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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
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E-11 フーヴェル 密やかに家に戻る


朝陽が登ってなお、森の中で痛みに耐え、痺れに耐えながら、

まだフーヴェルの意識は僅かに残っていた。


「家に戻って手当てしないと」

フーヴェルは顔に苦痛を滲ませ、

ゆっくりと背を曲げた中腰になるまで、起き上がった。

ふらつく足を支えようと手を膝につくと、胸と下腹部への痛みで膝から崩れそうになった。


フーヴェルは森の中を通って自宅へ向かった。


里の者は皆、音に敏感なので慎重にゆっくりと歩みを進めた。

自宅が見える場所まで進んでから髪を整え、着衣を整え、深呼吸した。


(里の人にも気づかれてはいけない)

(カスタジェ様に伝わってしまう)

(いつも通りにしなければ・・・)

(額の傷は前髪で隠したけれど、髪に血がついていたら色で見つかるかも)

(でも、泉に戻って洗い流す余裕はない・・・)


フーヴェルは自宅までの道に人がいないことを確認し、

もう一度息を深く吸い込んで、吐き出さずにそのまま背筋を伸ばした。

胸部の激痛がフーヴェルの顔を歪ませた。

背筋を伸ばしたまま、少しずつ息を吐き出して、

少しずつ呼吸を整える。


意を決して深く息を吸いこんで、フーヴェルは森から里に出た。

歩行の振動で内臓が叫び出す、耳鳴りが止まらない。

一歩進むごとに激痛と内臓を走る寒気で、意識が飛び掛ける。

それでも構わず、進んだ。


家がもう目の前に見え、フーヴェルは足を早めようとした。

視界は歪み、目から口から鼻から、液体が漏れ出している。

既に体に力も入らず、倒れそうな状態だった。


「おう、フーヴェル。いい朝だな」


遠くから声が聞こえた。

耳鳴りで誰の声かわからない、

どこからの声かもわからない、


このまま家に入ってしまいたいという本能にフーヴェルは抗った。

停止の振動が内臓を揺らし、膝を震わせ、見える世界を遠ざけた。

苦悶に満ちた表情のまま、フーヴェルは片手を上に伸ばした。

激痛が強烈に意識を刈り取ろうと責め立てる中、

フーヴェルはもう片方の手を日除けのように目の上に翳し、

振り返って少し手を振った。

前は見えていなかった。


すぐにフーヴェルは手を戻し、家のドアを開けて中に入ると、

ドアを後ろ手に閉じながら床に崩れ落ちた。

呼吸が苦しい。

横になってうずくまり、堪えきれない悶え苦しむ声が漏れた。

そのまま10分も上り下がる痛みとの戦いが続いた。


ようやく少しおさまると、中腰になって水場に向かい、顔を洗った。

流れていく水の透明な中には赤い模様が混じり、

額からは痛みがしてきた。


フーヴェルは自嘲した。


"痛みもなく体が腐るようなら儂は狂ってしまうわい"


カスタジェの言葉を思い出して、泣きながら自嘲した。

額の痛みが嬉しかった。


生きているゆえの痛みはきっとこれが正常で、

あれはきっと異常なものだと感じたのだ。


フーヴェルは顔を拭き、置き薬草を擦って額に塗った。

それが終わるとベッドに向かい、そこに横になった。


絶え間ない激しい鼓動のようにやってくる痛みに耐えながら、

徐々に意識が遠のき、フーヴェルは眠りに落ちた。




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