しだす。


 それは手のひらから放たれる極小の──


「“土槍ベオルグ”」


「だから見えてるって言ってんだよ!!」


「!?」


 リヒトは体を捻らせ後ろ回し蹴りをしハーベルの手をはじいた──


「……よもやここまでとはな。少々貴様を侮りすぎていたようだ。認識を改めよう」


 ハーベルは一歩、また一歩と下がり距離を取る。そして──


「“土壁ベガイラ”」


「また壁か……!」


 壁がせりあがる。


「チッ! 射線が!」


 戦場にはハーベルの作り出した壁が多く残されている。そして今この瞬間もその壁が増殖している。

 気付けばリヒトはハーベルの姿を完全に見失っていた。


「あまりこの手は使いたくなかったのだがな」


 ハーベルは地面を見つめた。


「“土潜ベフィルド”」


 地面に溶けこむ──


「クソッ…見失った……」


 目の前には土でできた壁しかない。リヒトは選択を迫られていた。


「迂回かよじ登るか……」


 迂回をするのは簡単。だが壁を登り高さをいうアドバンテージを得れば弓が機能する。


「よし登る……かっ……!?」


「“土槍ベオルグ”」


 完全なる死角からの強襲──


 土に潜りリヒトの背後に回ったハーベルは土の槍にてリヒトの腹を貫いた──


「不意打ちですまんな。だがまだ二人残している。我もあまり消耗したくないのだ」


「ぐ……っ……うっ……!!!」


「つらかろう。今楽にしてや──」


 トドメを差すためハーベルが手を振り上げた直後、上空から見知った魔力の消失を感じる。


「ガルグ……!?」


 僅かな間だがハーベルの視線は上空へと向いた。しかしすぐに視線を地面へと戻す。


「……! 消えた……。いや逃げたか」


 血痕が木々の隙間へと続いている。


 ──あの出血量、もはや戦える状態にないと思うが……


「まあ、念のためだ」


 ハーベルは両手を合わせた。


「“魔力探知サーチ”」


 ──辺りにそれらしき魔力反応がない。これは……


「死んだか」


 ──死んでねェよ!!


 リヒトは意識を朦朧とさせながらも確かに生きていた。しかしハーベルの魔力探知に引っかからなかったのもまた事実。それは何故か? 答えは簡単。単純にリヒトは自らが発する魔力を限りなく0にしたからだ。

 だが通常それはあり得ない。それこそハーベルがリヒトの死を確信するくらいには。この世界の生物は全て魔力を保有し体から魔力を発している。この世界で魔力を発していないのはただの石や水といった無機物ぐらいなものだ。

 発する魔力を0にする。これをこの世界の住民が行うのは不可能に近い。それは魔力があまりにも身近なものすぎて想像できないからだ。自分が魔力を保有していないという状態が。自分は当然として周囲の人間も当たり前のように魔力を持っている。参考にするべきものがないのだ。誰が自分を石や水そのものだと思い込むことができよう。


 ──しかしリヒトは確かに見た。人間にして魔力を全く保有していない例外中の例外を。


「エインさん……」


 魔法を発動すればオレの存在に気付かれる。だけど魔力の込めていないただの矢ではまともなダメージはまず入らない。


「だったら……」


 ──体内での魔力操作は異様に上手い


 ──弓を自分の体と同じように認識している


「ホロスさん……」


 一瞬だけ弓に魔力を通す──


「“雷矢ボルテイユ”……」


 閃光と共に雷撃がハーベルの胴を穿つ──

 ハーベルはその攻撃に全く反応することができなかった。


「…!? ……意趣返しと…言うこと…か…」


 ハーベルはバタリと倒れ地に伏した──


 リヒトは弓を強く握りしめる。


「兄ちゃん……!」


 そう呟くとリヒトは意識を失いその場に倒れ込んだ──



    第15話 紡ぐ


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