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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
3/65

E-1 祈りの守人カスタジェと教え子フーヴェル

エルフの女フーヴェル編 第0話


上だけ繰り抜かれたような古木の中、

降るような光を浴びた石像の前に

銀色の長い髪のエルフの女がひざまづき、祈りを捧げている。

口を開くと

「エディク リラ ノスト」

と呟いた。


「いつまで続けるつもりじゃフーヴェル、祈りで腹は満たせぬぞ」

後ろから声を掛けた老人は金色の長い髪を頭の上で纏めている、

好好爺らしくクシャリと微笑を浮かべる。

歩み寄りながら言葉を続ける、

「祈りは儂の仕事じゃ、若いものにさせる仕事じゃない

若いものは耕し、狩り、森を守れ。200年も経てば老いる、然る後に祈れ。」

フーヴェルと呼ばれた銀色の髪のエルフは立ち上がり、胸の前で手を組んで老人に対面する

「カスタジェ様、お身体は平気なのですか?」


カスタジェと呼ばれた老人はカッカと笑って答える

「平気なわけ無かろ、そこらじゅう痛いわ。

 しかしまあ、痛みがあるというのは

 生きている証でもある。

 痛みもなく身体が腐るようなら、

 きっと儂は狂ってしまうわい」

そう言って袖を捲ると右肩から手首に近いところまで

真っ黒くなっており、黒い瘴気を発していた。


フーヴェルは目を背けずにそれを見ていた。

「まだひとつきも経たないのに、その進み・・・

 これは一体・・・?」

フーヴェルは瘴気を放つ右腕に触れようとして


「迂闊に触れるでない、力の無い者が触れればたちまち食われるぞ」

カスタジェは一喝して袖を元に戻し、

「とはいえ、森神フォルランの加護が薄れているのは間違いなさそうじゃの」

そう呟いた。


フーヴェルは堪えきれず口を開く、

「ですから、私が大樹まで行くと申し上げています、

 私なら2週間で辿り着けますし、カスタジェ様は私の師匠です、

 まだ枯れてもらっては困るのです。

 私に行かせて下さい。」


カスタジェは呆れた顔でフーヴェルを見つめた

「儂は十分に生きた、古木は倒れ、腐り、森に還るのがエルフというものだ

 もうお前は十二分に成樹となったさ

 気持ちだけは嬉しく思うが、教え子を危険には晒せぬよ。

 お前は早よ狩りにでも行け、儂はこれで良い、これで良いのだ」


フーヴェルは食い下がらない

「カスタジェ様がいなくなったら私が祈りの守人なのですよ

 私の実力をわかった上で仰っているのですか?

 カスタジェ様の片手にも満たない実力なのですよ?」


カスタジェは少し考えて答える

「大丈夫じゃよ、多分

 100年もすれば、この老いぼれなど

 ひょいひょい追い抜いておるさ」

フーヴェルは頭を掻きながら言う

「ですからその間に何かあったらどうするんです?」

「ないない、ここはエルブの森じゃぞ

 1000年なーんも起きとらんわ

 些細なことなら他の者もおるで、心配いらん

 本当に肝の小さい奴じゃな、めんどくさい」


フーヴェルは深く溜め息を吐きながら

涙が溜まった目を向けた。

「カーッ、その目はやめんか。

 お前は見てくれはエルフの中のエルフなんじゃ

 自分の破壊力を自覚せんか、外でやりおったら攫われるぞマジで」


涙を堪えてフーヴェルは口を開く

「嫌なのです、カスタジェ様にはずっと居て欲しいのです・・・」

「わしゃまだ暫くは生きるぞ」

「足りません」

「お前、まだ老体に古木のまま立てというのか?」

「そうです」

「労りは無いのか?」


フーヴェルは答える

「・・・お仕えしたいのです。これからも

 共に古木が森に還るまで」

カスタジェは目と口を丸くしてしまった。

「そういう言葉は相応しい相手に言え

 お主なら引手数多じゃろ

 儂は無しじゃ、半分腐っとるしの

 ほれ、さっさと出て行け。

 祈りの邪魔じゃ」

そう言ってカスタジェはフーヴェルを社から追い出した。


外に出たフーヴェルは社を振り返り、口をひらく

「それでも側に居て欲しいのです、望まれていなくても・・・

 私の・・・」


陽光差す里に、紅い落葉が見える。

実りの季節が終わり、これから冬になる。

狩りに出よう、冬の蓄えはもう少し無いと心細い。


フーヴェルは腰のナイフをポンポンと叩き、

ウサギのような動きで森に消えていった。






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