H-16 メディア 酒場
メディアは鍛冶場の火の番を代わってもらい、酒場のマスターと共に酒場に戻る
走り出したマスターの後を追って、私も走り出した。
充分に休んだはずだけどマスターの足が遅くて私はマスターにすぐに追いついた。
「マスター、私は先に酒場に戻っておくから、後からゆっくり来てね」
マスターは私の隣を走りながら苦しそうに首を縦に振った。
「はっ、ああ、さき、に行っ、てくれ」
私はマスターに軽く手を振ってから速度を上げた
大通りと交わるところに荒くれどもが集まってて、
道の真ん中に木材が積まれてた。
たぶんここも灯りと燃やし場として使うんだと思う。
私は荒くれ達に声を掛けた、
「教えて、”Bランク”はどこ?」
荒くれのひとりが雑な言葉で返事をした、
「ヨークの兄貴なら酒場に向かったまま戻ってこねぇ、
こっちもそろそろ腹減ったからメシにして休憩してぇんだよな。
土木作業で疲れ切ったまま魔獣とやり合うとかきっついからよ、
ここのは半ば組み上がってるから後は火つけるだけだ。
おう、何人かグリグリと一緒に酒場行って食い物持ってきてくれや」
ハンターが何人かその声にこたえた。
「俺が行くぜ」
「もう手あがんねぇけど、足なら動くぜ」
「ガハハ、それで魔獣と戦闘できんのかよ!」
「そういうお前だって汗だくじゃねぇか!」
「汗なら俺も負けてねぇぞ」
そう言ってハンターが着ていたシャツを脱いで両手でひねって絞ると、
雨の日のシャツみたいな量の水分が地面に落ちていった。
「伝言は預かっておく、もうちょっと頑張って」
そう言って私は酒場に向かって走り出した。
後ろで何か聞こえる。
「アイツ、いい女だよな」
「ああ」
「でも兄貴のお手付きだろ?」
「あ?アニキの好みはもっとこう、膨らんでるだろ」
「おお、確かにな」
聞こえてるんだけど!?
私は道に落ちてた石を掴んで思いっきりあいつら目掛けて投げてやった。
すぐ振り向いてまた走り出したから、あの石がどうなったかは知らないけど、
後ろの方で罵声と笑い声が響いてた。
酒場に着いた時、"Bランク"と面長の男が机を挟んで話をしていた。
"Bランク"は私に向かって手を挙げてこたえた。
「おい、戻ったならそっちの具合を教えろ」
私は少し憤りを感じながら机に向かった。
「"教えろ"の前に労いの言葉は無いの!?
これだからハンターは野蛮だって言われるのよ」
"Bランク"は机を叩きながら凄い形相で私に怒鳴った。
「うるっせぇな、さっさと説明しやがれ。
時間がねぇことくらいわかんだろ!」
私はまだ納得いってないけど、時間が無いのは確かだ。
机の上には紙があって、すっごく雑なやぐらの配置を書いてあった。
「鍛冶場は火を入れてきた、辺境の村だけど溶解炉があったからそっちも炭炉にしてある。
火の番は村のお爺さん達がしてくれてる」
「途中のやぐらは?」
「もう完成して火を入れるとこ」
「そうか、そろそろ休憩して備えといた方がいいな」
「彼らもそう言ってた、あと食事もしたいって」
"Bランク"は頭を掻きながら私を見た、
「チッ、そういやそうだな。
ところで、酒場のマスターは戻ってこねぇのか?」
「もう少ししたら戻ってくると思う」
"Bランク"は机をまた叩いて声を荒げた、
「”思う”なんて報告してんじゃねぇよ!
こねぇのか?
くんのか?」
「来るわよ!マスターは料理人なんだから、あんたらと一緒にしないで!」
「最初からそう言え、素人か!?」
私は細剣抜きそうになったけど、我慢したけど、
我慢しきれなかった分が言葉になって口から出た。
「もっと言い方ってものがあるでしょ!?」
私は"Bランク"を睨んで、
"Bランク"は私を睨んでた。
「俺が優勝〜!」
酒場にハンターがぞろぞろと戻ってきた。
「お前の装備が軽いだけだろ!」
「悔しいなら軽装に代えればいいだろ、負け犬が」
「前面で体張ってる俺に言うか?」
「それはそれ、勝負は勝負だぜ!」
5人のハンターが、やいのやいの言いながら酒場に入ってきた。
その後ろに膝に手をついて、肩で息をしてるマスターがいた。
私はマスターのところまでいって背中をさすった。
「ちょっと、マスター大丈夫?」
「ああ、大丈夫、少し、待ってくれ」
マスターはすっごいゼハゼハしてて、倒れないか心配だった。
「マスター、すぐにハンター全員分のメシを用意してくれ。
簡単なものでいいからよ」
"Bランク"の声だった。
私は"Bランク"を睨んだ。
「マスターがつらそうなの見て分からないの!?
少し休ませてあげなさいよ!
その頭の中、筋肉でも詰まってるの?」
酒場が一斉に沈黙した。
全員が"Bランク"を見た。
誰かがボソッと呟いた。
「酒が入ってるんじゃね?」
「いや、女だろ・・・」
「兄貴なら頭ん中にもう一本ナニが生えてるかも知れねぇ!」
「ぶはは、それじゃカブトムシだろ!」
「プクク、そっちのナニの方が強そうだ」
ハンター達は下世話な話で大笑いしてる。
"Bランク"も釣られて笑ってるし、
こいつらって、ほんと馬鹿だと思う。
「あーーーーー、うっせ、ウッっセーーーーーなあ、おい!
確かに俺は脳みそ足りねぇよ!
クソッ、笑い過ぎだオメェら。
時間ねぇんだっての、給仕の姉ちゃんもどっか行っちまったし」
私の横にいたマスターの背が起きていった。
「レチカがいないのか?」
"Bランク"が周りのハンターに絡まれながらこたえた
「ああ、そこのドアから奥に行ってそのまま戻ってこねぇ」
マスターはドアを見つめたまま、動かなかった。
私はマスターの腕をポンポン叩きながら声を掛けた。
「マスター・・・どうしたの?」
マスターはゆっくりと私の方を向いたけど、顔には表情が無かった。
「俺の妻は、あのドアから出ていって、それから帰ってこない」
私はハッとして奥のドアを見た。
マスターに目を戻すと、彼の腕は震えていた。




