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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
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N-21 クープラン 待機暗中


商館の明かりは夜になっても灯り続け、店主の権勢を示すかのように煌びやかな光を闇に放っていた。

クープランはひとり、強い輝きを瞳に宿しながら、

商館に近い馬屋の物陰に小さくなって隠れながら門の外に視界を向けていた。


(来るだろうか・・・)


クープランは首を動かして商館を見上げた。


商談は昼行う。

これが一般の商人。

だが政商は夜に動く。

酒の匂いに釣られてきた役人から裏話を聞き出し、美女を当てがい、

枕元で秘密の共有をさせるのだ。

ここはそういう場所だ。

商館であって娼館でもある。

ナーゲンの実態そのものですらある。

どれだけの官吏が靡き、どれだけの国財がこの商会から吸い出されていったのか考えたくも無い。

それでもまだかわいいものだ、

教会のしていることに比べたら。


クープランは商館前の通りに目を戻した。

通る者はいる。

互いの腰に手を回した男女、務めを終えた文官達、貴族家に通う家政婦。

そのまま眺めていると、一台の馬車が進んで道の真ん中まで来て止まった。

馬車の窓に付いた引き戸が開き、そこから望遠鏡が生えた。


クープランはすぐさま物陰に隠れながら、灯りの無い道路の馬車を見つめた。

(他の政商か、貴族か、それとも・・・)

(手掛かりが欲しい。僅かでも)

暗い闇の中、車室内の様子は全く見えない。


(馬車なら家紋があるはずだ!)


クープランが思うより先に望遠鏡は車室に格納され、馬車はすぐに動き出した。


クープランは歯を食いしばり、手を強く握りしめた。

そして視界から消えていく馬車を睨んでいた。

(僕はいま動けない。動いてはいけない。もし計画が表に露見したらどうなる?)

(ゼマンは?父上は?民は?アサシンギルドは?)


脳内に男の太い声が再生される。

--得られるかも知れない情報があるのに保身を考えるのか?--


「違う! そうじゃないっ!!」

意図せず小さいながらも声が出た。

その言葉に反して体は前に進もうとして前足を一歩踏み出そうとしたところで、

足が痺れて動かないことに気がついた。


クープランは嗤った。

何も出来ない自分に対してと、もうひとつは、

「行くなっていうゼマンのお説教かなぁ、これは」


それから下を向いて歪んだ笑みを浮かべながら、痺れて動かない足腿を摩った。

ほんの数秒間、そのまま撫でていたが、やがてクープランは物陰に後退した。

通りから見えない物陰で足を伸ばしながら、壁に背を預けてズルズルと地面に落ちていった。


地面に尻をついたクープランは顔を上げ、夜空を見上げた。

星々は光を返しながら天を漂う。

「神様がいるのなら救ってくれないか? 僕は・・・」


声は夜空に飲み込まれるように途絶えた。


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