表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
53/67

H-17 ある男

ヨークとメディアは酒場で合流した。

戻ってきたマスターはレチカがいなくなった事を知った。


マスターと呼ばれるこの男


ナーゲン南部にある港町コンドラットは活気に溢れ、日々怒声と歓声、喜声が飛び交っていた。

この港町にひとりの男がいた。


男の名はエルワン


男は貧家の出ではあったが、生まれたこの港町において食には貧せず、丈夫に育ち、

茶色の抑えても膨らんでしまうような頭髪の、羽を剥いだ太った鶏肉のような腕をした偉丈夫になった。

この港町に支部を置く商会の会頭から頑健さを見込まれ荷運び人として迎え入れられた。


ある日、港の荷積み場に山積みしていた切断前の原木の下に置いていた支え木が折れた。

積まれた原木は、一本一本が荷運び人の何十人分もの重さである。

人では止めることも持ち上げることも出来ない。

その原木の山が地鳴りを立てながら一斉に崩れて転がった。

側にいた荷運び人がひとり、崩れた原木に潰され、赤く薄い何かと化した。


転がる原木の先には、幼子がひとり尻をついて海に向かっていた。

幼な子が首から上の重みに耐えきれず後ろに倒れたのを見て、エルワンが動いた。


「おいっ、親は何をしてやがる!」


エルワンが幼な子を拾い上げた時には、すぐ後方から轟ろく豪音が生命の停止が間近だと告げていた。

男は子供を抱えたまま、横にある海へ横飛びした。


転がる原木は飛び込んだ男を追うように海へと落下し、

男の上半身に衝突すると男は結んだ口が解け、大きく空いた口からは気体が泡となって溢れ出した。

回転を続ける原木はエルワンの上衣を巻き込み、人間ごと回転していた。

それでもまだ、男は幼な子を片手で掴んでいた。


衝撃に耐えて口を結び直し、肺に入ってきた海水に体が思うように動かない。

男は体を全力で捻り、上衣を破った。

回転が止まっても海中は暗く、上がどちらなのかもわからない。


その時、苦悶に歪む男の口からまた気体が溢れ出た。

男は苦悶の表情のまま、泡の上っていく方向を見ていた。

1秒にも満たないほどの短い時間のそれは、エルワンにはとても遅く見えた。


エルワンは子供を抱えながら、必死で海上を目指した。

腕と足を泳ぐというよりもがくように動かしながら、少しだけ光の見えるその先を目指して。


––俺はなぜ

––ガラにも無くこんなことを・・・?

––まるで天を目指す愚かな餓鬼だ・・・


口から漏れる気体もなしに、

手も、足も、開いたままの眼球も、動きが止まり、

エルワンの意識は途絶えた。


・・・


・・・・・・・



海上では別の男が自分の腰にロープを漁師結びできつく結ぶと、後ろを振り返って頷いた。


「エルワンか子供を掴んだら2回引け!オレたちがすぐに引き上げてやるからよ!」

そう言って、むさくるしい港の男たちは己の筋肉を誇った。


「頼みます」

男は海面に向きなおると海に飛び込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ