N-2 騎士アルテタと王子クープラン
騎士アルテタは平民服を2着用意し、それに着替えた
腰に帯剣した平民は殆どいないが、
数少ないもののギルド所属のハンターは帯剣している者もいるので
冒険者風の革鎧に身を纏い、
ナーゲン城の地下一階で王子を待った。
クープラン王子は、上から降りてくるものと思っていたのだが、
彼は床下から現れた。
「王子・・・?
何故下から・・・?」
「隠し通路の為の隠し通路ってやつさ
侵入された時の備えなのに、
堂々と通路なんか通るわけないだろ」
「それは、確かに・・・」
王子は手で衣服の汚れを払うと腰に手を当てて言い放つ
「それじゃ、行こうか」
アルテタは静止の言葉を
「お待ち下さい、ご無礼を承知で失礼します」
王子の衣服を触ると、滑らかでシワも出来ない。
アルテタは手を離し王子に願い出た
「王子、着替えを」
「えっ?似合うでしょ?」
「はい、大変お似合いですが、貧民街にこの格好で
行くと5分も経たずに襲われます」
「やはりそうか、じゃあこのまま行こう」
「王子!!危険だと申し上げました」
王子は振り返って真剣な眼差しで言う
「俺は撒き餌だよ、誘拐されて出来れば身代金も要求されたい」
アルテタは青ざめた
王子は決断力も行動力もあり、知性もある。
知性は通常警戒に働くとアルテタは知っている。
「断固拒否させていただく前に理由をお聞きしても?」
王子は眉ひとつ動かさずに堂々と言い放つ
「アサシンギルドに俺の蜘蛛がいる、
そいつに功績を与えて幹部の懐に潜り込みたいんだ」
アルテタは一層青ざめた。
「囮が必要なら私がやりますのでおやめ下さい」
クープランは愉快そうに笑う
「あはははは
お前みたいなムキムキの奴、
誘拐しないで斬って埋められるよ」
アルテタは考え込んだ
一理あるが、王子を危険に晒す道理はない。
「断固却下させて頂きます」
王子はニヤリと笑って答えた
「大丈夫だよ、誘拐役も拘束役も手配済みだ」
アルテタは唇が震えてきた
「蜘蛛は・・・一体何人いるんです?」
王子は美しい微笑を浮かべてから、顔を背け歩き出した
アルテタは数秒間動けずにいた。
微笑が恐ろしいと感じたのは初めてだった。
大熊切の鬼神と名高いゴッゾ隊長と対峙しても
私は勇敢に戦った。
だがもし、私が王子と相対したら、
きっと立ち会う前に死ぬと
不敬を承知で想像していた。
「ちょっと、ちゃんと着いてきてよね
護衛でしょ?」
王子は手をひらひらさせながらそう言った。
私は王子のお役にたっているのだろうか?
アルテタは悔しさを隠さずに声を出す
「どこへでも参ります、我が王」
「うっわ、それって不敬だからね?
父上は賢王だよ、間違いなくね。
それに・・・」
王子は少し悔しそうに呟いた
「たぶん、俺なんかいない方が平和になるのかもしれない」
王子の深意はきっと私などには計れない。