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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
48/67

N-15 ゼマン 後処理

貧民街から脱出し、教会でアルテタと合流したクープランとゼマンだったが、

後処理のために大商店に向かうことに


ゼマンはクープランと共に貴族街近くの商家に来ていた。


商家は大きな門と木々の植えられた庭があり、その奥に建物があった。

建物のドアの上にはこの大陸レプスタンの文字で"ドーフマン商会"という文字が刻まれていた。


ゼマンは商家の門をくぐったところでクープランに目配せをした。

「では、手筈通りに」


クープランは頷いてから、建物横の物陰へと移動した。

それを見届けてゼマンは建物を見上げた。


(さて、事後処理をしましょうか)



ゼマンが建物のドアを開けると執事服のような制服を着た年若い女性の店員が近づいてきた。

「ようこそドーフマン商会へ、私はウネルマと申します。

 お探しのものは何でしょうか?」

そう言って完璧な笑顔を浮かべた。


「お客でなくてすみません、

 モルチッヒ殿がこちらにいらっしゃると思うのですが、お呼び頂けますか?」

ウネルマは少し驚いた顔をした後、真面目な顔になった。

「モルチッヒ様の御客人が来たら、客間に通すように当店の主人より申しつかっております。

 私がご案内致します」

彼女は言い終わると足を引いて一礼し、くるりと後ろを向いて歩き出した。

ゼマンは彼女の後ろをついて行った。


1階も立派だったが、2階に上がると格が違った。

彫刻の施されたテーブル、美しく磨かれた高級な毛を使用したソファ。

薄い翡翠色の花瓶、歩いても足音のしない分厚い絨毯。


ゼマンは財を尽くした装飾品に目を奪われて、足取りが少し遅くなった。

(さすがは貴族御用達の大店、大したものだ)


ゼマンは少し先に進んでいたウネルマを追った。


廊下をしばらく進むといくつかのドアがあり、

ウネルマは足を止めてドアをノックした。

「ウネルマでございます。モルチッヒ様のお客様をお連れいたしました」


ドア向こうからは低い声が返ってきた。

「入ってくれ」


「失礼致します」

ウネルマが入り、ゼマンが続いて入った。


目の前に眼光の鋭い、髭を蓄えた男が高級そうな椅子にどっかりと座ってこちらを見ていた。

商店主ドーフマンだった。

それに対面する形で背中が見えていた男が立ち上がり、ゼマンに笑いかけた。

「先ほどはお忙しい時に失礼しました。

 わざわざご足労いただき、すみませんな」


ゼマンは薄幸そうないつもの表情のまま、一礼した。

「お待たせして申し訳ない。早速商談に移りたいのですが。」

そう言ってドーフマンの顔を伺った。


ドーフマンはフンと鼻を鳴らしてゼマンを睨んだ

「エレムの神官が何用でモルチッヒを尋ねる?

 エミルに多大な献金をしている大商会の主としては見過ごせんな」


ゼマンは表情を崩さない

「行商人だからこそのご相談です。

 小さな取引ですよ、

 エレム教会の懐具合は、あなたならご存知でしょう?」


「知っているとも、教会の修繕も出来ない貧民街の住人どもの教会だろう、

 貴様が奴らに施しなどするから、一向に貧民街が綺麗にならん」


「エレムは生きる意思ある者を支えているだけです。

 それにエミルとエレムは親友なのですよ」


「だ、か、ら、潰さずに我慢してやっているだろうが!」

ドーフマンの目はゼマンを不愉快そうに見つめた。


パンッと合掌して、

今までずっと黙っていたモルチッヒが口を開いた。

「私は明日にもナーゲンを発たねばなりません、ですのでドーフマン殿。

 このモルチッヒにも小さな儲けの機会を頂けませんかな」


ドーフマンはモルチッヒをゆっくり見てから、鼻を鳴らして渋々立ち上がった。

「まあいいだろう。どうせ砂粒程度の瑣末な取引だ」


モルチッヒは苦笑しながら頭を掻き、

ゼマンは手を胸の前で組んで店主に一礼した。


ドーフマンは大きな足音を立てながらドアに向かい、

顎でウネルマに合図してから部屋から出て行った。


「私はドアの外におりますので、ご用があればお呼びください」

そう言ってウネルマも部屋から出て行った。


ゼマンはドアが閉じたことを確認して、

モルチッヒの隣の椅子に座った。


モルチッヒは笑顔のまま、ゼマンに向かって座り直して声をかけた

「ご相談したいのは、何でしょうか?」


ゼマンは少し下を向いたままだった。


「ナーゲンフィルの貧民街の住人はかなりの人数になります」

「そのようですな、ドーフマン殿にとっては邪魔なようですが」


ゼマンは顔を上げてモルチッヒを見つめた。

「彼らに事業を起こさせることは可能でしょうか?」


それを聞いてモルチッヒの目が鋭くなった。

「ほう、それはそれは・・・

 神官様は面白いことをおっしゃいますなあ」


モルチッヒの目つきは元に戻り、何やら思案げな様子になった。


ゼマンは続けて言った、

「ついでに、もうひとつお聞きしたい」


モルチッヒの目はゼマンに向いた、

「私にわかることであればいいですが」


ゼマンは少し目を細めて喋り出す、

「少々おかしな質問に見えるかもしれませんので、

 今日の私とのやりとりは口外しないで頂きたいのですが、

 よろしいでしょうか?」


モルチッヒはゆっくりと頷いた。

「商人として契約は口外致しません。

 エミルでもエレムでも誓いを立てましょう」


ゼマンの表情は変わらない。

「かたじけない、では右手を上げてください。

 そう、手のひらは私に向けてください」


ゼマンは座ったまま、右手を上げ、穏やかな口調で声を抑えながら言葉を紡いだ。

「ヴィッガーデア、オードルマフ」


薄い白色の光がゼマンを包み、モルチッヒの身体も光に包まれた。

モルチッヒは不思議そうに光を放つ自身の右腕を角度を変えながら眺めていた。


数秒の後、白い光は収まり、消失した。


モルチッヒは興奮気味に声をあげた、

「これを見れただけでも充分誓いの価値がありますな。

 ゼマン殿は高位の神官であらせられたか。」


ゼマンは微笑を浮かべた。

「いえ、私は潰れかけの教会の神父に過ぎませんよ。

 ところでその・・・質問なのですが」


モルチッヒは居住まいを正してゼマンに向き直った

「そうでしたな、伺いましょう」


「貧民街の住人なのですが・・・」

ゼマンは鋭い眼差しでモルチッヒを見つめた。


「いくらなら買いますか?」



モルチッヒの呼吸が止まった。


誤字修正しました

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