始まり
「おい!この家畜怪我しているぞもう役に立たないから穴に捨てて来い!」
「はい、ただいま行きます!」
荒々しい声をあげる大男はこの辺境の地に追いやられた元領主のカイン。それにこたえるように返事をするのは養子のシス。この二人は、元々住んでいた領地の反乱から何とか逃げ出し、この地の農地の手伝いをしながら過ごしている。
「この豚のことですね。それでは行ってきます。」
「ああ、気を付けて行って来いよ。くれぐれも穴の中に落ちたり、覗いたりするなよ」
シスは足を怪我している豚を引き連れてすぐ近くの森の中にある薄暗い穴まで歩いて行った。穴に着くころにはあたりが少しひんやりとして日も暮れ始めていた。
「このあたりだったと思うんですけど。あ、あった。それじゃあこの中にお入り。そしたらそのまま真っすぐに行くんだよ。こっちに来ちゃダメだからね。それにしても可哀そうに、昨日雨だったからきっと足を滑らせて怪我をしたんだろうな」シスが豚を穴に入れて離れてすぐに、豚の悲鳴が聞こえた。とても苦しそうに絶叫している。激しい声が数回続いた後に穴全体に血の匂いが漂い始めた。
「ただいま戻りました。カイン様今夕飯を作りますね。」シスが戻った時はもう完全に暗くなっていた。
カインは疲れがたまっていたのかシスの呼び声を無視して寝室で寝ていた。
シスはいつものことなので気にせずにやることをやってその日を終えた。
翌朝になるといつもの通りにカインをシスは農作業をして昼まで過ごしていた。
「シス、この後領主が俺たちの所にきて話があるらしいから今日はここまでにして帰るぞ」
「分かりました。ではこのダメになった作物を捨ててから帰りますね」
いつになってもシスが帰って来ない。領主が来る頃にはシスが帰ってくると思っていたカインは少し不安を抱いてきていた。
この日の領主の話というのは、この地にシスとカインが来てからちょうど半年を迎えるころであり、今後について話し合うことになっていた。それに、シスは学校に行くような年なのでどうするかを決める予定だった。
「まだ、シスは帰ってこないのか?今日はあの子についての話し合いの予定だといったよな?」
「申し訳ない。午前中の農作業で発見したダメになった作物の処理を任せたっきり帰ってこないんだ。すぐに帰って来るように言ったんだが…」カインが言いかけると扉が開いた。
「すいません遅れてしまいました。」扉の前にいるシスは泥だらけになっていた。
「シスとりあえず服を着替えてきなさい。すまないがもう少しだけ待ってくれないか」
「あ、すいません気づきませんでした。ただいま着替えてきます。」
「無事に帰ってきてくれたからとりあえずはいいだろう。」カインは領主と雑談を交えながらシスを待った。さっきとは違い少しだけ場の空気がよくなった。
「お待たせしてすいませんでした。」シスが部屋に入り席に着き話し合いが始まった。
「単刀直入言おう、シス、君は学校に行く気はあるかい?」
「え、行きたいですけれどカイン様と一緒に働かなくてはいけないので、その」シスが言いたいことはこの場のだれもが分かっていたがあえて黙っている。顔色をうかがいながらどうしようかと悩んでいるシスを大人二人は眺めていた。
「友達も一緒に行くことはできますか?」シスの答えに二人は動揺した。ここに来てからシスに友達ができたなんてことは聞いたことがないからだ。
「友達と一緒に行きたいのか?それはまた考えなくてはいけないな。とりあえず、その友達というのはどんな奴なんだ?」カインは驚きを隠しながらシスに質問した。しかし、シスはなんだか言いずらそうな顔をしている。
「どうした?」領主も訊くがシスは困った様な顔をして答えない。
沈黙が続きすっかり周りが暗くなった時窓に何者かの影が映った。
「なんだ今のは!?何かいたぞ!」領主の言葉に一斉に振り向く二人だが何も映っていない。
「なにもいませんが?」カインが不思議そうに領主に言うと今度は窓が騒ぎ始める。気味が悪いと思い頃に屋敷が停電しだした。
「いったい何が起こっている。召使いたちは何をしている!?」領主が声を荒らげると外から誰かの悲鳴が聞こえてきた。
暗い屋敷から何とか外に出た三人はそこで一人の死体を見つけた。残念なことに、体の欠損部位が多く誰だかわからないことになっていた。まだ幼いシスに見せてはいけないとカインはシスと一緒に少し離れてところで待機した。
「いったい誰がこんなことを。」
「それなら俺がやった。」領主の目の前に、黒い霧状の角を持った生物ようなものが立っている。
「誰だお前は!」恐怖を押しのけるかのように叫ぶ。しかし、手は震えている。
「誰だって言われてもお前らに封印されていたものだぜ俺は。まぁ、お前らはゴミ箱として使っていたようだがな。全くひどいもんだぜ、味の悪そうな家畜や腐ってたり食べれなそうな作物を投げ込んでしてくれてよ。けど、そこの坊主のおかげでそんな生活ともおさらばだ。感謝だけしておくぜ。」
二人がシスの方を振り返ると、シスの顔が青ざめていた。
「ぼ、僕が穴の中に入ったせいだ。」シスの言葉にカインはなぜ入ったのか問いただした。
「いつもどうり穴の中にごみを捨てていたんですけど、その時声が聞こえてきて中で何か起こっていると思って入ってしまいました。けど、入ってすぐに動物の死体があって引き返してきたんです。」
「シスすまないこいつの封印を解くには人間の恐怖心と血肉が必要なんだ。数日前に動物が穴の中に入ってしまったんだろう。こいつは、その昔恐怖によってこの地を支配していた悪魔なんだ。それを私とカインでこれから守っていこうとしていたんだがまさか封印が解除されてしまうとは」
「まぁそういうことだ。早速だがお前らの一族に三百年ほど封印された腹いせにこれから生まれてくる子どもは1週間後に死ぬ呪いをかけた。それと、お前の周りの奴らがお前のせいで死ぬ呪いもかけておいた。喜べよ。さて、そこのおっさんと坊主はどうするかな…」
領主が悪魔に向かって死体から拾った小型のナイフで襲い掛る。だが悪魔は、ニヤリと笑いサッと奪い取りカインの足に向かって投げた。刺さった場所からどす黒い煙が出てくる。
シスは、応急措置をしようとカインに刺さったナイフを抜くとカインの足が溶け落ちた。それと同時に溶けた足からウジ虫が湧き出てきた。
「あ~あ可哀そうに。せっかくの足が台無しだな。その代わりに無くなった足から筋虫が食い荒らすような痛みが来るようにしておいたぞ。よかったな。」悪魔の笑い声が二人の悲鳴をかき消していた。
「さて、そろそろ飽きてきたな。それじゃあ俺は西の方に行くとするか。あっちにはもっと面白そうなことが起こっていそうだからな。じゃあな」悪魔の声はもう三人には届いていない。シスとカインは溶け落ちた足に対してパニックになりながらも応急措置をしており、領主の方は絶望のショックで気を失っている。
その後、彼らは国から罪人として投獄され、国は悪魔の討伐をする部隊の結成した。しかし、解き放たれた悪魔の力は強大だった故人々は数百年の間恐怖によって支配されたのであった。