E-15 カスタジェ 休日と遭遇4
カスタジェはフォルランが長くないと聞かされて・・・
カスタジェはガークァの口にした内容に絶句していた。
大樹に張られた結界のこと、
おまけに白き翼との戦争じゃと・・・
破壊したとて森神フォルランは・・・
起こすか殺すなどと、神に対してそれが可能だと?
カスタジェは顔を上げ、ガークァを見つめた。
「教えてくれ、我々エルフはどうすればいい?」
ガークァは大きな瞳でまばたきをひとつした。
「何もする必要はない、
大樹の結界は僕が壊す。
調律者に死なれると、後が面倒になる」
カスタジェは顔を突き出して身を乗り出した。
「儂らにただ、見ていろと?」
「そうだよ」
「それは儂らが弱いからか!?」
「そうだ」
カスタジェは苛立ちを抑えられなかった。
振り絞るように叫ぶ。
「儂らには未来を選ぶことも出来ないのか!」
ガークァは平然とした態度を崩さない、
「そうさ、弱者に世界を選択する資格はない。
与えられたものをありがたく享受するがいい。」
カスタジェは下を向きながら右足で土をかいた。
「君が死んだ後、君の代わりに調律するものはいるか?」
かけられた言葉に、
カスタジェは顔を上げて大フクロウを見上げた。
「ああ、おるよ。まだ若いが優秀で勤勉だ。自慢の弟子じゃよ」
大フクロウは両足とびで湖に向き直った。
「わかった。フォルランがどうなるにせよ、
君たちは森を捨てる準備だけはしておいてくれ。
いつか森に戻るときに、調律者がいないのでは話にならない」
カスタジェは問いかけた
「我々エルフが森の外で生きていけるのか?
もうすぐ冬になるのだぞ・・・」
ガークァの顔がカスタジェに向く
「ここにいたら死ぬよ、眠ったままのフォルランに穢れは止める力は無い。
それを調律者ごときがどうにか出来るものか。
大樹の結界を破壊してフォルランを起こして、その間に何か手立てを考える。
或いは
フォルランを殺して代わりに神を立てる、
この場合、
神が育つまでは森の外に逃げるしかないだろうね」
カスタジェは力無く頷いた。
「わかった。準備だけはしておこう」
ガークァの顔がカスタジェに接近してくる。
「忘れるな、調律者がいないエルフに価値は無い。
後継の育成を怠るなよ。君が死ぬ前に最低でも二人は調律者を残しておけ」
カスタジェは失笑しながらこたえた
「儂はあと1年保つかどうかなのだろ?
残せるのはひとりだけじゃな」
ガークァは不愉快そうに嘴を激しく鳴らした
「せめて穢れから遠ざけておけ、
君の近くにいるのも元来望ましく無いんだ」
カスタジェは自嘲した
「儂自身が穢れということか・・・」
ガークァは猛禽の眼を大きく開いてカスタジェを見つめた。
「君自身もよくわかっているはずだ、調律者なのだから」
カスタジェは猛禽の目を覗き込んだまま、呟いた。
「で、あろうな」
ガークァは羽の手入れを再開し、カスタジェは沈黙した。
一人と一匹は立ったままで、そのまま時間だけが過ぎていった。
既に秋の終わりの夜風は冷たく、
カスタジェは少し震えながら上衣の襟を閉めた。
目の前に広がる湖面には、青い月の光が差し込まれて輝きを放っていた。
幻想的な光景の中、毛繕いを終えたガークァが沈黙を破った。
「僕はそろそろ行くよ、準備を忘れるなよ」
カスタジェは頷いた。
「ガークァ、おぬしの名前を聞いていなかった。
名はなんという?」
ガークァが二度まばたきして首を傾ける
「名前に意味があるのかい?」
カスタジェは少し笑った。
「次に会った時に挨拶くらいしたいからの。
名を教えてくれんか?」
ガークァは首を傾けたまま目を閉じ、
暫くそのままだったが、やがて目を開いた。
「名を教えることは出来ない、
どうしても呼びたいのなら、そうだな・・・
キュロッカと」
カスタジェは笑顔を作り、胸の前で手を組んだ
「賢者キュロッカよ、祈りの守人カスタジェがエルフを代表して申し上げる。
貴殿に返せるものは何もないが心から、百の感謝を送る」
ガークァも笑った。
「僕も貢物の礼をしただけさ。
調律者カスタジェ、肉食のガークァに穀物を献上した愚か者よ、
君が森に還ることよりも、森があることを望む」
言い終わるとガークァは両翼を開き、土埃をたてながら飛び上がった。
上空で暫く滞空してから、そのまま北西の方角に飛んで行った。
カスタジェはその姿が見えなくなるまで、それを見つめていた。




