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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
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E-14 フーヴェルの目覚め

引き受けの負荷で、崩れ落ちるように眠っていたフーヴェルだが


フーヴェルは暗い闇の中を誰かに追われ、

ぬかるんだ地面と戦いながら前に、前にと走っていた。

自分の前にも誰かが走っている。

理由もわからず、そうすべきだという義務感に責め立てられて、

その誰かを追っていた。


どれだけ走っても、息が苦しくても、前を走る影との差は縮まらない。

走りながら後ろを向くと、迫ってくる影との差は縮まっていた。


フーヴェルは前を向いて走り続けた。

前を走る影との差が縮まらずに開いていく、

背後の足音はぬかるんだ地面を走る音が大きくなっている。


フーヴェルは振り向かずに走った。

暗闇の中で低い鐘の音が聞こえてきた、

それは2回鳴り、

時間を空けてまた2回鳴った。


上空から獣の叫び声が聞こえる。

もう止まってしまいたい、

でも走らなければいけない

私を追うのは誰・・・

私の前にいる人は誰・・・


視界が急に明るくなり、騒音が強くなる。

フーヴェルはそこで倒れた。



「・・・ル・・・」



「・・・ル・・・き」



「お願いフーヴェル! 起きて!」

フーヴェルが目を開けると、暗い闇の中、見慣れた自室の天井があった。


誰かに肩を揺り動かされて、顔だけをそちらに向けた。

「あなた、大丈夫なの?」

近所の家に住む2児の母、深い金色の髪を束ねて右肩から前に垂らしたカイメッセの不安そうな顔が見えた。


フーヴェルはカイメッセの顔をぼんやりと見つめながら呟いた。

「私は、生きているんですか?」


カイメッセは横たわるフーヴェルを抱きしめた。

「あたりまえじゃないの、どうして、

 どうしてそんなことを言うの・・・?」


フーヴェルはカイメッセの体温を感じながら、

自分の体温が他の者より低いこと気にした。

「どうしてなんでしょう、わかりません。

 何か夢を見た、と思うのですが」


カイメッセはフーヴェルの両方を掴んで顔を近づけた。

「あなた、うなされてたのよ。

 ノックしても返事がないし、心配で勝手に入らせてもらったわ。

 マンドラゴラの叫びみたいだったわよ」


フーヴェルは苦しそうに笑顔を浮かべてカイメッセの顔を見つめた

「ご心配をおかけしました。

 私は大丈夫です、ちょっと無理をしたので疲れてしまっただけだと思います」


カイメッセの顔はフーヴェルを見つめたまま動かなかった。

「こんな説得力のない大丈夫は300年生きて初めて聞いたよ。

 つらい時はつらいって言いなさい。

 やせ我慢するには100年早いのよ」


フーヴェルの顔は少し歪んだ

「はい」


カイメッセは大きな溜め息をついた。

「まったく、どうなっているの。

 フーヴェルはこんな顔色でうなされてるし、

 湖では精霊の魔法が飛び交ってたし」


フーヴェルの視界はぼやけていたが、カイメッセに問いかけた。

「湖で何かあったんですか?」


カイメッセは居住いを正しながらフーヴェルに向き直った。

「精霊が矢を放つなんて只事じゃないの

 精霊の怒りを買うような愚か者はエルフにはいないのよ。

 守衛隊から何人か湖の方に向かったみたいだけど、

 荒事になりそうで心配でね、

 カスタジェ様とあなたにも行って貰いたかったのだけど、

 その様子じゃ無理ね。ちゃんと休んで」


カイメッセはフーヴェルの腹部を優しく、ポンポンと2度叩いて立ち上がった。

「後で擦りおろした果実を持ってくるわ、起こしてごめんなさいね」

言い終わるとドアから出て行った。


フーヴェルは閉まったドアを夜闇の中、見つめた。


(カスタジェ様にどんな顔で会えばいいの?)

(傷を見られたらどうすればいい・・・)


(カスタジェ様は・・・)


フーヴェルの脳内でズキリと痛みが走った。

(祈り明けにカスタジェ様は湖に散歩に行く)

(私がいつも一緒に歩いた、きっと今日も湖に行ったはず)

(ひとりでも・・・)


フーヴェルの目が徐々に大きく開いていった。


(カスタジェ様が倒れていたら、私のせいだ)


フーヴェルはベッドから起きて足を床につけた。

痛みがフーヴェルに呻き声を出させた。


フーヴェルは両手で自分の髪を手櫛で後方に引き、

顔に突っ張る感触を覚えて手を離した。

そしてドアを開け、月明かりが頼みの夜空の下を病人のような足取りで、カスタジェの家に向かって歩き出した。


歩きながら自分の右袖を捲り上げると、変わらぬ白い細腕が見えた。

フーヴェルは袖を戻しながら前を向いて歩き続けた。


カスタジェの家は普段なら徒歩で3分もあれば着くが、

いまのフーヴェルにはいつもよりも遠かった。


カスタジェの家が見えた時、そこに灯りはなかった。

フーヴェルは足を引き摺るように走り出した。

カスタジェの家のドアを開け、ソファに姿を探したがカスタジェはいなかった。


フーヴェルはうなだれ、両手で顔を覆いながら顔の皮膚を掴んだ。

強く息を吸う音と強く息を吐く音が連続した。

数秒の後にフーヴェルは呼吸を整えながら両手をだらりと下げ、カスタジェの家を出た。


(カスタジェ様、どこにいるのですか?)


フーヴェルは家の外に立て掛けられたカスタジェの予備の杖を手に取り、

杖に体重を預けながら歩き出した。


(もしかしたら、まだ湖にいるのかもしれない・・・)


青い月の照らす夜闇の中、

歩くフーヴェルの姿勢は丸くなっていたが、

顔と目は真っ直ぐに向いていた。




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