だるまさんがころんだ(前編)
やった事ないジャンルですが、書いてみたくて書いてみました!是非感想等お待ちしております!
こちらは前編です!
“チィィーン“
夏の暑い畳の部屋。
静かな部屋に響くのはお坊さんのお経の声と、蝉の鳴き声だけ。
そんな部屋の中、仏壇を囲うように正座する親族一同。
《酒見整三回忌》
俺、酒見毅の弟、整の三回忌。
酒見一家にその親族一同が暑苦しく、狭い部屋に集まり、今終わりを迎える。
毅は『あの日』から毎日忘れる事なく後悔と無念な気持ちを抱えて生き続けてから時間がかなり経過した事を告げる日だった。
“どうして俺じゃなかったんだ…“
永遠に毅の心に響いているその言葉。
式が終わり、お坊さんを見送ってリビングに場所を移し親族が集まる。
形式的な挨拶を終えると親族は皆、そそくさと帰って行った。
この空気に耐えかねたのだろう。
「今日はありがとうございました」
母が最後の人に挨拶をして送り返す。
「ごめん、俺上行くよ」
この空気に耐えかねて毅は部屋に逃げようとする。
すると下を向いていた母が言葉を漏らす。
「あなたがあの時ちゃんと見ていれば…」
小声ながらはっきりと言ったのがわかった。
言われてなくても思われていた事は分かっていたし、もう何を言われてもなんともないとまで思うようになっていたはずなのに、何かの気持ちを必死に堪えるように右手を強く握り込む毅。
「おい!毅に対してそんな言い方ないだろ!何回言えばお前も分かるんだ。あれは事故だって言っているだろ!」
父が母に対して声を荒げる。そんな二人を見て我慢ができなくなる毅。
『もううんざりだよょぉ!!』
毅はがむしゃらに、サンダルを無理やり履き、家の玄関を突き破るような勢いで出ていく。
外は淀んだ空気に、湿り気が混じり、ジメジメと暑さが漂う中、そんな暑さを気にもしず毅は走り続けた。
「ハァァッハァァッ」
息が上がる中、ふとついたところは、見覚えのあるあの場所だった。
ひとしが亡くなった、いつも二人で遊んでいた、秘密基地のような空き地だ。
何度目か分からないが因果の様に気づいたらここにきてしまう毅。
慣れた動きで木の下に座り込むと、
チリーン
通知音がなり、携帯を見る。
〈何処にいるかは察しがつくが変な事は考えるなよ。夜までには帰りなさい。〉
父からの気を遣ったメッセージを見て思わず涙が溢れる毅。
下を向きながら考え込む。
“整。頼むよ。一度でいいから、一度でいいから俺に謝らせてくれ…。”
もう何万回目かも分からないお願いをして下を向いていると、
「だるまさんが転んだしよう」
“何だ?“
頭上から誰かの声が聞こえた気がした。
「だるまさんが転んだしよう!!」
今度ははっきり聞こえた。
顔を上げると小学校低学年ぐらいの年端も行かない子供が笑顔で立っていた。
「誰?こんなところで何してるの?」
暑いはずの夏の日なのに妙に寒気が毅を襲う。
「いいから!だるまさんが転んだしようよ!」
「だるまさんが転んだか…俺そのゲーム嫌いなんだ」
「何で?楽しいよ?」
何を隠そう整が亡くなったあの日、二人で行っていたゲームはだるまさんが転んだだった。
「だるまさんが転んだなんてしたくないよ…」
小声で返す毅。
「いいからっ!」
そう言って強く毅の手を引く少年。
「一回だけでいいから!一回だけしてくれたら帰るから!!お願いだよお兄ちゃん!」
そう大きな声でお願いしてくる少年。
懐かしい響きの言葉に、少し嬉しさを思い出す毅。
「なら一回だけだからね?」
「やったぁ!!ならお兄ちゃんがタッチする側ね!僕が数数えるから!ルールは絶対このゲームを途中で辞めちゃダメって事と、絶対に僕が見てる時は動いちゃいけないからね、お兄ちゃんが僕にタッチできたら勝ちだよ!」
「分かったよ」
返事をすると急足で少年は空き地の奥の壁に手をつく。
「じゃぁ、いくよ!!だーるま…」
少年が突然数えだすと同時に
ピチャッ、ピチャッ
雨が降り出す音が聞こえる。
雨足はどんどん強くなり、数秒で大雨に変わる。
「ねぇ君!雨が強くなってきたし今日はやっぱやめよう!!」
大きな声で向こうにいる少年に声をかけると、少年がゆっくりこちらを振り返る。
「うわっぁ!!」
ついつい毅は声を出す。
少年の顔は先程とは違い、目は無く引き込むような真っ暗な穴のようになっていて、目尻まで上がるほどの大きな口で笑い、この世の物とは思えない顔に変わっていた。
「………始めるよ」
返事をしてくる少年。
少年の顔を見て、何がかは分からないが、まずい事になっている現状を理解し始める。
降り続ける雨はまるで二人を包む空間を作り出すように強くなる。
どうしたらいいのか分からず、あたふたしている毅。
「だーるまさんがこーろんだ」
間髪入れず、突然ゲームを始める少年。
昔からの癖なのか体を合図とともに止める。
少年は毅に歩み寄り、一言も発さず、ただジッと毅の顔を覗き込む。
恐ろしい顔が顔に近づき、恐怖で殺されそうになるが、動いてはならないと心の中で強く思い何とか堪える。
少年はまた壁の方に行きてをつき頭を伏せる。
「だーるまさんが…」
毅は勇気を出して一歩前に出る。
「ころんだ!」
急にテンポを早める少年。
驚きで止まりそうになる心臓。
自分の心音がドクドク動くのがわかる。
今度はこちらにこず、また始める。
“少年との距離はおそらく20歩程度。最初に少年が言った通りタッチしてゲームをすればおそらく終わる。”
冷静に考える毅。
「だーるーまーさーんーが」
少年がゆっくり唱えていると、後ろから声が聞こえる。
「毅ー!こんな雨なんだ!もう帰るぞ!!」
聞き覚えのある父の声が聞こえる。
流石の大雨に迎えにきたのだと思う。
「振り返っちゃダメ!!」
強い言葉が、聞き覚えのある声で半分振り返りかけていた毅に前から聞こえてくる。
“今の声って...“
「ころんだ!」
聞こえてきた声の主は間違いなく、弟の整の物だった。
三年前のあの日、整は死んだ筈なのに、三年経った今でもこの声は聞いてすぐ分かった。
「その声はお父さんのフリをしたあの子の物だから、絶対に振り返っちゃダメだよ!」
毅は振り返りかけた顔を止めて、動かないように必死で固まる。
少年は先程までは綺麗だった足もボロボロになっていて、片足は折れた骨が荒々しく削られた足の肉からはみ出していて、何かの事故に巻き込まれた後のような足になった姿になって全速力で走ってきて毅に話してくる。
「あれぇ?振り返らないんだぁ?意外だなぁ」
震えが止まらない毅。
まるでこの降り止まず、強くなる雨が少年の真の姿を映し出すように、少年は姿を変えていく。
少年は駆け足で壁に戻りゲームを続ける。
「だーるま…」
雨はどんどん強くなり少年の声はより聞こえづらくなる。
毅は慌てて前を見る。
『たけちゃん久しぶり』
そこにはあの日死んだはずの整が少し恥ずかしそうに立っていた。
「ひとちゃんが何でいるんだ…」
後半もすぐあげます!
今回はここまで読んでいただきありがとうございました!
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