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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
39/67

N-12 アルテタ 見えたもの聞こえたもの

アルテタは木箱に隠れ、麻袋を見守る


床に置かれた麻袋は少しも動かず、

見張られるだけの荷物と化していた。


時間だけがじっとりと過ぎていく。


やがてドアが再び開いた。

ドア奥から現れたのは、目つきの悪い痩せ細った女。

その女は

「ワグパ、何か変わりは?」

そう言って監視していた男を見た。


ワグパと呼ばれた監視していた背の低い男はこたえた、

「ずっと寝たまま、起きない」

女は鼻を鳴らした、

「そう、ならいいわ。お迎えよ」


ドアからさらに男が入ってきた。

その後ろにもう一人、神官服のゼマンが見えた。


ゼマンは部屋に入って麻袋を見つけると、細い女に向かって言った、

「ずいぶん丁寧な扱いをしていただいた様ですね」

女はゼマンの言葉を受けて返す、

「傷なんかつけちゃいないよ、ほら、確認するなら早くしな」


ゼマンは麻袋に向かおうとしたが、ワグパと呼ばれた男に止められた。

「顔見られたら、殺す。だから出すなら、これ使う」

そう言って厚手の麻袋を左手に取った。

ゼマンは男を睨み、やがて諦めて頷いた。


背の低い男は

「待ってろ」

とだけ言って、麻袋を人のいない奥側に持っていき、再び横倒しにした。

中身を壁に押し付けながら、麻袋の締め紐を解いた。

剥ぐ様に麻袋をめくり、足が見え、下半身が見え、上半身が出た。

それから中の人物の顔を壁側に向け、

首筋から顔を掌で押さえつけながら麻袋を剥がした。

押し付けたままの体勢で男は声を出した。

「今ならいい、来い」


ゼマンは彼に近づき、押し付けられた人物の顔を上から確認すると、顔が見えた。


「結構です、間違いありません」

ゼマンの言葉を合図に、男は厚手の麻袋をクープランの顔に被せ、首に紐を絞めた。

そしてクープランを掴んで肩に背負った。


「もういいだろ?

 済んだなら出すもの出しな」

女がゼマンを呼ぶと、ゼマンは女のいる方に向かった。


「交換は、貧民街出口でお願いします」

ゼマンがそう言うと、女は軽く2回頷き、

「なら行こうじゃないか」

とだけ言って、くるりとターンしてドアから出ていった。

ゼマンがその後に続き、ワグパと呼ばれた男もそれに続いてドアから出た。

後ろからは隣室に控えていた者がぞろぞろと続いた。


無人になった室内に、困惑するアルテタだけが取り残された。

(王子・・・私はどうすれば・・・)


少し考えてからアルテタが水路に戻ると、

来た方向とは逆側にゼフがいた。


ゼフは少し呆れた顔を浮かべて手をあげ、アルテタはそちらへ向かおうとしたが、

ゼフは両手で"止まれ"のサインをしながら接近し呆れ顔だった、

「おっさん、出口はあっちだろ?

 見た目より老いぼれてんのか?」

アルテタは弁明した

「別の出口から出るのかと思ってな、すまん、違ったようだ」

ゼフは気にする様子もない、

「俺が先に行くからおっさん一回立て、邪魔!」

人差し指で上を指した。


アルテタは木箱に戻り、足元をゼフのために空けて通らせた。

木箱の底に隠し蓋のようなものがあったので、

水路が隠れるように設置し、戻ってゼフを追った。


水路から出て一息ついたのも束の間、ゼフは真剣な顔をしていた。

「ついてこい、ただ俺より前には絶対出るな」

アルテタは頷いた。


ゼフは出口で顔を振って左右と上を確認し、

目を閉じて耳に手を当てて音を確認した。

「こい」

ゼフは歩き出した。

アルテタはそれに続いた。


アルテタは背後を歩きながら、常に顔を振り続ける少年を見ながら思っていた。

(まだ少年なのに優秀な斥候だな・・・)

(足音が猫のように静かだ)

小道を抜け、家の角を抜ける手前で少年は立ち止まった。


アルテタは待った。


ゼフはこちらを振り返り、口元に人差し指を立てながら呟いた。

「貴族がいる」


ゼフが退いたのでアルテタも壁から覗くと、

少し遠い家の影に商人風の男が少しだけ見えたが、顔はよく見えなかった。

アルテタは身体を引いた。

「商人ではないのか?」

ゼフは首を振った、

「あれは貴族だ、あんな偉そうにしてたら商人はすぐ廃業だよ」

アルテタは納得して頷いた、

「なるほど・・・

 って、ん?

 この距離で聴き取れるのか?」

ゼフは我関せずでこたえた、

「少しならね」


アルテタは少し思案し、ゼフに向き直った、

「頼む、聴き取った内容を教えてくれるか?」

ゼフはアルテタを見つめた

「報酬は?」

アルテタは頷き、ゼフにこたえた

「半分の約束を全部にする」


少年の瞳は激しく輝きを増した、

ゼフは両頬を両手で捻って擦り、両耳を起こすように耳に手を当てた。


そして停止したように微動もせず、聴き取った音を伝えた。

「若い奴隷が足りない、

 急ぎで、

 7日以内、

 20人、

 アルクバ、

 半分は死体でいい」


ゼフはアルテタに振り向いて眉を寄せた、

「なんだこれ?」


アルクバはナーゲンフィルから西にある小さな農村だ。

馬車で2日だが、奴隷が必要な土地ではない。


服を引っ張られてアルテタは覚醒した、

「おっさん、やべぇ、人が来る、早く行くぞ」

アルテタは慌てて頷くと、既に歩き出したゼフを追った。


ゼフに案内されて貧民街を抜けると、ナーゲンフィルの工匠通りに出た。


ゼフはアルテタにくるりと向き直って言った

「案内はこれで終わりだ、あんたの財布は貰っとくぜ」

アルテタはアテが外れ、ゼフに問いただした、

「私は人質のところへ向かうものだと思っていたのだが・・・」


ゼフは鼻をひとつ鳴らし、アゴを突き出して胸を張った。

「俺の仕事は入れるのと出すのだけだ。それ以外は知らねぇ」

アルテタは「そうか」と言って頷き、ゼフを見つめた、

「感謝するぞ、ゼフ」

ゼフはアゴを上げながら笑った。

「クハっ、騎士くずれに感謝されると痒くなりそうだ」

アルテタも笑った

「ハハ、そうか、それは悪かった」


アルテタは右手を開いてゼフに差し出した。


ゼフは一歩下がって逃げ出せる姿勢になった。

「金なら銅貨一枚返さねぇぞ・・・」


アルテタは少し笑みを浮かべてゼフの目を見た、

「握手をしよう、ゼフ!」


ゼフはさらに逃げの姿勢になった。

「おっさん、気持ち悪いぞ・・・」

「何を言う、友情の握手だぞ」

「うっあ、鳥肌たったぞ馬鹿!

 もう行くわ、

 おっさんも苦労してそうだけど達者でやれよ!」

そう言ってゼフは商店通りに向かって走り出した。


アルテタは消えて行くゼフを眺めながら、エレム教会へ歩き出した。


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