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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
58/67

E-18 長老の家にて


カスタジェとテンゼルフィーが森を抜けると、

あちらこちらに燈を掲げた里の者がいるのが見えた。


歩きながらテンゼルフィーはゆっくりと手を挙げ、彼らに軽く手を振った。彼らは理解したようで、頷くと手を振り返していた。


テンゼルフィーは彼らの元まで進むと声を掛けた。

「現状で脅威はない。長老の家でカスタジェ様がお話し下さるだろう。皆は家に戻ってくれ、心配ない」


隣にいたカスタジェは疲れた様子で上を向き、ぼやいた。

「儂、もう疲れたわ。明日にせんか?」


テンゼルフィーは即座に鋭い目になると、カスタジェに向かって少し声を荒げながら顔を近づけた。

「駄目に決まっているでしょう。引き摺ってでも連れて行きます」


カスタジェは接顔してくる若木の顔を見たくないかのように目をきつく閉じ、顔をのけぞらせた。

「わかった。あーー、もうわかった。そんなに近づけるでないわ」

そう言ってテンゼルフィーの顔を片手で押し返した。


テンゼルフィーは背を伸ばし、直立すると前を向き、もう一度カスタジェに目をやった、

「全部、話して下さいますか?」


カスタジェは少しビクリと動作が停止したが、若者の顔を見上げて呟いた。

「理解したことと、理解したつもりの境界は曖昧なんじゃ、あまり老人をいじめるでない」


テンゼルフィーは思案しながらも、自らの立場として知るべきこと、知らせるべきこと、知っておくべきことを優先し、内側から湧いてきた未知への関心は心に沈めた。

「ご随意に」


「ほれ」

テンゼルフィーが前を向くと、既に歩き出していたカスタジェが半身になり、首をこちらに向けていた。

「行くんじゃろ? 行かんのか?」


テンゼルフィーはすぐさまカスタジェの元に向かい、横に並んでからはゆっくりと歩を進めた。


それ以降、二人は互いに何も言わず、前だけを見つめて歩いて行った。


・・・


長老の家に着くとテンゼルフィーに先んじてカスタジェが玄関前に立ち、そのドアを開けた。

屋内にはミレが座卓で編み物をしていた。


ミレは編み物を止める素振りもなく、口だけを動かした。

「ノックぐらいしたらどうなんだい」


カスタジェは微塵も気にする様子は無く、

「お前さんの家じゃなかろ、それでバスカーは何処じゃ?」


ミレに言葉は無く、ただ人差し指で上を指した。


カスタジェは少し頷きながら座卓に向かった。

「物見に出たか。しかしあのオイボレでは遠くは見えんのと違うか?」


ミレは手を止めず、口だけを動かした。

「あたしも止めたさ。まあ、それでも聞きやしなかったがね。年寄りは自覚が無くていけないよ」


カスタジェは腰を下ろしていたが、少し考え、少し笑った。

「テンゼルフィーに喧嘩売るくらいだからの。じっとしているわけもあるまいて。まあ、待つとするかの」


そう言ってカスタジェは自分の飲み物は無いかと、ミレのカップを暫く見つめた。


「自分で入れな」

ミレは顔も向けずに言い放った。


やむなくカスタジェはテンゼルフィーの方を向き、じっと見つめた。


テンゼルフィーはげんなりした様子で肩を落とし、渋々といった様子で動き出した。

「私がやりましょう」


カスタジェは深くゆっくりと2度頷き、愉快そうに笑みを浮かべた。


茶の用意をしながらもテンゼルフィーは背中の二人に声を掛けた。

「カスタジェ様たちの茶を用意したら私は残務があるので戻らねばなりません。ですので少しお待ち頂くことになります」


ミレは「わかった」と答えたが、カスタジェの声はなかった。

おそらく少し不満なのであろう、床が少し軋む小さな音の連続が、カスタジェの方角から聞こえていた。



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